2015年07月24日

デジタルは人を幸せにしない:モニタの中だけで完結する

度々いろんな角度から書いてるこのテーマ。

ちょっとダメな人がデジタルを使うときにありがちなこと。
それは、モニタ内が世界の全てになってしまい、
その中での完成度を上げることばかり考えて、
現実世界でそれはどうかを気にしなくなってしまうことだ。


僕はCGがあまり好きではない。

(ちなみに「いけちゃんとぼく」では、
いけちゃんは全編クレイのコマ撮りでやろうとしたが、
予算的問題ではねられた)

何故なら、CGはモニタ内でしか通用していないからだ。

現実にこういうのがあるとしたら、
という「画面外のリアリティー」を感じないからである。

「画面外のリアリティーがあって、
その一部が画面におさめられているに過ぎない」ではなく、
「その画面内だけで表面的によく見えるように完結してしまっている」
からである。

下手くそなCGは、特に画面内で完結している。
画面の外のリアリティーが写ってないだけである、
ようには作られない。

僕がそれを感じた最初は、
前も書いたかも知れないが、
スターウォーズEp1の、クワイガンジンが基地に入ってくるカットで、
足元の小さなロボットが絶妙にそのタイミングに合わせて動くときだ。
タイミングが良すぎると思った。
つまり、このロボットは、
基地内で他に役割があってたまたま足元にタイミング良く写りこんだのではなく、
このカット内のこのタイミングで足元に写るためだけに100%存在しているような気がした。
つまり、このモニタ内でしか存在しない存在に見えたのだ。
このカット内での完成度の為だけに存在し、
他の現実的奥行きがないように思えたのである。


ダメな後輩の編集などを後ろから見ていると、
そのモニタ内での完成度は高いのだが、
それを全然違う文脈で全然違う人が見たとき、
まる無視されるような詰まらないものになっていることに、
編集している本人が気づいていないことがある。

デジタル作業はそこが怖い。
マウスで操作できるため、
モニタ内が絶対唯一の空間になり、
そここそが神のワールドになってしまう。
現実はモニタの外にあって、
モニタ内の世界があろうとなかろうと、
現実は勝手に動いているのにだ。

デジタルモニタはひとつの箱庭を用意したが、
それは現実(の全て)ではないことを、
ダメな人は区別できなくなりがちだ。


という話を同僚としていたら、
面白い例があるそうだ。

警視庁の優秀なグループといまいちなグループでの、
メールの文面を調査したら、有意差があったらしい。
優秀なグループは文面が汚く短く誤字脱字だらけで、
いまいちなグループはとても丁寧で長く間違いなど微塵もないのだそうである。
メールは現実の捜査の一部の連絡事項に過ぎないから、
現実に仕事がちゃんとしていれば、いわばどうでもいい。
迅速に意味が伝われば用をなすと考えているらしい。
ところが現実に仕事が出来ない人ほど、
文面を丁寧に時間をかけ完璧な文章にしているのだそうだ。

この逆説(のようなもの)が、
僕が、現実とモニタ内での完成度で言おうとしたことと、
大体同じことを別の側面で言っていて、
なかなか面白かった。


デジタルは人を幸せにしない。
特にデジタルを道具として使えないレベルの人を、
モニタ内の箱庭の神に閉じ込めてしまい、
そこから出てこれなくしてしまう。
2chとかを最近見てないのでまだ罵り合いとかをしてるかは知らないけど、
箱庭の神同士のケンカだよなあれは。

デジタル弱者と言ってしまえばそれまでかもだけど。


無理矢理脚本論に戻すと、
箱庭の神は一人称の世界なんだよなあ。
他人とのかかわり合い、三人称じゃないんだよなあ。


悪貨は良貨を駆逐する、という現実世界の常識から考えれば、
そういうデジタル弱者ばかりが、
デジタルを道具として下に見るデジタル強者を駆逐するということだ。

事実、何故「いけちゃんとぼく」がCGになったかというと、
現実に実物大のいけちゃんを置いて撮影するのは「大変だから」だ。
合理化は必要だけれど、
そこは大変でもやるべきだと僕はずっと主張した。
CGで楽しようと思う人がCGを採用するから、
安くできるCGを選び、表現がさらに安くなっていくのだ。
(それでも日本映画のダメCG、
例えば同時期制作同ランクCG予算の「釣りキチ三平実写版」の魚のCGよりは、
多少ましにしたつもりだけど、
やっぱりハリウッドから見れば糞レベルだよね)
posted by おおおかとしひこ at 09:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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