2015年09月28日

クライマックスでは、アイデンティティーが一番揺るがされる

というか、お話のどこでも、主人公のアイデンティティーは揺るがされる。
お前は誰だと常に問われ、俺はこうだと示していく過程が、
物語そのものだ。

それは物語が動き始めるきっかけ(カタリスト)から、
重要な大ターニングポイント、
すなわち第一第二ターニングポイント、ミッドポイントで、
常に問われる。
それ以外にも展開上重要なポイントで、
必ず問われ、何かしらのリアクション(行動)で自分を示さなければならない。

そのなかでもマックスが、クライマックスである。


一番簡単なものを。

ゲーム「ドラゴンクエスト」のラスボス、竜王戦の前。
「俺と共に世界を支配しよう」という提案が竜王から出される。
主人公は、どちらかを選択しなければならない。
竜王の仲間になれば、自分の利益だけを取る悪の一員。
この申し出を断れば、正義をなす人間だと示し、かつ、
竜王との直接対決をするリスクが発生する。

つまり、主人公は、選択という行動によって、
自分が正義であることを示すのである。

自分が正義なのか悪なのか、アイデンティティーが揺るがされるポイントが、
クライマックスにある。
これはとても大事なことだ。

なんのために行動するのか、ということがテーマになるからだ。
(ドラクエの場合は、正義だ)


行動にはリスクがある。
そのリスクを引き受けてでも行動するからには、
それなりの動機がある。
単純にリターンだけを狙う、功利的な計算の場合もある。
しかしそれ以上に大事なのは、
その行動の意味だ。

たとえばボランティアをする行動には、
売名という意味が発生したり、
純粋にそのことを心配しているという意味が発生したりする。
売名だと批判されるリスクを負ってでも、
そのことを心配する、という意味があったりする。


物語というのは、主人公(とサブキャラ)の行動の軌跡だ。
厳密にいえば、どの行動、発言にも、
リスク、功利的なリターン狙い、動機、功利的だけでない意味がある。

クライマックスでは、そのリスクが最大になり、
本当にそれをやる意味があるのか?
それをやる意味はそもそも何か?
と自ら問わざるを得ない、一番切迫した状況になる、
ということである。

だから主人公のアイデンティティーが揺るがされる。
これをやる俺の意味は?と。

そこで、そもそもの動機を確認するのである。
そう言えばこう思って出発したのであったと。

たとえば○○を解決したいと思ったからだ(外的目的)。
が、そこにはもっと個人的な思いがあったはずだと。
つまり、個人的な隠された動機(内的目的)である。

これまでの長い話の中で、主人公のそのような個人的な動機が、
どこかで明かされ、それなりにいい話だった筈だ。

それがないのなら、ロボット主人公だ。
糞ガッチャマンのケンに聞いてみよう。「あなたは何故命を賭けてギャラクターを殺すのか?」
糞実写進撃のエレンに聞いてみよう。「あなたは何故命を賭けて壁爆破の任務を受けたのか?」
(ミカサが殺されたから復讐する為、というのは一切出てこなかったね)

この二糞作品は、それが0だから糞なのである。
クライマックスは、リスクが最大にある。
つまり、死ぬかも知れないということだ。
クライマックスは俺ツエーを見せるところではない。
俺ツエーはリスク0(最強ならリスクはない)だからだ。
逆だ。俺ツエーをしても死ぬかも知れないのが、クライマックスだ。

死ぬかも知れないのに、何故そのリスクを負うのか、
が物語なのである。
つまりは、再び話は動機に戻るのだ。
何故それをするのか?に。

それは、主人公が自分自身に問うたり、
自然と誰かに問われるだろう。

その行動をする意味はなにか。

それが物語だ。



あなたの物語のクライマックスは何か。
最大のリスクは何か。
最大の行動は何か。
最大の動機は何か。
最大の意味は、何か。
そして最後に確定する、
その主人公のアイデンティティーは何か。

それは、「このリスクを負い、この行動を成し遂げた、
こういう意味のある人」として、
記憶されるだろう。


例えば正義でもいい。
出来るなら、どういう種類の正義か、もっと細かく言えるといい。
ただの正義なら、そこらへんにたくさんある。
この主人公なりの正義が新しい正義ならば、
それは新しい物語になるだろう。
posted by おおおかとしひこ at 13:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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