2015年09月21日

シチュエーションを減らすには何が必要か

実践的な話。

制作サイドからすれば、シチュエーションの数は少ないに越したことはない。
セットが10から5になれば、
美術予算は半分になる。
あるいはポジティブに、1セットに倍の金をかける決断もできる。

映画は元々一点豪華主義だ。
あるウリに金をかけて、他は普通、というものだ。
(オールスター映画ぐらいだろう、予算が豊富なのは)

シチュエーション数は、少ないに越したことはない。
しかしただ減らすのは難しい。話が痩せてしまう。
どうすればいいか。


同じ場所を使い回す、というのは、
貧乏なら誰もが考える。

スリラー「CUBE」は、
立方体が延々と続く迷路に閉じ込められた一行の話だが、
迷路いう設定なのに、
実はあの立方体セットは、なんと、ひとつしかないのだそうだ。

僕はそれを聞いたとき「やられた!」と思った。
よく見ると、ライティングを変えることで、
同じ形の部屋をまるで別の部屋に見せることに成功している。
同じ形の部屋が無限に続く設定で、
次の部屋に行っても、ライティングを変えた同じセットで撮ることが出来る。

つまり、あの映画は、ラストの合成ショット以外、
ワンシチュエーション映画なのだ。

全体予算を圧縮する代わりに、
例えばキャストや、ライティング予算や、
美術予算(仕掛けの数々)や、
撮影日数などに、多くを避けるのである。


同じシチュエーションを、昼夜で使い回すのもよくやる。
同じシチュエーションを、全然別の文脈で使うこともよくやる。
これらは、話を変えることなく、
使い回しするという演出的な逃げ方である。


一方、脚本サイドで可能な、
シチュエーションを減らすことは、
「話を濃くする」だ。

そのシーンで、
よりディープな感情にして、
感情の触れ幅を大きく、
物語の動く幅を大きく、
展開の段を増やし、
登場人物も増やして話を複雑にし、
多くの人物にとっての決定をそのシーンで選択させる。

そうすると、そのシーンは濃くなる。
(薄くするには、逆をすればいい)

そのシーンのボリューム(内容と尺)が増えた分、
他のシーンをカット出来るという計算だ。


初心者は、話を濃くしようとすると、
シーンを増やし、シチュエーションを広げて対応する。
しかしこれは予算を圧迫し、
ひとつひとつのクオリティを下げる決断しか答えがない。
結果、脚本は濃くても出来は薄くなるのだ。

シチュエーションをただ減らすのも更に愚策だ。
薄くにしかならない。
(いけちゃんとぼくでの、CGカット半減命令にたいしての、
本当にただ減らしただけの愚策を、今自己批判している)


正解は、シチュエーションを減らして、
話を濃くする、である。

話が濃くなれば、他のシーンで薄めるバランスが働き、
逆に起伏が生まれる。
薄いシーンは流して、あるいはカットして、
濃いシーンをメインに撮ろうという気運が生まれる。

話の重要なターニングポイントを握るシーンだからこそ、
そこを濃くするために、
シチュエーションを減らして考えるのは、
とてもいいやり方かも知れない。


僕は安易なスプレッドをバカにする。
空間方向に話を広げることは、
話を深くしない。
話を深くするには、空間を狭めて集中して、
掘り下げることである。

つまり、空間を広げるほど、話は浅くなるのだ。


シチュエーションを減らさなければならない制約は、
現実には数多い。

それは、話を濃く深くするチャンスだ。



もちろん、あなたが深くも濃くもないのなら、
それを書くことは出来ないだろうけど。

(例えばてんぐ探偵十一集53話「ダンディジェントルマン」は、
元々冬の話で、公園のあとおでん屋台で決着をつける話だった。
しかし執筆中に、夏のあとに季節が変わったため、おでん屋台をやめて、
公園で全てを決着させた、とても濃いシーンになった)
posted by おおおかとしひこ at 16:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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