2015年08月21日

フィクションの正体

僕は、「脳のなかで現実を理解する様式」のことだと考えている。

つまり、現実がどうであったとしても、
人は、フィクションの物語のようにしか、
世界を理解できないのではないか、
と考えている。


例えば、二重スリット実験の結果を、
我々はうまく腹に落として理解できない。

世の中には粒子的なものがあり、
それらがぶつかり合っているという形式でしか世の中を考えられないし、
または、
世の中には波的なものがあり、
それらが媒質を伝播して伝わる、という形式でしか世の中を考えられない。

したがって、確率的に結論が変動し、
しかも同時にその性質があらわれる、
という我々の理解の形式にそぐわない、
二重スリット実験は、理解できない。

確率的に結論が変動するもので、
我々の理解の形式に沿うのは、
パチンコとかサイコロだろうか。
シュレディンガーの猫は、
パチンコが出なければ死、出れば生だが、
パチンコ屋が外から観察できないため、
生と死の重ね合わせ状態と定義できる、
というような理解の仕方しか出来ないだろう。

もう少し考えると、
我々は結果を見てからしか、確率的な結論を知ることができず、
パチンコが出るか出ないかは、理論的な予測が出来ない、
と、パチンコ屋の猫の思考実験は言っているだけである。

しかし二重スリット実験はもっと分からない。
これは一体どういうことなのか、分からない。
五次元世界で通る理屈があるのかも知れないが。
(アモルファスは四次元空間で結晶構造を持つ、
という話が僕は好きだ。一体どういうことなのか、腑に落ちてないけど)


フィクションは、現実を理解する様式だと僕は思う。

よく分からないことがあれば、
それは妖怪や幽霊のせいにすれば、
辻褄があい、辻褄が合わないままの不安定な状態を、
「理解した」と安心できるのだと思う。

人が死んだらどこへいくのか、
という分からない不安を、
天国へ行くのですよ、というフィクションが、安心させてくれる。
自我の消滅を自我は認識できないという、
訳のわからなさを、
死んだら別の場所に行く、というフィクションで、
理解したことにするのである。

なぜこの恋はうまくいったのかを説明できないから、
運命だったというフィクションで理解し、
安心するのと同じである。


フィクションは、分かりやすくなくてはならない。
それは、ストーリーが単純とか複雑とかの、
表面的なことを言うのではない。

その世界を、たとえ複雑だったとしても、
「ちゃんと理解できた」と、
思わせなければならない。

「分かりやすい」フィクションとは、
単純明快とかシンプルとかではなく、
「手が痒いところに届き、きちんと理解できた」ことを言う。

例えばブラックジャックという漫画は、
外科医のやっていることを、
なんとなく理解させてくれる。
それが誤解だったり、嘘も含まれるかも知れないけど、
我々は、外科医を理解した、と思う。
病気とはどういうもので、
外科医はそれをどうやって治すのか、
根本的に理解したような気になる。

重ねて言うが、
真実と遠い可能性はある。
あくまで、「我々が分かりやすい理解」なのである。

大塚家具の父娘が、
実際を越えて、どんどん物語的になっていったことを思いだそう。
あのとき、
「実は父は娘の為に敢えて悪役を演じ、
追放されることで、それ以外の全員の団結を強固なものにしたのだ」
という妄想を皆がしていた。
父娘の確執というフィクションには、
大抵そのようにして、父娘の争いを理解する仕組みがあるからだ。


フィクション的な理解は、
本当の理解ではない。
しかし、よく知らない世界を、理解した気になる。

つまり、フィクションとは、
大いなる誤解のことを指すのかも知れない。



フィクションは何のためにあるのか。
その「世界を理解したという誤解」をさせて、
テーマを受け入れさせる為にあるのだと思う。

ブラックジャックに話を戻せば、
外科医の世界を理解した気にさせることは、
テーマ、すなわち、
「病気を治すのは生きようとする力だ」ということを、
納得させるためにあるのではないだろうか。

(てんぐ探偵は心のブラックジャックだ、
なんてかつて大上段に構えてみた。
なんとなく、似たテーマに最終的に結実したように、
これを書きながら思っている。発表までもう少しお待ちを)
posted by おおおかとしひこ at 01:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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