2015年03月29日

「○○向け」と世界を狭くするな

これは女同士しか共感できないとか、
モテナイ男にしか分からないとか、
関西人にしかわからんやろこれとか、
日本人しか分からない感覚とか、
沖縄人しか分からない感覚とか、
極論すれば俺しか分からないものとか、
そういうものが沢山世の中にはある。

しかし、それをなるべくわかろうとする話と、
分からない人は見なくていいです、と拒否する話がある。

僕は、前者を書くべきだと思う。


どうして少女漫画を少年は読まないのか。
どうして少年漫画を読む少女がいるのか。
これを上手く解明している人はいるのか。

男と女は違うのだという話は沢山ある。
星占いは、性格の差を12に分類したものだ。
地方によってあまりにも習慣や考え方や、哲学すら違う、
というのは「県民ショー」が、
上手くバラエティー化している。

人と人は違う。
集団と集団も違う。
ある集団の中の人も、人によって違う。

その違いが、そもそも人間ドラマの原動力である。


人間ドラマとは、要するに、
違いを認める過程と、
その違いから和解に至るまでか、
否定しあう(殺しあう)までを、
描くことなのだ。

これを物語論の言葉でコンフリクトと呼ぶことは、
既に知っているだろう。


だとすると、
その違いや、その和解に至る痛みや、
和解の良さや、人の思いや、
殺したいほどの気持ちに、
我々は感情移入しなければならない。

女特有のことが描かれているなら、我々男も共感したい。
逆も真だろう。
関西人が東京に来て苦労する話なら、
関西人以外もその孤独感や文化の差に戸惑うさまを、理解したいだろう。

それを、分からないならいいです、
と切り捨ててはいけない。

なるべく分かるようにする。
それは感情移入の為である。

好きではない人に感情移入は可能である。
その人の事情を理解し、その人の本当の気持ちが分かったときだ。
(それが好ましい感情ならば同情に、
忌まわしい感情なら恐怖や憎しみになるだろう)


関西人が嫌いな人が、
自分の大事にしているもの、
例えば友人からの笑いを大事にせよという意味のプレゼントを、
東京の人にダサいと馬鹿にされ、
それを人前で見せなくなるシーンを見れば、
例え関西人が嫌いでも、「その人」には感情移入する。
そのプレゼントを堂々と人前に出すラストの為に、
笑いは凄いんだ、と周囲を変えていく話なら、
その先も惹き付けられていくだろう。
そして、笑いというものの素晴らしさを知るだろう。

あるいは、女特有の生理は、男は嫌いだ。
多分女も嫌いだろう。
しかし男が嫌いなのは、気分に法則性がないことなのだ。
女が生理なんだからしょうがないと逃げを打つのが嫌なのだ。
例えばそれを、
生理前の日の不安定を描き、
その不安定は生理のせいだったことを描き、
安定した日から反省するが一ヶ月後似たような失敗をして、
「それは私のせいではないが、私のせいである」
と認める女がいれば、
それに我々は感情移入出来るだろう。
我々に似たようなことはないが、
精神的に不安定なことで、安定から見たら失敗することは、
あるからだ。

感情移入は、自分と同じものを見つけたときに起こりやすい。
そして、人と人の分かり合いとは、
相手に分かるものを差し出すことからはじまる。
プレゼントはそれを形にしたもので、
理解はその最大のプレゼントだ。

つまり、「分からないならいいです」は、
コミュニケーション拒否なのである。


なるべく分かるように書くことは、
感情移入を促すことだ。
その時、拒否するよりも、多くの味方を作れるだろう。


一々説明しなければ分からないようなら、
説明が下手なのだ。
上手く一発で分かる説明を、つくるべきだ。

「スパイダーマン2」の冒頭部、
ピザのバイトをするシークエンスは完璧だ。
我々はピザ屋でバイトしたこともないし、
ヒーローをやったこともないが、
我々はピーターの気持ちを理解し、グッと感情移入出来る。

このような説明を出来ない、下手な人が、
それは○○にしか分からないから、
と観客を減らしているのである。

マーケティングは市場を縮小する。
マスコミュニケーションは、市場を拡大しなければならない。

物凄く上手く説明して、グッとこさせられればよいのだ。


説明上手は、
「理解しなければいけないたったひとつのこと」に、
絞る。
「それを認める限り、この話は成立する」に絞る。
これは何かに似ていないか。
物語における嘘のつきかたと、同じ構造をしている。
「ファンタジー世界には不思議な魔法がある」ことと、
構造的に同じなのだ。
物語のこのような構造に、
うまく「その人しか理解できないこと」を当てはめればいい、
ということが分かるだろう。


「これは女性しか分からない話かもねえ」と言う女が嫌いだ。
表現者として下手だからだ。
あなたは、上手くなろう。
posted by おおおかとしひこ at 12:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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