2015年05月02日

脚本添削2015その2:主人公

スキャンしました、赤ペン先生。(青ペンですが)
どこのコンビニでも1ページ30円。微妙にたけえ。
HEAD BAD TEACHER赤入れ.pdf

まずは脚本として直します。
HEAD BAD TEACHER赤入れ文字うち.pdf
さして変わってません。
その1に書いたように、技術的にはこなれてきたからです。
ちなみにガクではなく、以下虎表記とします。

さて。何が問題なのでしょう。我らがてんぐ探偵に登場してもらいましょう。


シンイチ「その肩に取り憑いたのは、妖怪『承認欲求』だ!」
   シンイチ、鏡をほらに見せる。鏡に写る醜い妖怪。
ほら 「な、なんだこれ!」
シンイチ「またの名を…妖怪『メアリースー』!」
ほら 「しまった! 俺はメアリースーにやられてたのか!
 大岡ブログの熱心な愛読者のはずなのに…!」
シンイチ「『メアリースー』で記事検索しろ!」
   ほら、スマホで熟読中。ネムカケ、居眠りをはじめた。

さて、妖怪退治をするとしましょうか。


このシナリオの問題点は色々ありますが、
取っ掛かりでもあり、一番大事な、
「主人公に感情移入することが出来ない」ことから切り崩すとしましょう。


この物語の主人公は、公男? 虎?
まずそこがぶれている。
公男からはじまって、虎で終わるからです。

変化は公男に少しだけ訪れますが、
虎には訪れません。
(そもそも卒業しちゃうから、いじめ問題が解決したかどうかも微妙。
土下座だけだし)


バディもの、ダブル主人公と言えば聞こえは良いですが、
どちらが主でどちらが副かは決めるべきです。
まあ、「はじめの一歩」の一歩と鷹村みたいに、
公男が主人公と見るべきでしょう。

このタイプの物語については、
散々このブログで批判してきました。
「落下する夕方」を例に酷評したと思います。
「しゅららぼん」についても同様です。
三人称と一人称のことについても散々書いたと思います。

「弱気で奥手な『私』が、
突然現れたエキセントリックな凄い人に出会い、
その人に導かれて、日常とは違うスペシャルワールドに入り、
そこでの冒険をする話。
冒険といっても連れ回されるだけで、その世界の傍観者になる。
つまりはパビリオン巡りやジャングルクルーズと同じで、
絶対的庇護者のそいつがいるので危険がない。
結局『私』は、何故か最後の最後にしか行動をしない」
というテンプレです。

もうこのブログでは、「落下する夕方テンプレ」と呼ぶことにしましょう。


「はじめの一歩」がこのテンプレを脱するのは、
一歩がボクシングをはじめたときです。
「ドラえもん」がこのテンプレを脱するのは、
のび太が道具を自分の欲望のままに勝手に使ったときです。
「桐島、部活やめるってよ」がこのテンプレを脱するのは、
映画部がゾンビ映画を撮り始めたときですが、
野球部に至ってはこのテンプレです。

つまり、主人公の行動(決断)は、
随分初期のころに行われねばならないのです。、
(このシナリオでは「家庭教師になる」は、
消極的選択肢であり、積極的行動は頭突きのみです)

「落下する夕方」テンプレでは、
主人公は必ず最後の最後にしか行動をしません。
何故でしょう。

自分だからです。

弱くて奥手な私が、誰か凄い人に承認されて、
都合良くうまいこといって、
箱庭の中で、絶対安全なベルトをつけて、
エキジビションバンジーをして、成人として認められたいからです。
一言で言うと、楽して認められたいからです。

このことについては沢山書いているので、繰り返しません。

他人のプライベートに踏み込むのもどうかと思いますが、
ほらさんはあまり他人から認められてないのではないでしょうか。
だから創作の中で代償行為をしているのではないでしょうか。
書を捨てて街に出よ。
「誰かに認めてほしくてしょうがない女」を落として下さい。
毎回毎回承認欲求をしてくるそのめんどくさい女を、
めんどくせえなコラ!と言うまで構ってみてください。
その女は、妖怪承認欲求に取り憑かれていることを確認してください。

めんどくせえなコラ!と思うのは誰?

「ヘッド・バッド・ティーチャー」を読んだすべての人です。


さて、妖怪退治の第一段階、妖怪を理解する、
はおしまいです。
どうやったらそれを外せるのか考えましょう。

基本的には、公男を、「私」でなく、「他人」に仕立てあげることです。
めんどくせえ女は他人。
これをめんどくさくないようにするには。


ちなみに、公男と虎、どちらに魅力を感じるでしょう。
僕は消去法で虎です。
それほど公男には魅力がありません。

誰も聞いてないのに授業だけして、
形だけいじめを注意して、
睨まれたらすぐ引いて、
そのせいで車をぶつけたヤクザが怖くて言いなりになり、
半年休職してる間、いじめを解決しようともせず、
普段は準備しないくせに、
殴られるのが怖いから授業の準備をする、
そんな男のどこに魅力があるのでしょう。

しかもお膳立てされなければ勇気を奮えないのです。
(結果的だけど、ヤクザと組んで威厳を水増ししたことになる)
ただのヘタレ。男にもまだなっていない。

しかも、男にもまだなっていない公男が、
男になる話でもない。クライマックスがコンドームつきなんだよなあ。
どこに魅力を感じろと言うのか。


一方、虎のほうが少なくとも生き生きしています。
インテリヤクザになる為に、前向きに勉強をし、
大学生になるわけです。ケンカも強いし頭も出来る。
エンドロール後、虎に場面が用意されているのも、
作者が無意識に虎に魅力を感じている証拠です。
魅力のある主人公なら、ラストは必ず公男で終わるからです。
(風魔はどうだったか?小次郎のアップで終わった)


弱くてずるい男には魅力はありません。
意気地無しで奥手だとしても、
何か筋を通した魅力があるならば、
その主人公は魅力的になるでしょう。

主人公は作者ではありません。
主人公は作者でない他人です。
他人だからこそ、虎のほうが魅力的に書けているのです。
同じように、公男も他人にすればよいのです。

つまり、あなたが承認されるのではなく、
あなたが公男を承認してあげなければならないのです。
どうやって?

彼のいいところを作り出すことで。


よくあるパターンを出しましょう。

僕は物理が好きなので、物理教師という設定にします。
ケプラーの第二法則なんかを教えていてもさっぱり生徒には分からない。
ところが彼にはわかっているのです。
これが何になるのか。
これがボイジャーを飛ばし、木星経由で海王星に到達した原理の発見に繋がるのです。
月へ行き、天気衛星を飛ばし、GPSでナビが出来るのも、
全部これのお陰なのです。
彼は教室規模の男じゃない、宇宙の規模でものを考える男。
それは誰にも理解されていないのです。

その唯一の理解者が、勉強をしたい虎だ、
という風に持ってくるのです。
虎は先生すげえよと感心し、
しかし生徒に馬鹿にされている現実を知り憤慨するのです。

さあ、なんだか魅力的になってきましたね。

一見理解されない人でも、理解できる筋が通ったとき、
急に魅力的になるものです。
これなら感情移入出来るかも知れません。

感情移入とは同調です。
人は、理解できない他人には同調出来ません。
その人を理解したと感じたとき、同調が起こります。
(とても怖いヤクザが子猫を助けてキュンと来るのは、
その瞬間に誤解が解け、理解が起こるからです)

なんでそれをあいつらに言わねえんだ、と虎が怒り、
いじめを解決出来ない教師が信用される訳がないと自虐し、
じゃあ解決しようじゃねえか、
と虎が学校に乗り込むなんて展開が容易に浮かびます。


勿論このパターン以外にも、
人の魅力を描くことは可能です。


魅力ってなんでしょう。
僕は、尊敬できるポイントがあることが重要な気がします。
圧倒的なこと、とかつて書きましたが、
短編なので、
ちょい尊敬、ぐらいが丁度良いでしょう。
なんでもいいんです。
たこ焼き焼くのが上手い、でもいいです。(二人でたこ焼屋をやる展開になりそう)
動物に好かれる、でもいいです。

要は、作者が、
この点においてならば、主人公を承認する、認める、
という部分を作ればいいのです。
それは自分の長所を重ねてもいいですが、
どこか他人の長所を重ねたほうが客観性が保てるでしょう。

あなた自身がその他人を好きになるとすると、
どういう所を好きになるだろう。
それを創作すること。


ほら 「そうだったのかあー! また俺は俺を書いてしまったのかあー!」
   妖怪「承認欲求」、手足が外れかかる。
シンイチ「じゃどうすりゃいいの?」
ほら 「俺の好きな先生をモデルにしてみるよ。或いは、俺の好きな人を、
 先生役に変換して考えてみる。真っ先に俺が承認する男を書かなきゃ。
 俺が最初の目撃者になるつもりで」
   妖怪は、ついに外れた。
ネムカケ「今じゃ!」
   シンイチ、天狗の面と火の剣を出す。
ナレーター「シンイチは天狗の面を被ると天狗の力が増幅する、てんぐ探偵である」
シンイチ「一刀両断! ドントハレ!」
   天狗の火の剣が、妖怪「承認欲求」を真っ二つにする。

結論を全部台詞で説明してるので、
この妖怪「承認欲求」は良いシナリオではないですが、
ちょっとした余興ということで。


さて、更に主人公について深めてみます。
もう一人の主人公、虎との絡みについても考えましょう。
posted by おおおかとしひこ at 18:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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