何故あなたは話を書きたいのか?
昔見た何かみたいなのを真似したいからか?
昔見た誰かのように書きたいからか?
つまり、物真似が動機なのだろうか?
例えば僕は、中学生の頃バトルカンフー漫画を描いていた。
北斗の拳やジャッキーブーム、カンフーブームの真っ只中だったからだ。
それに近づきたくて、原哲夫の筋肉を真似したり、
より簡単なキン肉マンの筋肉を真似したり、
ジャッキーの技を真似して絵に描いたりしていた。
つまり、何かと自分の創るものを同一視していた。
正確に言うと、本人は同一視しようなんて考えたこともなく、
ただただ楽しいからやっていた。
僕の古い友人は舞台女優なのだが、
彼女は本が好きで、その好きな本の中にいたいから、
演劇を始めたのだという。
(小説も劇作もやる人だったんだね)
で、僕は漫画も書きながら映画も撮ってしまい、
今このへんにいる。
出発は、多分誰でも真似だ。
あれの世界にいたい。
再現したい。
あの世界に近づきたい。
言葉にならないけれど、きっとそんな単純な理由で、
人は無意識に創作をはじめるのだ。
ちなみにその彼女に小説は書かないのかと尋ねたら、
自分に文才はないから諦めたらしい。
そして彼女は美人だ。だから(最初は求められて)女優をはじめた。
僕は漫画を描いたり台詞を書いたりが好きだったから、
そして不細工だったからイケメン俳優にはならず、
書き手に回ったのである。
ちょっとしたスキルの差が、
大きくその後の人生を変えたのだが、
芯にいるのは二人とも同じだ。
その世界にいたい、近づきたいことである。
これが例えば好きな人に近づきたいなら恋だろうし、
山がそれならアルピニストになり、
スポーツがそれならスポーツマンになるのかも知れない。
たまたま僕らは、
漫画や映画や小説や演劇などの、「三人称形のおはなし」が、
好きだったのである。
だから、最初は憧れとか近づきたいから、
でいいと思う。
二次創作なんてまさにそうではないか。
大好きな世界の、ほんの隙間を延々と埋めて楽しむことは、
僕らが最初に創作をはじめた無意識の気持ちと、
全く一緒かもしれない。
ところが。
いつか人はそこから、自分なりの世界を持つようになるのである。
自分を育ててくれた物語世界の真似を捨てて、
その揺りかごから出て、
自分独自のキャラクター、世界、ストーリー、テーマを書きはじめるようになるのだ。
いきなり全オリジナルではなく、
どこかは○○に似ているとかあるかも知れない。
下手したら全部パクり元が特定できるかも知れない。
(それは単なるリミックスであり、アダプテーションであり、
創作ではないが)
何かに似ているとかが殆どなくなってきて、
はじめてあなたは作家の入り口に立ったといえる。
ラノベっぽいのをやりたい、
ハリウッドSFみたいなのがやりたい、
ヒーローものがやりたい、
○○さん風の世界にしたい、
あの世界観ぽい話をつくりたい、
あのキャラっぽいキャラが書きたい、
あの設定を真似したい。
それがあなたの書く動機の、奥の方にいるのなら、
あなたはまだアマチュアだ。
単なるファンの物真似だ。
○○っぽいのがやりたい。
その○○に、あなた自身の名前が入らない限り、
あなたはまだ一人前とは言えないだろう。
どうやったらそこまで自信ができるの?
数を書くしかない。
物真似や憧れを脱して、
自分なりの何かを作るようになってきて、
どの、○○っぽいものも、もういいやと思ったとき、
自分独自の何かを作りはじめる時が来る。
それまでは、たっぷりアマチュアイズムを楽しむといい。
中学時代に撮ったカンフー映画では、
夕日バックとか、スローモーションとか、
マントをバサッとはおるとか、
色々「やってみたかった」カットを撮った。
それは、どこかで見た何かを、再現してみたかっただけだと、
今なら分かる。
そういう物真似を全部やりつくしたとき。
憧れを全部消費し尽くしたとき。
あなたの創作は、やっと一歩目を踏み出すのである。
そのとき初めて、他の何かではなく、
あなたの作るものに似ている何かを、
作ることになる。
それが作風だ。
アマチュア時代は、作風なんてない。
好きなものの傾向があるだけだ。
作風とは、それを全部消費したあとに残ったもののことなのだ。
僕はブラックジャックに憧れて、
いつかあんな人間ドラマを書きたいと思っていた。
加山雄三のブラックジャックも中学時代に全話見た。
今回図らずも、心の闇を治療する、
心の医者の話を書いているのだなあと気がつく。
てんぐ探偵は、ブラックジャックには似てないさ。
大きな構造は似てるけど、
シチュエーションも、ストーリーラインも、テーマも違うものね。
(大きく人間賛歌というテーマではあるけれど)
あなたは、どんな憧れや近づきたい世界がある?
それを自覚するのは悪くない。
アマチュアのうちに、
徹底的にその世界に近づき、その気持ちを消費し尽くすといい。
2015年07月04日
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