前記事のつづき。
部分の起伏と、全体の起伏がある。
部分の起伏を見るには、その部分を読んでみれば把握出来る。
全体の起伏は、全部を読むことで把握出来る。
(全体を忘れたあとの一回だけそのチャンスがあることは、
リライトの話でちょいちょい書いている)
全体の起伏を、地図に書く方法はないのだろうか。
僕は昔からこれに挑戦していて、
ブレイクシュナイダーのボードを試したり、
自分なりのやり方を考案している。
どのやり方だとしても、「一枚に全体をおさめる」
という考え方は共通だと思う。
問題は、何をどうやっておさめるかだ。
このブログの最初の方に書いた、
主人公の動詞を並べる方法(風魔の一話で例を示した)もその一つだ。
この方式はストーリーの骨格は得られるが、
全体の起伏、すなわち感情について得られる方法ではない。
僕が全体の起伏を見るときには、
シーンの表を一からつくる。
○の次に場所の名を書いた、一覧だ。
4ブロックに割り、一幕、二幕前半、二幕後半、三幕にわける。
(大抵一幕がシーンが多く、三幕が少ない)
ついでにそれらの尺を0.5分単位で書くことは、
前にも脚本添削スペシャルで例示したと思う。
場所だけだとそこで何が起こったか思い出せない場合は、
場所よりも行動や結果を書くことが多い。
この全体を何回も読んで、
全体の起伏を頭のなかで想像するのが、
今のところ全体の起伏を想像するベストの方法だ。
てんぐ探偵は、それぞれの一話完結ばなしは、
発表順で作られた訳ではない。
思い付いた順番は、だいぶバラバラだ。
妖怪ありきで思い付いた話もあるし、
解決ありきで思い付いた話もあるし、
設定ありきで思い付いた話もある。
いわば妖怪と解決に対して、スプレッド的に生まれたものだ。
それを並べかえて、書く順番を決めたのだ。
僕の手元には、30以上のバージョンの、
エピソード一覧表(タイトルと妖怪名だけを書いて並べた表)
がある。
それは、全体の起伏を見渡し、
順番の入れ換えをして起伏を作っていたことの軌跡だ。
「サッカーのにいちゃん」は、
元々にいちゃんを立ち直らせるだけの話だったが、
第一ターニングポイントに位置付けることによって、
シンイチの立ち位置の確認や、本人の意思としててんぐ探偵を受け入れる、
という重要エピソードになることになった。
「遠野SOS」は、本来の予定表にはなく、
実は大昔のバージョンの第一話(遠野に連れ去られて冒険したのち、
天狗に認められ東京へ帰る)をベースに、
ミッドポイントとして作り直したものだ。
それらのキーになる話で全体の起伏にアンカーを打ち、
各エピソードが、起伏のうねりを作りながら配列されるように、
必ずしも作った順でなく並びを作っている。
後輩に言わせれば、
僕はある時期、ずっとこの一覧表を見ていたのだそうだ。
多分、何度も何度も頭のなかで全体の起伏を想像していたのだろう。
その上で、既に出来上がっている50話が55話に増え、
各エピソードも、当初のプロットよりも全体の起伏に沿うように、
エピソードの中身を微調整された筈だ。
一度大きな1〜15のシャッフルをやってみたが、
これも同じことを考えていたからだ。
全体の起伏が先にあって、
部分を全体に合わせていたのである。
今思えばだけど、風魔の小次郎は、
撮影前に全体の脚本が出来上がっていなかった為、
全体の起伏がリズムが悪いところがある。
四話で項羽が死ぬべきだったように思う。
五話のアバンで死ぬのはリズムが悪い。
(しかしそのお陰で五話は名作だけどね。
その分四話が割を食ってる気がするなあ)
絵里奈のストーリーラインをもっと絡めるべきだったし、
そうすれば壬生よりも武蔵のほうが目立っただろう。
作りながら撮る、現場の勢いが凝縮された良さはあるが、
完成度という点では、更に上を目指せた筈だ。
それはやはり、全体の起伏のことがないがしろにされたからだ。
勿論監督メモに残したように、
全体の起伏の一覧はあった。
しかし、全体が出来上がって、
なおかつ全体の起伏のために部分を微調整する、
ということは結局出来なかった。
後先を考えられない過酷なスケジュールだったのもあるけど。
全体の起伏を見るには、
どうにかして一枚に凝縮された、
全体の起伏の地図が必要だ。
それを見ながら、部分の起伏を再調整するのが理想である。
これは、脚本段階でやるべきことだ。
今のドラマや映画では、編集段階で誤魔化そうとする。
編集は、切ることは出来るが、ないものを足すことは出来ない。
ないものを、音楽で足そうと画策する。
日本のドラマや映画に大袈裟な音楽が多いのは、
実はそのせいでもある。
部分の起伏と全体の起伏をちゃんと考えること。
それが、思いつきで書きなぐった微妙な話を、
一段上にレベルアップさせるかも知れない。
2015年05月23日
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