続き。
一人のなかの変化を描くのは、
一人称のストーリーだ。
このブログでは映画脚本について考えている。
テレビドラマやショートフィルムのストーリーについてもだ。
それらの特徴は、三人称であることだ。
一人称と対比的に考えるのならば、
三人称のなかの変化を描くのが、
三人称的ストーリーだ。
三人称とは、彼、彼女、彼らのことである。
単数形でなく複数形で考え、
のちに単数形を考えることにする。
彼らの変化を描くのが、ストーリーだ。
始点の彼ら。終点の彼ら。
その変化の軌跡。
それがストーリーだ。
理想は、全員が変化することだ。
変化しない人にはストーリーがなかったことになる。
したがってその人は、
理屈上ストーリーから除くことが出来る。
それを繰り返すと、
変化する人たちだけのストーリーに凝縮することができる。
全員が、何故、どうして、
始点の彼らから、変化の軌道をたどり、
新たな状態になったのか、
がストーリーだ。
何故なら、こういう事件があって、
彼らはこう反応し、こうしたからこうなったからだ、
がストーリーだ。
これを僕は「事件と解決」という短い言葉でさしている。
さて、
三人称形とは、
わたしでもなくあなたでもなく、
彼らの物語だ。
他人の話だ。
僕は「猿山の猿を眺める」と表現するけど、
自分でも大切な人でもなく、
知らない他者を眺めるのだ。
他者の変化を見るのである。
従って、変化とは、見た目や行為の変化である。
内面の変化は、外から見ていては分からない。
あることに対するリアクションが変わったとか、
あることをしなくなったとか、
あることをはじめたとか、
外側から見た変化でしか、変化を表現することはできない。
髪や指を切って外見の変化で内面の変化を表現するのは、
比較的幼稚な方法だ。
原始的とも言えるけど、大人のコミュニケーションはもう少し高度である。
変化とは、動きだ。
ダンスとかアクションとかの、物理的動きではなく、
変化から感じられる、
我々のなかの動きの感覚だ。
映画や演劇という三人称形物語は、
この動きの感覚を、
最終的には、絵のなかの動きで表現するメディアである。
大きな変化を、大きなアクションに象徴し、
それを演じるのが、芝居というものだ。
芝居というのは何でもかんでも大袈裟にやればいいものではない。
遠くの席から見ても分かるようにオーバーアクションすることでもない。
変化の大きさを、芝居の大きさに合わせることが、
本当の芝居だ。
演劇では、全身でそれを表現する。
映画にはアップがある。
その画面内での最も大きなアクションが、最も大きな芝居だ。
たとえば目のアップでは、瞬きが一番大きなアクションで、涙を流すより大きい。
顔のアップなら、瞬きよりも涙が流れる方が大きなアクションだろう。
街のロングショットでは、核爆発が最も大きなアクションだが、
地球のヒキでは、核爆発よりも月墜落のほうが大きなアクションである。
演劇では逆に、サイズの変更がないことを利用し、
吊りや回り舞台、どんでん舞台、群舞やバク転や殺陣や階段落ちなどを、
大きなアクションに見せる工夫をする。
映画ではカットを割ったり、カメラを動かすことで、
アクションの大きさを、俳優のアクションとの組み合わせで表現する。
つまり、
映画とは、
彼らの変化を、動きの大小で表現するメディアである。
彼らが彼、と単数形になった場合どうか。
(彼女の可能性もあるが以下彼に統一)
猿山の猿が一匹で何をやっているか、
理解させるのは、その猿の分かりやすさがないと分からない。
それは、パントマイムというサイレントムービーで洗練されたものである。
「人は一人のとき独り言を言わない」から、
言葉を発することなく、
パントマイムで表現するしかない。
心の声をナレーションで被せると、
それは一人称小説の再現になる。
一人のなかの内面を言葉で説明するのは、三人称ではなく一人称だ。
映画は三人称である。
従って、
彼ら複数の変化を描くか、
彼一人のパントマイムを描くかの、
二種類しかない。
これは理解し、覚えるべきことだ。
簡単に、一人称形を混同してここに混ぜてしまうからだ。
簡単にナレーションを被せたり、
簡単にメアリースーを混ぜてしまう。
それは書き手の未熟であり、
三人称形を根本から分かってないことの証明である。
あるいは、変化しないものはストーリーではない、
ということも、なかなか書けない。
変化しない人物を除いて、残ったものしかストーリーではないから、
一度やってみるといい。
さて、
何故、他人たちの彼らの変化が、
そんなに面白いのか。
勝手にやってればいいじゃねえか、俺とは関係ないし、
と思われたら、興味を持たれない。無視だ。
興味のもたせかたには二つある。
扇情と、感情移入である。
つづきます。
2015年09月02日
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