2015年08月03日

葛藤に関するルールを決めよう

相変わらず、「葛藤」でこのブログにたどり着く方が多い。
葛藤はconfictの誤訳だ。

葛藤、煩悶、悩みを、映画やドラマでは描けない。
心の中の声が聞こえたり、文字で出れば別だけど。

しかし悩まない人はいない。
そこで、葛藤は多くてもトータル5分まで、と決めよう。
(2時間映画で。つまり全体の5/120、1/21までだ)


悩むのはあなたであり、主人公ではない。
悩むのは主人公でなく、
観客である。

つまり、複雑な事情や思いを前にして、
「一体どうやって決着をつけるのだろう、
AだろうかBだろうか、しかしどちらかを選べばどちらかに痛みが…」
と「思い悩む」のは、主人公の周囲であり、
我々ハラハラする観客であるべきだ。

主人公は、その複雑な事情で、
決断するのが仕事だ。

複雑な事情を前に、妥当な判断や、
思いきった選択をするからこそ、主人公なのだ。

主人公は何もヒーローである必要はない。
一人の人間であり、か弱い人である。
しかし、その大胆で勇気ある決断を描くのが映画だ。

葛藤、煩悶、思い悩みは、なにもしない。
あなた(作者)ははげしく悩むかも知れないが、
「あの人」は何もしないように「見える」。
前者は一人称であり、後者は三人称だ。

三人称で悩むことは、なにもしないことと同じだ。
三人称は、外面からその人の内面を推し量る形式だ。
「クイズこの人の内面は?」なのだ。
なにもしていない人の内面を当てるのは不可能だ。

この自分と他人(他人から見た自分)の差を、
きちんと把握しよう。
第三者が、思い悩んでいることと、なにもしていないことは、
傍目からは区別が出来ないということに。

三人称は、その人の主体的行動で、その人の内面を現す文学である。
二次的には、その人のリアクションで現す。

受動より能動。消極より積極。
そうじゃないと、「この第三者は何もしない第三者」になってしまう。


選択肢を前に、ああでもないこうでもないと悩むのは、
観客であるべきだ。だからハラハラするのだ。
一体どうやってこれを解決するのだろうと。
そのような状況を観客が理解し、
心配するほんの数瞬のあと、
主人公は行動でその先を示すべきだ。

三人称物語というのは、そうやって展開するのだ。


もし主人公が悩んでいても、
それは他人に見せる態度や台詞や行動で分かるようにすべきだ。
しかも、「えっと、ああ…」とか「おれ悩んでいるんだ」などの、
直接的な表現は下手だ。
間接的に表現するのが上手だ。
そしてそれは難しいから、主人公を悩ませてはいけない、
という初心者限定ルールを課したほうが手っ取り早い。

主人公が悩むから、
本編中ずっと「何もせず」、最後に決断する、
「落下する夕方」テンプレに陥ってしまう。
ほんと他人の悩みほどどうでもいいものはない。
人は自分の悩みしか興味がないのにね。

その自他の区別が出来ない初心者が、
悩んでばかりの主人公を書いて、詰まらない話にしかならない。


極論。
面白い話は、主人公は悩まない。葛藤も煩悶もしない。
抜群の判断力、決断力、行動力で、他人を巻き込んでいく。
巻き込まれるのは他人ばかりでなく、
観客もである。

ドラマ「風魔の小次郎」で、小次郎の悩み時間はあったか?
ただ何もしない時間はあったか?
悩んでいても、墓を作って霧風と衝突したり、
悩んでいても、風林火山をひたすら振っていたり、
悩んでいても、デートしていたではないか。
ただの葛藤や煩悶は1分もなかった。


ただ悩んだり、葛藤したり、煩悶するタイムを、
作品の1/21以下にすること。
残り20/21は、積極的、自発的、
判断、決断、行動を描くこと。
こうやってルール化してしまおう。


そのルールを破って、悩んでばかりの詰まらない映画例:
落下する夕方、蛇いちご、桐島部活やめるってよの野球部パート、
ガッチャマン(実写版)、Re: サイボーグ009、キャプテンハーロック(CG版)、
ノーランのバットマンシリーズ(敵役は面白いと思うが、主人公が面白くないと思う)

ちなみに、小説や漫画では、
地の文や心の声で、主人公の悩みを豊かに表現することが出来る。
映画では出来ない。
地の文も心の声もないからだ。
パントマイムなら出来るかな。
(心の声を描きまくった「私の優しくない先輩」は、詰まらない映画だった。
絵は抜群にいいのにだ)
posted by おおおかとしひこ at 10:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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