2015年07月29日

何故それをしなければならないのか?

これは頻繁に起こる、
詰まらない脚本の欠陥である。

何故それをしなければならないのか、そこに同調出来ず、
話が滑っていく。


僕は幼稚園の頃、
何故お遊戯をしなければならないのか分からなかった。
分からなかったので、
皆と同じように笑顔になって、
手足をばたつかせることを、ずっとボイコットしていた。

ボイコットは僕目線だが、他人目線からすれば微動だにしない子だ。
先生から見れば扱いにくいガキだったろうし、
周囲の子からすればノリの悪いやつだったろう。
今俺がタイムスリップ出来たら、
彼にこう言える。
「世界を変える手段を学ぶためだ」と。



その主人公が、どういう「納得」で、
その目的を実行しようとしているのか。

ここをちゃんと作っているだろうか。
ダメな脚本はそれが曖昧か、伝わってこない。
(恥ずかしくて作者が遠慮していることも含む)

まず、「主人公なりの納得」が必要だ。
(たとえ自分勝手だとしてもだ)

大抵の実行にはリスクがある。
そのリスクを越えたリターン、
結果得たいものが彼にあるから、
彼はその行動をする。

極端な例を。

何故彼は麻薬をするのか。
気持ちいいからだ。
脳を破壊することで、
ノーマルな脳の状態より気持ちいいから麻薬をするのである。

それがその人のなかで完結していれば、矛盾もない。
むしろ座している理由などない。
行動あるのみだ。喉から手が出るほど、それは欲しいものなのだ。
犯罪を犯してでも。

それを動機という。

物語における登場人物は、
すべからく動機と、具体的な実現目標、すなわち目的を持っている。
それが共感しがたく、反社会的であるかどうかとは、
とりあえず関係なくだ。
(もし「全員」が社会的道徳的ならば、それは「やさしい世界」になってしまう。
一言で言えばぬるい)

動機はその人のなかで全く矛盾しない、
当然のもので、
しかも欲しくて欲しくてしょうがないように設定するとよい。
リスクを犯すからである。
そして、他人のリスクこそ見世物だ。


感情移入とは、その動機に、
我々観客が心底その通りだと思うことを言う。

例え麻薬をするという自己破滅的、反社会的動機であっても、
感情移入させることは可能だ。
その最悪な映画に、「レクイエムフォードリーム」がある。
心底その通りだと感情移入するからこそ、
ラストの破滅に、我々の精神は壊滅的ダメージを受ける。
バッドエンドの最高峰映画として勉強の為に見るべきだ(R18クラス)。
この映画が最悪なのは、
単なるグロ描写とかの見た目で最悪にするのではなく、
感情移入を伴って最悪の結末にするところである。
グロ描写だけなら他にたくさんある。
しかしこの映画は、精神に来る。
ただのバッドエンドではなく、
感情移入してからの叩き落としだからだ。

それに耐えうる精神力の人だけ、見るといいだろう。
感情移入はどのような動機にでも可能だという、
映画の魔法の一端を見ることができる。



さて、感情移入のプロセスは過去記事を検索してもらうとして、
その人物も、それをそうしたいと心底思い、
観客も、それはその通りだと思うように、
つくるべきである。

何故それをしなければならないのか?と観客が退屈する瞬間は、
その人物と観客の精神的な紐帯、
感情移入が途切れてしまっている証拠だ。


ゲームは感情移入ではない。
何故それをしなければならないのか?を、
問うことはない。
何故将棋が相手の王を取らなければならないか、に理由はない。
「そういうルールの下で楽しむ」ことになっているからだ。

だから、ゲームは映画にならない。
映画とは、その目的に感情移入させる、第一幕からはじめるからである。

相手の王を取らなければならないことに、
凄く感情移入出来れば将棋は映画になる。
多くのゲームが題材の映画では、
ゲームは目的ではなく手段であることで、
主人公の目的を別につくるものだ。

つまり、ジェットセットラジオの目的、
街を駆け回り、グラフィティを描いたりトリックを決めたりすることは、
映画の目的にならない。
主人公には別の目的があり、爆走は手段であるパターンが最もあり得る。
(ジェットセットラジオの目的に、誰もが感情移入出来るように作れば、
その限りではない)
同様に、エアギアは、目的が定かでなく、
空の王になるという取って付けた動機にも感情移入出来ない。
だからあれだけの画力にも関わらず、
ストーリーは滑りまくっている。



目的は何か?動機は何か?
そこに我々はどれぐらい感情移入しているか?
ほとんどそれが、映画である。
posted by おおおかとしひこ at 16:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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