実はこの答えは、僕がショートフィルム「キラージョー」を作ったときに、
既に出ていた。
監督インタビューで、CMとショートフィルムの違いって何ですか?
と、CMディレクターとしての僕に質問があり、
その場で物凄く考えて、慎重に答えた記憶がある。
それは、
落ちを自分で作るか作らないかの違いだ。
CMと映画の違いを、
長さとか予算とか、媒体とか、スポンサーとか、
カメラ目線の有無で線引きするのは、
本質を見ていない。
CMでは、その落ち、すなわちテーマは最初から決められている。
「その商品(または企業)は、素晴らしい」である。
映画では、自分で落ちを決めなければならない。
その落ちでテーマを暗示する。
それは誰かに与えられるものではなく、
自分で決めるものである。
CMと映画の違いは、
自分自身で、そのテーマのケツを持てるかどうかだ。
さて、
下手なCMは、ただ良さをストレートに言うだけだ。
AをAで表現する。
ただの主張であり、詰まらない。
そこで、
AをBで表現する。
その差で面白さが出てきて、そこのリンクを見つけることを、
クリエイティビティという。
この構造は映画も同じだ。
AをAで表現するのは、ただの演説だ。
(ミュージカルは、AのテーマをBの歌形式で言うものだが、
歌詞だけ取り出すと、AをAで言っている。
つまり、AをBで表現するものの中で、原始的なやり方だ。
原始的だからといって劣っている訳ではない。
「ありのままで」の大ヒットは、原始的なことの強さを示した)
Aをいかに違うBで表現するかを競う、
競争だと言ってもよい。
ただ、映画とCMが違うのは、
自分でテーマを決めるか、
他人のテーマを表現するかの違いだ。
かつてのCMは、実は自分でテーマを決められた。
商品の良さに、CMで付加価値を乗せるという考え方で。
サントリーオールド「恋は遠い日の花火ではない」は、
「うまいウイスキーというテーマ」以上の何かを、
このCMは描いている。
ここをどんな上澄みを持ってくるか、というのが勝負だった。
しかし広告文化の凋落によって、
「売りを伝えること」以外は余計なものと見なされている。
売りAをそのまんまAで伝えるか、
売りAをちょっと人目を引く何かBで伝える程度だ。
この形式で書くなら、かつてのCMは、
Aを含むテーマBを創作し、
BをCで表現していた。
A:「サントリーオールドはうまくて素晴らしい」
B:「古いことは、時代遅れでもなんでもない。
むしろ大人になることで熟成され、かつ現役であることだ」
C:それを、中年と若い男女の出会いで表現する
BはAを含み、
それの価値を新たに人に発見させる。
その差分が付加価値だ。
人はCを通じて読み取ったBにハッとすることで、
Aの良さを再発見するのだ。
そういう構造だ。
今のCMは、
A:「安売りを伝える」
B:「びっくりして顎が外れて床をぶち抜き、下の階に」とか、
B:「びっくりすることを1カットやスーパースローなどの映像ギミックで見せる」とか、
B:「びっくりしたタレントの素の言葉で伝える」とか、
B:「安売りイベントを開催し、メイキングを撮る」
程度のことしかしていない。
だから詰まらない。
結論が見えすぎて、詰まらない。
(原因は見る人のリテラシーの低下、クライアントのリテラシーの低下、
作る人のリテラシーの低下、全てにあると思う)
BとCの関係からAをいいと思わせる構造では、もはやない。
(僕はトトロのコピー「忘れものを、届けにきました。」を絶賛している。
これもABCの構造だ)
だからCMなんて、
所詮他人のテーマを語るだけの工夫しか(今では)出来ないのだ。
一方、映画や文学は、
物語で語るテーマを決めなければ、何も出来ない。
ここが最も面白い所であり、
最も難しい所だ。
テーマと全体やモチーフの関係については既に書いたが、
ズバリと書けたかどうか怪しい所もある。
(それぐらい、文章で解説は難しい)
テーマを決めることは、覚悟だ。
この主張だと見られる自分を引き受ける、責任が生ずる。
その責任を負える人だけが、作家を名乗っていいと思う。
CMは(もはや)作家を育てない。
今の原作つきばかりの映画も、作家を育てない。
新しいことをする作家はリスキーだからだ。
業界は、既に成功したものを買ってくることしか考えていない。
ちょっと前までは、
原作ものの外面だけ合わせて、
中身を換骨奪胎してやろうという野心的作家もいたものだが、
それらはAをAで表現することしか分からない馬鹿に駆逐されたと思う。
今最前線はどこかは、分からない。
少なくとも、
リスキーなことを皆嫌がることは確かで、
テーマに責任を負える奴だけが、
作家でいられることだけは、確かだ。
CMを作ることに僕はもうあまり希望を持っていない。
ラブレターの代筆屋はもういい。
自分のラブレターを書きたい。
2015年05月11日
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