ジャーナリスティックに書いてみよう

自分の書いている話を客観的に見るために、
新聞記者なら、
今書いている事件とその解決を、
どういうふうにレポートするかを考えよう。


新聞記事に、自分のストーリーの事件が出たと仮定するのだ。

まず見出しだ。
ロッキーならば、「無名の新人、世紀の王者アポロの対戦相手に抜擢」
などになるか。
副見出しに「アポロ『アメリカンドリームを人々に与える』と語る」
なんてのもあるだろう。

じゃあ本文。何文字で書くのか知らないが、たとえば。

来週末に迫ったアポロ・クリード（IBAヘビー級王者、31、アポロジム）の、
三度目の防衛戦の対戦相手に、無名のベテランボクサー、
ロッキー・バルボア（29、フィラデルフィア）が急遽浮上。
これは対戦予定だったクルーザー・ジョー（暫定1位、ライオネルジム）の、
左拳骨折のアクシデントによる、リザーバーマッチだ。
本誌の取材によれば、対戦相手ロッキーはサウスポーのファイタースタイル、
戦績は公式戦12-10（2KO）の、特に注目に値する選手ではない。
ところがアポロのコメントがユニークだ。
「ボクサー名鑑で対戦相手を探しているうちにピンと来たんだ。
ロッキーのあだ名が『イタリアの種馬（イタリアンスタリオン）』なんだ。
語呂がよくて傑作だろ？アメリカはチャンスの国だ。
どんな奴にもチャンピオンに挑戦出来て、アメリカンドリームを掴む権利がある。
俺はそれを全米に知らせたかったのさ。ロッキーにも会ったけど、
なかなかの好漢で、試合をすぐにOKしてくれたぜ」
アメリカンドリームマッチ。
我が国の自由とチャンスを尊ぶ気風を大切にするアポロは、
アメリカのチャンピオンに相応しい。
試合は予定通りフィラデルフィア体育館で行われる。
アメリカンドリームは花開くか。アポロのダンスが炸裂するか。
運命のゴングは19:00だ。試合の模様はABCラジオ第二とテレビ放送で。


あるいは、結末の新聞記事。


「アポロ、危うい防衛」「フルラウンドまでもつれ込む、無名のロッキー一躍スターへ」

壮絶なフルラウンドマッチだった。
無名の新人ロッキー・バルボアは、18ラウンド、アポロの398のパンチを受けても尚立ち、
あろうことか7ラウンド、アポロに一度キャンパスを舐めさせた。

「アメリカンドリームマッチ」と冠された、アポロ・クリード三度目の防衛戦。
因縁のクルーザー・ジョーの左拳骨折のアクシデントにより、
無名のベテランボクサー、イタリアンスタリオン・ロッキー・バルボアが選ばれた。
アポロの調整不足か。ロッキーのモチベーションか。
結果はどちらでもない。アポロの蝶のように舞うスタイルを、
イタリアの種馬が耐えきったのだ。

以下試合展開。（具体的なパンチ数やジャッジ。省略）

判定は当然アポロだ。しかし試合後のアポロは苦い顔だった。
辛くも勝利した？いや、これがルールに縛られない男と男の決闘なら、
本誌記者でなくとも、種馬の勝ちだと叫ぶだろう。
アポロは王者として、ブルファイタースタイルへの課題を残したことになった。

ロッキーの地元フィラデルフィア体育館で行われた試合。
ロッキーはたった一晩で地元の英雄となった。
アメリカンドリームとは、このことである。


（文中の対戦相手や所属などは捏造）


起こったことを第三者に伝える。
本人の苦悩やドラマは、随分と記者には伝わっていないだろう。
しかし起こったことの因果関係を掘り起こし、
何があったのかを推測できるようにする。
または、それがどんな意味だったのかを解説する。
その事件を理解する。
それがジャーナリズムだ。

ロッキーの物語は、一夜にしてアメリカンドリームを成し遂げたことが、
尊いのであり、意味だ。
彼が個人的に引退しようとしてたことや、エイドリアンと付き合っていたことは、
新聞記事には出てこない。（週刊紙には書かれるかも）
あくまで、表で成し遂げたことの記事が書かれるだけだ。

仮にマスコミが群がらなかったとしても、
三面記事に載った小さな事件と仮定して、
自分のストーリーを新聞記事にしてみる。

そうすると、一番表に出た部分だけを拾うことが出来る。
（てんぐ探偵などのように人知れず解決するタイプの話は、
例えば目撃者のインタビュー記事で構成してもいい。
「妖怪が取り憑いていたんです」と彼は言った、からはじまるなど）


それは客観的に、どんな事件と解決だったのか。
5w1hの新聞記事にしてみよう。

そうすることで、突然テーマが見えてくることもある。