2015年04月10日

初心者むけの話:何倍も必要

年度が変わったので、初心者むけの話をしています。
ところが、とても本質的なことで、
書く以前のことの話です。

ガチ初心者は、びびるだけかもなあと思いながら書いてますが、
この程度でびびる人は、結局どこかで折れるので、
最初で淘汰してあげたほうが為になるかも。
(才能を育てるのは少数精鋭か、大量採用大量淘汰がいいか、という話)


ある分量の原稿を書くのに、
どれだけ考えてる?

ざっくり、数倍から十倍。

つまり、その原稿には、
考えたことの1/10ぐらいしか採用されていない、という話。


手塚治虫が、「ロストワールド前世紀」
という100ページの漫画をかいたとき、
1000ページかいて、900ページを捨てた、
という話は有名だ。

僕は素人の時はこの話が理解できなかった。
無駄、多すぎやろと。
実際ペン入れして、10ページに1ページしか残さないペースだとしたら、
どんだけ無駄多いんやと。

実際にペン入れは多分してないだろう。
下書き段階での話だろう。
1, 11, 21, 31…ページを繋げて話を作った訳でもないだろう。
プロになって分かるのは、
色々な場面やアイデアをぶわーっとかいて、
色々なものを捨てて、1/10に整えたのだろう、
ということだ。
(調べたところ、アマチュア時代の漫画を、
プロになってリライトする際に、ガッと縮めたみたいですね。
その両方のバージョンを確かめることは、手塚博物館まで行けば可能かも)


ある原稿を書くとしよう。
原稿用紙5枚でいい。
あなたは、5枚分を考えて、書く。
これは小学生の書き方である。
(小学生なら、4枚分の考えをどうにか薄めて、
規定文字におさめようとするかもだ)
日本の文章教育、創作教育は、このレベルで止まっている。


その先の書き方とは。

・5枚分を何通りか考えて、最も面白い1本を書き、残りは捨てるかアイデアノートに保存。
・途中の分岐を何通りか考えて、以下同。
・5枚分以上の長さのものを考えて、途中をうまく捨てることで、
通常のテンポの思考よりも早く、大きな思考を書ける。

などだ。

テヅカチャートなる考え方を以前示したが、
手塚治虫は、二番目を特にやっていたのかもね。

手塚は常々、アイデアのジャンクは沢山あるんだ、
と言っていたらしいが、この捨てたアイデアを、
全部(だいぶ)取っておいたのだろう。
(僕は取っておくけど、見返すことはあまりない。
目の前の新鮮さを大事にしたいから。煮詰まったら棚卸しするけど)


5枚の原稿を書くのに、50枚分のアイデアを用意する?
2時間の映画を書くのに、20時間分のアイデアを用意する?

そうなのだ。

最初からそれぐらいのものを用意するのは骨が折れるし、
ただの優柔不断である。
「完成までに、それぐらいのゴミが出る」ぐらい考えなければならない、
ことを意味している。

小学生の書き方にはない、
これが物書きの準備というものだ。



あなたの作品が、どうも薄いと思われたり、
あなたの作品が、どうも途中で挫折したり、
あなたの作品が、どうも退屈したり、
あなたの作品が、アイデアが途中でなくなるのは、
原稿の分量しか考えていないからかも知れない。


例えばドラマ「風魔の小次郎」は、
何故成功したのだろう。
原作漫画を補完するアイデアに満ち、それが面白かったからだ。
原作のアイデアの10倍を用意し、
その三割ぐらいを投入したからだ。
つまり、濃いのだ。
その濃さの面白さが、プロフェッショナルの面白さだったのだ。

あるいは、現在進行形の「てんぐ探偵」。
敵の妖怪「心の闇」は、全部で55体登場予定だ。
この為に、実は300以上の「心の闇」のネタがあった。
10倍ではないが、数倍はほんとだ。
実際のところ、
心の闇を考える→倒し方を考える→人間ドラマを考える
→集まってきたら全体構成を考える
だとすると、
300→150→55ぐらいのトーナメントをしたようなものだけど。

残り250は、手塚の言うアイデアのジャンクになる。



かつてのCM業界は、
企画とはみんなで部屋に籠って、
莫大にアイデアを出してコンテを書き、
最終的な一枚に絞りこむことだった。
ゴミが出た。
大量のコンテのゴミがだ。
これが、創作には必要なのだ。

10倍のトーナメントに勝った奴は、
そのへんのより面白い。
100倍のトーナメントに勝った奴は、
さらに面白い。
そういう原則で、
産んでは死ぬトーナメントを、
タバコもうもうの会議室で、延々やっていたのだ。

今ではこんな昔の企画会議はしない。
無駄だからと言われる。時間もゴミもだ。
バカだなあと思う。

創作ってのは、ゴミを生むことなんだぜと。
その中の1/10を堀り当てることなんだぜと。

だから最近のCMは詰まらねえんだ。




面白いものを作ることは、
100面白いことを言い続けることも可能だし、
1000言った中の面白い100をピックアップすることも可能だ。
多分、後者が、面白くなる。
それがプロのやり方だ。


アイデアノートに何を書くのか。
日々思いついたことのメモや、面白いと思ったことのメモ。
そして、捨てたジャンクの置場所だ。
(そもそもこのブログを立ち上げたのは、
永久に捨てるには惜しいものの置場所だった)

何を書くのか。
どれくらいの長さで。

内容と長さの感覚がないとこれを計ることすら出来ない。
その為の、「原稿用紙の感覚をつけること」は、
とても有効なのだ。
posted by おおおかとしひこ at 11:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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