後輩たちが60秒の企画に挑戦している。
15秒と違い、
一行の面白い話が書けたとしても、
小話として面白い話にはならない。
「狼に育てられた少年が、のちに獣医になる」
という面白そうな一行(ログラインではない)を
思いついたのだが、その先どうしていいか分からないという後輩に、
ふむと考えたら、面白い話が出来てしまった。
みなさんも60秒におさまりそうなものを、考えてみるといい。
この先に僕の考えた話を書く。
新聞に「山犬に育てられた少年」の見出しと写真、
そこからオーバーラップして、
小学校で学ぶその少年。
いじめられ、疎まれる。
狼の真似をしろよ、と言われ、
鋭い目をしたら「噛まれる!」と恐怖される。
ある日、教室の外に山犬たちが現れる。
助けに来たのか。少年は首をふる。
山犬たちは姿を消す。
中学。人間たちに溶け込み、楽しそうにしている少年。
進路希望に「警察官」と書いている。
学校帰り、大怪我をした野良犬に会う。
犬は犬語で助けを求める。
少年は日本語で聞く。
少年は、犬の言葉が分からなくなっていた。
少年は進路希望を「獣医」と書き直す。
獣医になったその少年。
病気の犬が運び込まれる。
看護婦たちが飼い主に日本語で尋ねるなか、
その獣医だけが、犬語でこっそりと犬に聞く。
犬、安心する。
獣医、笑う。
ほとんど台詞のない、絵と音楽だけのフィルムを想定。
間にどんな紆余曲折や起伏を入れて、
ストーリーとするか?
これは大変な難問である。
正解もない。
どうやって出来るのかと後輩に聞かれても、
もはや慣れだとしか言いようがない。
手がかりになること。
テクニック的なのはトップカット。
「狼に育てられた少年」を示すのに15秒はかかる、
という後輩に対して、
新聞からOLすれば二秒でいけんじゃん、
と答えた。
しかも金がかかることなく。
山と山犬と猟師とかマスコミとかすっ飛ばして、
写真と新聞一枚作ればいいだけだから。
その代わり、狼少年が学校に来たらどうなるのか、
という反応(リアクション)をこそ重点的にセットアップしてみた。
彼は人間として生きなければならない、
という運命を、彼自身が受け入れるかどうか、
というのがどうやらテーマだな、
という直感が、
まずいじめられる、というセットアップにした。
狼でも人間でもない主人公が、
その間の道、獣医になる話なのだろうと。
だから、人間と狼の間で、揺れ動けばよいのだと直感する。
人間になろうと、山犬たちの心配を断る。
しかし今度は人間に適応しすぎて、犬の言葉を忘れる、
という振り幅に揺さぶる。
進路希望、というのはひとつのテクニックだ。
自分の意思を明確に字で示せる小道具だ。
人間社会への過度な適応が、彼を警察官にさせようとしていたが、
山犬の出自を持つ人間という自覚が、
人間社会での居場所を見いだすのだ。
あとは、ラストからの逆算だ。
獣医としての彼が、どういう診察をしてるかな、
とか、どういう日常を送ってるかな、
という想像から、
きっと犬語を理解する獣医なのだろうと。
で、大人になっても犬語を話してる、
というラストは素敵だなあ、
というラストを先につくり、
犬としての自分を否定する、
というように冒頭を組むことを想定する。
逆をつくるのだ。
あとは、決定的な事件をつくればいい。
犬から人になること。
人から犬と人の間に立とうとすること。
それぞれが第一ターニングポイント、第二ターニングポイントになる。
犬から人になることは、犬を拒否する。
助けに来た山犬を断る、という悲しい絵が浮かんだので、
それを採用。他の解もあり得ると思う。
最後犬語を話す、という逆算で、
犬語を忘れるシーンを作ると面白いと思った。
で、中盤のシーンを。
あとは60秒なので、
台詞を言っている暇がないから、
進路希望などのテクニックで秒を稼ぐ。
90秒や120秒なら、台詞劇を組むことも出来るけど、
シチュエーションが多いから、
サイレント気味にして、
最後犬語を発するところだけを印象的にしよう、
という計算をする。
これらのことが頭のなかにぐるぐる回り、
10秒ぐらいでプロットを話しはじめたと記憶している。
酒が入っていたので、もうちょい遅かったかも。
骨格が同じで違うエピソードでもいいし、
設定を変える(例えば山犬と同居している)話にしてもいいだろう。
なんとでもなる。
問題は、主人公の動機だ。
彼は何をしたいのか。どうなりたいのか。
その為には、現状が、今したいことやなりたいことの、
逆であることが必要だ。
その逆境に放り込んだ上で、
彼の前に試練や救いをさしのべ、彼の反応を見ていくのだ。
それはラストからの逆算だ。
ラストを決めないと、試練も救いも、彼の動機との関連もつくれない。
今回で言えば、彼はどう生きるべきかを迷っている、
という動機である。
狼少年なんだから、人間か狼かで迷うだろう、
というベタな想像で作ってみた。
設定が異常なら、わざと普通の反応をさせると、
感情移入しやすいからだ。
大体僕の頭のなかはこんな感じだった。
ただ、これだけを10秒で言葉にして考えている訳ではない。
体で反応してる感じ。
ある種の自動化が起こっている。武術の達人みたいな。
だから体が先に正解を出して、
頭で解説するとこうかな、と解説が長くなる感じだ。
あなたも別のバリエーションを考えてみるといい。
中盤を考える訓練になるだろう。
2015年05月30日
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