2015年04月24日

ビート2

どこから、どこまでを、何ビートで描くか。
実はこれがお話をどう書くかを決める、
設計の骨格になる。


「朝起きてから会社に到着するまで」を、
映画にすることは可能だ。

この間を何ビートにも刻んで、
それぞれのビートで起こる、
面白い事件を一つ一つ創作し、
それらが繋がった一連の話になるように創作するとよい。

逆に、「宇宙人が襲ってきて撃退するまで」を描く話では、
「主人公が朝起きてから会社に到着する」までは、
1ビート程度でしか描かれることはないだろう。
例えば「満員電車の中からUFOを目撃する、最初の人間になる」などの形だろう。

前記事の例の、
「電車に乗るまで9ビートかける」ようなことは、
ID4のような宇宙人撃退ストーリーの全体の中で意味がなさそうだ。

だが、「同じボタンを押して恋する彼女」が、
既に侵略を開始した、宇宙人の化けた人間だったとしたら、
この9ビートは忘れられない重要な瞬間になる。

この段取りの為に、
Suicaが切れていて、切符を買おうと券売機に並ぶ、
というビートすら追加してもよいだろう。


ビートを決めることは、
つまり、現実にある段取りやステップを、
どうお話に切り取って利用するか、
ということを意味する。

例えば。
「誰かに会いに行く」というビートは、
以前に議論した「展開」の典型のひとつだ。

これを、
「彼に会いに行かなくては」と誰かが言う
→次のシーンで彼と同じテーブルについている
と描けば1ビートの展開である。

ここを10ビートに分けることも可能だろう。
間に電車に乗ったり宇宙人と出会ったりすればいいからだ。
勿論とんでもなく面白いことが起こっても構わない。

下手な人は、
10ビートに分けようと思ったら、
ただの10ステップを書いてしまう。
外に出る→駅にいく→彼に電話してアポを取る→電車に乗る
→駅につく→手土産のケーキを買う→会社に電話して彼の家につきますと報告
→彼の家の扉をノック→やあと彼が迎えに出る
などだ。

ここでは何一つ面白いことが起こっていない。
従って、「彼に会う」という1ビートを、
だらだらと書いただけでしかない。
従ってこの10ステップは編集でカット出来る。
当然、脚本上でもカット出来る。


10ビートに分けるなら、10個の面白いことが起こらなければならない。
例えば彼女に化けた宇宙人と恋に落ち、
彼に会うと聞いて、ついてくるまでを描く、
などだ。
そうすると、彼に会う1ビートの話が、
10ビート分複雑になって面白くなってくるのだ。

面白いことに面白いことを、こうやって重ねていくのである。
「彼に会う」話がそもそも面白くなくても、
その間のビートで面白いことが増えれば、
面白い方向へ話を動かすことが出来るのだ。


あるいは、面白くないビートを、
この考え方でカットすることも出来る。
宇宙人の彼女と恋に落ちる10ビートがあまり面白くない、
と客観的に判断できたら、
彼に会うことになる→彼と同じテーブルについている、
という1ビートに戻し、
そのテーブルに既に彼女が座っていればいい。
「駅で出会った○○さん」と紹介すれば、
すんなり話に溶け込むかもしれないし、
彼女の存在自体を全カットしてもいいかも知れない。



ビートの設計は、
面白さをどういう段取りで見せるか、
ということだ。
現実を膨らませて利用してもいいし、
現実を省略して利用してもいい。
それは、どこでどう面白いことが起きてるかに関係がある。

その話は何ビートで描くと面白いのか、
それを事前に設計し、実際に書き、
それらをあとで整える、
ということが、実際の執筆でよくあることだ。


バードマンのワンカット技法は、
ワンカットでは「隣の店にいく」などのビートが、
話に必要なくてもカット出来なかったことによる、
詰まらないパートの存在が欠点だ。

だから、そのビートでも面白いことを起こそうとして、
例えばウィスキーを買うくだりで失敗している。
編集をすることが出来る、通常の映画では、
あとでビートをカットすることが出来るが、
この映画ではそれが出来なかった。


ビートをコントロールすることが、
あなたの話の骨格をコントロールすることだと思う。
それは、何を語るのか、あなたの話次第である。

掘って面白くなる所はビートを増やし、
贅肉になってる所はビートを減らし、
全体を見てそれらを整えるという工程が、
プロットを練るということだ。
(この為にカードによる並び替えを使うことが多い。
つまり、カードは増えたり減ったりする。
しかし分数、カードの数は一定である。
どれを残してどれを切るか、どこを増やしてどこを減らしてバランス良くするかに、
カードのメソッドは有用だ)
posted by おおおかとしひこ at 13:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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