実践的な話。
制作サイドからすれば、シチュエーションの数は少ないに越したことはない。
セットが10から5になれば、
美術予算は半分になる。
あるいはポジティブに、1セットに倍の金をかける決断もできる。
映画は元々一点豪華主義だ。
あるウリに金をかけて、他は普通、というものだ。
(オールスター映画ぐらいだろう、予算が豊富なのは)
シチュエーション数は、少ないに越したことはない。
しかしただ減らすのは難しい。話が痩せてしまう。
どうすればいいか。
同じ場所を使い回す、というのは、
貧乏なら誰もが考える。
スリラー「CUBE」は、
立方体が延々と続く迷路に閉じ込められた一行の話だが、
迷路いう設定なのに、
実はあの立方体セットは、なんと、ひとつしかないのだそうだ。
僕はそれを聞いたとき「やられた!」と思った。
よく見ると、ライティングを変えることで、
同じ形の部屋をまるで別の部屋に見せることに成功している。
同じ形の部屋が無限に続く設定で、
次の部屋に行っても、ライティングを変えた同じセットで撮ることが出来る。
つまり、あの映画は、ラストの合成ショット以外、
ワンシチュエーション映画なのだ。
全体予算を圧縮する代わりに、
例えばキャストや、ライティング予算や、
美術予算(仕掛けの数々)や、
撮影日数などに、多くを避けるのである。
同じシチュエーションを、昼夜で使い回すのもよくやる。
同じシチュエーションを、全然別の文脈で使うこともよくやる。
これらは、話を変えることなく、
使い回しするという演出的な逃げ方である。
一方、脚本サイドで可能な、
シチュエーションを減らすことは、
「話を濃くする」だ。
そのシーンで、
よりディープな感情にして、
感情の触れ幅を大きく、
物語の動く幅を大きく、
展開の段を増やし、
登場人物も増やして話を複雑にし、
多くの人物にとっての決定をそのシーンで選択させる。
そうすると、そのシーンは濃くなる。
(薄くするには、逆をすればいい)
そのシーンのボリューム(内容と尺)が増えた分、
他のシーンをカット出来るという計算だ。
初心者は、話を濃くしようとすると、
シーンを増やし、シチュエーションを広げて対応する。
しかしこれは予算を圧迫し、
ひとつひとつのクオリティを下げる決断しか答えがない。
結果、脚本は濃くても出来は薄くなるのだ。
シチュエーションをただ減らすのも更に愚策だ。
薄くにしかならない。
(いけちゃんとぼくでの、CGカット半減命令にたいしての、
本当にただ減らしただけの愚策を、今自己批判している)
正解は、シチュエーションを減らして、
話を濃くする、である。
話が濃くなれば、他のシーンで薄めるバランスが働き、
逆に起伏が生まれる。
薄いシーンは流して、あるいはカットして、
濃いシーンをメインに撮ろうという気運が生まれる。
話の重要なターニングポイントを握るシーンだからこそ、
そこを濃くするために、
シチュエーションを減らして考えるのは、
とてもいいやり方かも知れない。
僕は安易なスプレッドをバカにする。
空間方向に話を広げることは、
話を深くしない。
話を深くするには、空間を狭めて集中して、
掘り下げることである。
つまり、空間を広げるほど、話は浅くなるのだ。
シチュエーションを減らさなければならない制約は、
現実には数多い。
それは、話を濃く深くするチャンスだ。
もちろん、あなたが深くも濃くもないのなら、
それを書くことは出来ないだろうけど。
(例えばてんぐ探偵十一集53話「ダンディジェントルマン」は、
元々冬の話で、公園のあとおでん屋台で決着をつける話だった。
しかし執筆中に、夏のあとに季節が変わったため、おでん屋台をやめて、
公園で全てを決着させた、とても濃いシーンになった)
2015年09月21日
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