感情移入には、みっつ関門がある。
第一幕、第二幕、第三幕それぞれにである。
第一幕の関門は、
「起こっていることに興味を持たせ、
主人公の行く末に興味を持たせられるかどうか」だ。
感情移入にいたる前段階である。
逆に、ここで完全な感情移入を狙うと失敗するような気もする。
まずここが出来なきゃ話にならない。
大抵はヘンテコな事件とか、ヘンテコな人とか、
変わったことが起こる。(異物との出会い)
何かで圧倒的にやることもあるだろう。
一発屋に終わらず、次どうなるかの興味が持続し、
それが焦点となり続けなければならない。
椅子から尻を浮かせるレベル、と呼んでみよう。
第二幕の関門は、本当の感情移入と部分的感情移入の間になる。
「その人の本当の気持ちにシンクロし、
まるで自分の感情のように思うかどうか」と、
「気持ちが主人公から離れずに、ずっとキープしていられること」の間。
椅子から離れて心を奪うレベルから、
椅子から浮いたままのレベルのどこかである。
第二幕でやってしまいがちなことは、退屈させてしまうことだ。
何やってたんだっけこいつ、とか、
何のためにやってたっけ、どうでもいいや、になってしまうとダメだ。
その為には、一端主人公にひきつけた気持ちを、
引き続ける必要がある。
それは話の展開(主人公以外の要素)でひきつけてもいいし、
主人公自身の魅力でひきつけてもいい。
大抵複合技だけど。
「何分、主人公から心が離れたら人は退屈と思い始めるのか」に、
今のところ信頼できる調査結果はない。
経験で知ることだ。
「今、たしかに、一幕で見た話の続きが起こっている」と感じられなくなったとき、
退屈が襲ってくるような気がする。
「今、たしかに、一幕で見た話が展開している」と思えれば、
退屈は避けられると思う。
しかし、キープするには、キープレベルに、
主人公にちょくちょく触れなければならないだろう。
更に深く感情移入させるならば、
主人公に深く感情移入するエピソードや展開を考える必要があるだろう。
主人公から心が離れてきたな、と思ったら、
あなたは主人公に問いかけてみよう。
おまえいまなにしてんの?と。
主人公と深いつながりを持ち、まるで主人公の行動や気持ちが、
自分の行動や気持ちになっているような感覚こそが、感情移入である。
第三者視点からはじまったのに、第一者視点にいつの間にかなっているような感覚だ。
(ちなみに、本当に第一者視点でつくってしまった、
POV映画と呼ばれるジャンルがいっとき流行した。
これはその視線にはなれたが、感情移入ではなかった。
感情移入とは、外から内に入ることであり、最初から内にいることではない)
いずれにせよ、遅かれ早かれ、
本当の感情移入がどこかで完成しなければならない。
第一幕が、高見の見物客を、
「苦しゅうない、続けてみよ」と思わせることだとすれば、
第二幕は、いつの間にか感情移入の地平に降ろしていることだ。
主人公の行動や台詞に、
笑ったり驚いたりワクワクしたり泣いたりしているうちに、
主人公の悲しみや笑いや怒りや焦りや、恐れや祈りや喜びなどに、
いつの間にか同化することである。
どうやればいいのか、僕はまだ完全に分かった訳ではない。
面白いことが絶対条件。
強い感情や強い思いが必要条件のような気がしている。
泣くシーンでは作者が泣きながら書く、
笑うシーンでは作者が笑いながら書く、
それぐらいは基本だと思う。
二幕のどこかで本当に感情移入していないと、
三幕のクライマックスが来ても、
所詮他人事で詰まらないと思う。
いよいよ三幕。
感情移入のその先。
第三幕の関門は、
「この感情移入になんの意味があったのか分かるかどうか」だと思う。
感情移入したけど、
結局どうでもいい話だった、ではつまらない。
ここまで感情移入した物語が、見た人にとって、
見て良かった、見た価値があった、と思えなければならない。
おっぱい見れたから良しとする、
などの見世物小屋レベルでない、
物語にしか出来ない何かである。
つまりテーマだ。
人生をなんらかプラスにする何かでない限り、
見ても意味がなかった、と人は思うのだ。
説教しろとか豆知識を教えろという意味ではない。
人はもっと高度なものを物語に求める。
説教や豆知識や見世物小屋以上の、
高度な満足をだ。
テーマについては色々書いているので、ここではくり返さない。
これを、ようやく落ち着いて席に深く座れるレベル、と表現してみる。
映画は、席につかせたら、本当は座らせちゃいけない。
席から腰を浮かせて、ずっと世界の中に意識を漂わせ、
満足して席にようやく座る頃には、明かりがつかなくてはならない。
つまり、席に座らせてる物語なんて、屁だ。
感情移入が出来ている面白い映画は、
二時間のうち数分しか席に座っていない。
映画館の椅子は、詰まらない映画の時専用だ。
感情移入は、不思議なメカニズムだ。
出来のいい物語にしか存在しない。
あなたの物語は、どれも突破しているだろうか。
出来ていない所をチェックしよう。
あなたが思ったほど、観客は主人公に感情移入していないかも知れない。
あなたは全部分かって書くけど、
観客は探り探り見ている、という意識を忘れないようにしよう。
2015年03月31日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック