2015年06月25日

逆算のこと2

おそらく、脚本家以外の、
全ての素人(ほとんどの、プロデューサー、製作委員会、俳優もふくむ)
が、この逆算を知らないと思う。

逆算から見て最後の最後のかざりつけ、
世界観やキャラのことを、
映画の面白さと勘違いしているのである。


ああいうのつくろうぜ、とか、
これはおもしろい、とか、
これはおもしろくない、とか、
脚本家以外が言うとき、
これらのガワ、すなわち、
逆算メソッドの、本質的でない部分のことを、
言っている可能性がとても高い。

ガワと中身とか、
モチーフとテーマとか、
表現と意味とか、
時々で僕は言葉を変えているが、
物語は、
何をつくるかということと、
どうやってそれを表現するか、
ということのふたつがある。

面白いとか面白くないとかの、
動物的反応は、
実はこれをより分けて考えられていないことがあることに注意しよう。

本当に面白いものは、
面白い中身を、面白いガワで、意外性があり新しい組み合わせで提示したものだ。

面白くないものは、この三つのうちどれかがイマイチなのだ。
中身が詰まらない、
ガワがふつう、
中身とガワの組み合わせが、よく見るタイプのやつ、
の、
どれかまたは全部だったりするのだ。


殆どの脚本家でない素人は、
下手なアドバイスをする。

「これのこれは良かったから、あと他を直せば良くなるんじゃないか」
などのように。

これは気を付けたほうがいい。


逆算のメソッドにおいて、
先につくるべきものは、
結末であり事件であり主人公でありテーマであった。
これをキープしながら、
ガワを取り替えるのは、その気になればいつでも可能だ。
(前記事では恋する文化祭委員を、
現代学園ものでなく、江戸時代やくざもの、
サラリーマンもの、SFアクションにする可能性を示した)

ところが素人はこのような構造を知らないから、
「江戸時代のやくざは面白いから、他の話にしたら?」
というような、とんちんかんなアドバイスをするのである。

言葉通り、江戸時代を残して、恋する文化祭委員の話をアレンジしていっても、
決して面白い話にはならないだろう。

もしその人に直接話が出来るなら、
「この話は恋する文化祭委員の江戸時代版なのだ、
それをSFにも作り替えられるのだが、
そもそも恋する文化祭委員の話が詰まらないのか?」
と、江戸時代のディテールを抜いて、
話の本質を話すといいだろう。

きっとその素人はとても戸惑う。
「そんなこと、考えたことない」と逃げるかも知れないし、
知ったかぶりをするかもしれない。

いずれにせよ、的確なアドバイスを受けることはその人からは出来ないだろう。


もし江戸時代が良かった、というのなら、
その人が江戸時代を好きか、
あなたの調査が優れていて江戸時代を生き生きと描けていたか、
江戸時代の枷をうまく使って物語の翻案がうまく出来ていたか、
キャラクターが良かったか、
あるいは今江戸時代が受けているか、
あるいは今後江戸時代が受けるだろうという勘かの、
どれかまたは複数である。

いずれにせよ、お話そのものが良かった、
ということを言われていないことに気づこう。




素人は、本質と表面を分離して分析できない。
それをごっちゃにして、
面白い/面白くないと、主観的な言葉で言う。

脚本打ち合わせの場でも、
よくそうした混同が起きる。
そもそも混同ではなく、
そこしかあなたは見てないんではないか、
とすら穿った見方をするペラペラの人も同席していることがある。

あなたは素人の意見に振り回されて、
自分の話を見失ってはならない。

逆算のメソッドをマスターしておけば、
どの段階のことの話をしているのかが、
明らかになるからである。


今僕は上級者にしか分からない話をしているかも知れない。
しかし本当は、初心者のうちから身につけるべきことを書いているつもりだ。

お話をつくるということはどういうことか。

表面に表れることをつくるのではなく、
中にあるものからつくるということはどういうことか。

これが分かるには、
やはり沢山沢山書いた経験がいるような気がする。
自得するには、数をこなすしかない。
名作を沢山見て、分析することだ。
(映画以外の名作を見るのも勉強だ)


で、江戸時代のやくざだけ残してどうすればいいかって?
恋する文化祭委員の話をまるで捨てて、
たとえばロッキーのような話を、
江戸時代のやくざを使ってやればいいのさ。
ロッキーのような話じゃなく、
他の話を持ってきてもいいぜ。
その持ち話のパターンの多さが、脚本家ってことさ。
posted by おおおかとしひこ at 09:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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