2015年05月18日

中盤を厚くするには、人を増やすといい2

続き。
今までの議論から明らかだが、
登場人物とは、目的のことである。

従って人を増やすということは、
目的を増やすことに他ならない。


「人が増えて複雑になる(豊かになる)」
というのは、
つまり、矛盾する目的が増えることによる、
複雑さ(ゆたかさ)の度合いの増量だ。
ひとつの目的に対して、
一本のストーリーラインが引けるからだ。

ということは、
原理的には、人を増やさなくて、
目的を増やすことでもいけることになる。



例えば個人の中で、矛盾する目的を複数持たせる。
それが第三の結論へ進む過程を描いたりする。
内面の葛藤だ。

小説などでは内面を描けるが、
内面を描けない映像では、
天使の俺と悪魔の俺がささやく、
などのコント的場面で描かれることが多い。

「ファイトクラブ」では、
ブラピはエドワードノートンの別人格、っていう落ちだっけ。
そんな特別な仕掛けをしなければならないほど、
内面の葛藤を外から見てわかるようにすることは難しい。

「脳内ポイズンベリー(漫画しか見てないが)」では、
三十路女の葛藤を、脳内会議という形で表現している。
(この表現自体はオリジナルではないが、
恋愛もののリアリティーと絡めた部分が面白い。
脳内会議が編集者のアイデア、恋愛のリアリティーが作者のアイデア、
という合作的な匂いがする。平凡な三十路女のリアリティーある恋愛話を、
ビジュアルアイデアで突破した、映画むきのパターンだ)

内面の葛藤は、「…」という芝居でしか、
ストレートには示すしかない。
10秒も見ればお腹一杯だから、
内面の嵐に比べ、外面は何もアクションがなく地味だ。
マトリックスの赤い薬と青い薬のように、
選択肢を前に迷い、選ぶという決断のアクションで次へ行動するのを示す。

つまり、葛藤そのものは描かれない。
葛藤に、感情移入させるとよい。
矛盾する目的の両方を理解させ、
感情移入させるのがコツだ。

例えば三角関係なら、
AくんもBくんも好き、という主人公に感情移入出来なければならない。
主人公が葛藤するのではなく、
観客が葛藤するようにするのだ。
設定の羅列では意味がない。
感情移入にするべきである。
(感情移入を伴わない設定だけの三角関係ならば、
それを利用したブラックコメディにすることが可能だ。
勿論、感情移入した上でブラックコメディにしてもいい)


目的が最初から複数ではなく、
途中で増えるのもよい。
減るのもよい。
少年漫画でよくあるのは、死んだ(負けた)奴の目的も背負うことだ。
てんぐ探偵シンイチは、男の自殺を止められなかったことで、
人々を救いたいという目的が出来た。

勿論、主人公の中の複数の目的だけでなく、
他の登場人物の中に複数の目的があってもよい。
スパイ、二重スパイ、仮面ものなどは、
その代表的な例である。

女なんかは、ナチュラルに公の目的と私の目的を使い分ける。
「仕事をする女が、職場の上司と付き合いながら、
しかもなかなか会えない恋人がいる」
なんてのは、複雑に絡んだ複数の目的である。
これ「働きマン」の主人公だっけ。

キャラの使い分け、なんてなSNSでは今や当たり前になった現象も、
これかもね。
これで複数のキャラを持つ人同士がリアルで出会って、
その統合までを描くラブストーリーなんてのは、
もうどこかで書かれていると思う。

ダブルスタンダードも、矛盾する複数の目的になる。
詳しくはダブルスタンダードを調べてください。
敵のボスが、ミスをした身内には厳しいが、
娘にはベタぼれなんてパターンは、
よくあるダブルスタンダードだ。
娘が跡を継ぎたいと言ったときに、ドラマが生まれるだろう。



中盤を厚くするには、人を増やすといい。
目的も、増やすといい。

それは、途中で増えたり、解消したり、
更新されたり、統合されたりしていい。
むしろ、それがストーリーの骨格であると言える。
posted by おおおかとしひこ at 09:50| Comment(2) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「脳内ポイズンベリー」の作者・水城せとなさんは、セリフがしっかり決まってからでないと漫画を描き始められないそうで、「ト書きとセリフ」を書いた台本を作ってから、作画に入るとブログに書いてありました(7年ほど前の情報なので今は違っているかもしれませんが)。
連載の場合は、「単行本で何冊分の連載」「この巻でこうなる」「ここでこの前ふりを」など考えているとも書いてありました。
このプロット作業が一番楽しくて、ずっとやっていたいそうです。

この緻密な感じは地の星座?と思い調べてみましたが、ぎりぎり天秤座(10/23)の風の星座でした。
Posted by えま at 2017年02月11日 18:51
えま様コメントありがとうございます。

その程度では緻密でもなんでもなく、普通では…。
乙女座の緻密はもっと緻密ですよ…
あと緻密さは地の星座の特質ではなく、
地は計画変更への柔軟性に欠ける、と僕は見ています。

「脳内ポイズンベリー」は数巻読みましたが、
各キャラクターのバランスが取れてるところが、
天秤座らしいといえばらしいですねえ。
Posted by おおおかとしひこ at 2017年02月11日 23:04
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック