2015年06月06日

二人称について考える

二人称は、ほとんど使われない。
そう?
あるよ。

低レベルのCMは、全部二人称だ。
カメラ目線だぜ?
言いたいことは、「あなた、買ってください」だ。
もっと簡単にしよう。
「投票へいこう」「挨拶しよう」「避難勧告」は、
全部二人称だ。


二人称は、手紙だ。
わたしからあなたへの、意志の伝達である。

だから強い。
カメラ目線でアイドルが何か言えば、
ついつい聞いてしまう。

演説のコツは、三人称ではなく二人称で言うことだ。
つまり、わたしとあなたの関係で、
あなたに訴えることである。


良くできたCMは、三人称で二人称の替わりをする。
誰か他の話(コントやいい話など)で、
グッと引き込んで、その同調を持って帰ってもらう。

あるいは、一人称で二人称の替わりをする。
自分が思ったつぶやきや詩で、三人称と同じ役割をさせる。

最近の低レベル化著しいCMは、
三人称が一人称化し(つまり予算がないのでキャストが一人になり)、
表現内容が痩せ細ってついに二人称化した。
カメラ目線で訴えるだけに。


二人称は、
わたしとあなたの関係で、一見強い表現に見える。

しかし、それが強いのは、
わたしとあなたの関係が強いときだけだ。

見も知らない人とあなたは、なんの関係もないのだ。

だから、三人称の他人の物語に感情移入させるか、
一人称で共感させるかが、
普通のやり方になるのだ。


二人称は、わたしとあなたの関係がきちんと出来たときに、
最も効力を発揮する。

戦場から妻に届いた手紙、
長年連れ添った恋人への記念日メール、
熱狂的支持を受けたカリスマの、お前らへの言葉。
わたしとあなたの関係が強いとき、
その言葉はただの言葉の何倍も響く。

二人称形式は、だから、
わたしとあなたの関係がないときには、効果がない。

だから知らない人のラブレターは、ただ気持ち悪い。


二人称CMでは、芸能人が、スポンサーの代わりに、
あなたに喋りかけてくる。
だからついつい興奮してしまう。
AVのカメラ目線で興奮する、それは擬似的な興奮である。


二人称形式の物語(物語とは変化である)は、
おそらく、わたしとあなたの関係の変化を作ることが難しい。
関係が離れたら、意志疎通もなにもないからだ。
弱い関係と強い関係の間でしか、
物語を書くことが出来ないだろう。

わたしとあなたの関係が、新しく面白いものに限って、
新しい二人称形式の物語が可能な筈だ。

例えば小説「アルジャーノンに花束を」は、
薬によって一時的に知能が上がったがまたもとに戻る薄弱児の観察記録だが、
(読んでないので伝聞です)
彼の文章が手紙形式で書かれているらしい。
知能が上がってわたしとあなたの関係が濃くなり、
知能が元に戻ってわたしとあなたの関係が消失していくさまを、
手紙形式で書かれているらしい。

小説「タイムトラベラーの妻(映画「僕が君を見つけた日」の原作)」は、
時空を越えて引き裂かれた恋人同士の往復書簡小説なのだそうだ。
(これも未読のためここまで情報)

映画「ハル」は、パソコン通信(言葉が時代だねえ)で、
知り合った二人の、メールによる往復書簡小説型の映画だ。
メールのやり取りがメインという、
二人称形式の映画だと言える。
映画「電車男」も、掲示板という形式での、
複数同時往復書簡型の二人称形式だと言えるだろう。
同じく往復書簡型では、
アニメ映画「ほしのこえ」があった。
距離が宇宙規模で離れていく遠距離恋愛のメール交換だ。

わたしとあなたの関係が、新しく描けたとき、
つまり、
薬による知能上昇や、
タイムトラベラーの時空ごえや、
パソコン通信による男女の出会いや、
掲示板実況や、
宇宙規模で数ヶ月数年遅延していくメール交換などの、
新しいわたしとあなたの関係性が思いつけば、
二人称形式は新作物語たりえるかも知れない。




ちなみに、映像では二人称形式は難しい。
カメラ目線だと、あなたのリアクションを撮れない。
例えばカメラ目線フェラには、ちんこが写るが、これは他人のちんこである。

手紙だと、ナレーション表現になってしまい、
絵を工夫できない。
(「ハル」や「電車男」では、結局文字を出した)
文字だけの小説が、得意とするところかも知れない。


殆んど雑談になってしまったが、
こういうことを考えると、
新しい形式について思いつくかも知れないよ。
posted by おおおかとしひこ at 16:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック