ログラインよりも更に最短な形式、
「Aな主人公が、Dする」を推奨した。
この形で解析してみよう。
もとのアイデアが、
「狼に育てられた少年が、獣医になる」であり、
この形式になっていないからだ。
まず、狼少年の問題はなんだろう。
ざっくり言うと、ハーフであることだ。
狼と人間の遺伝子的合の子ではないが、
狼と人間の間の人、という点では、
ハーフの悩みと同じである。
つまり、所属すべき集団がふたつあり、
そのどちらでもないことである。
黒人と白人のハーフ、
人間とエルフのハーフ、
感情を理解してしまったロボット(人間と機械のハーフ)、
怪物の能力を埋め込まれた改造人間(即ち仮面ライダー)、
オカマや性同一性障害、
インディアンと白人の合の子、
侍に犯されて出来た農民の子供、
国際結婚後の国籍、
忍びでも人間でもあること(ドラマ風魔の小次郎)、
などなど、
モチーフこそ違え、
これらの物語は、根底に流れる悩み、問題は同じだ。
自分はどちらに属するべきか、だ。
これには、4種類の結末がある。
Pを選ぶ。
Qを選ぶ。
Pでもあり、Qでもある結論を探して選ぶ。
PでもQでもない、関係のない結論を探して選ぶ。
数学的にはこの組み合わせしかない。
「ダンス・ウィズ・ウルブズ」は、
自分の最初属していなかった集団、インディアンに属する決断をする話だ。
「仮面ライダー」は、
自分の最初属していた集団、人間を選び怪人を壊滅させる話である。
「ピノキオ」は、
自分の最初属していた集団から脱出し、人間になる話である。
「妖怪人間ベム」は、
ピノキオと同じ構造だが、ついに人間にはなれなかった話だ。
「風魔の小次郎」は、
自分の最初属していた集団に疑問を感じ、外の集団、人間と忍びの両方を選択する話だ。
様々なパターンがある。失敗するパターンもだ。
さて、狼少年のアイデアは、
PでもありQでもある、というパターンだ。
つまり物語は、
PQの双方を描き、両方を矛盾させない結論をだす、
という大骨格を持つことが予測される。
これが、Aから予測される大筋だ。
だが実は、この一行アイデアには、Dがない。
「獣医になる」は、Dに属さない。
何故なら、アクションではないからである。
「獣医になる」とは、どういうアクションが相応しいのだろう。
医師免許を受け取った瞬間?
医院に初出社する?
患者に聴診器を当てる?
どれもしっくりこない。
大人になるとか、天狗になるとか、
「なる」は、アクションで示しにくい。
変身する、はアクションで示せる。
だから変身ものは分かりやすく、映像化しやすい。
「なる」は、複数の、一瞬ではない、長い期間をかけた動詞である。
芝居で示せない。
ためしに俳優に、「獣医になる」をやってくれ、
というのは無茶ぶりだろう。
獣医のふりは出来るが、獣医に「なる」は無理だ。
(優秀な俳優ならば、そこまで考えて、
「魔法のステッキで、獣医に変身!しゅぼん!」とやってくれるだろう)
つまり、このアイデアには落ちが決められていないのだ。
解決が獣医になることを「決める」でもいい。
例えば進路指導室で、獣医学部のパンフレットを手に取る、
などのアクションでそれを示すことが出来る。
しかしそれは詰まらない。
一人芝居だからだ。
芝居とは何か。目的を持って行動し、他人とぶつかることである。
つまりアクションとは、
「他人」に向けられたものであるときに、
最も強くなる。
従って、Dする、とは、そのようなものであるべきだ。
そこで僕は、
ラストのアクションを、
(既に獣医として活躍している)主人公が、
「犬に対して犬語で話す」というアクションを考えついたのである。
Dは、芝居だ。アクションだ。
勿論、このような変わったアクションでなくてもいい。
頭突き、みたいなこと(ヤクザヘッド)でもいいし、
抱き締める、みたいなことでもいいし、
肩を叩く、みたいなことでもいい。
問題は、それが問題の解決を、ワンアクションで示せるか、
というところにある。
最初の一行アイデアは、
解決の「方向」を示したに過ぎず、
解決を「アクションで示した」訳ではない。
解決の動詞Dは、このようなものであるべきだ。
さて、犬語で犬に獣医が話す、
というラストさえ出来れば、
あとは逆算だ。
犬語を忘れる、という逆をつくる。
何故だろうと考える。
人間になろうと必死だったから、
という悲劇的理由を思いつく。
あとは逆算だ。
山犬が心配してくるが一度は拒否する、という哀しいエピソードで、
グッとつかめるぞ、と逆算できる。
ここまで、アイデアを聞いて10秒ぐらい。
頭で考えていては無理だ。
ストーリー構造への肉体的勘だ。
それが出来るまで、
色んな名作を見て、色んな駄作を見て、
色んな成功作をつくり、色んな失敗作をつくるべきだ。
そうやって、練っていくしかないと思う。
2015年05月30日
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