物語世界は、架空の世界なのに、
嘘臭くてはいけない。
そこにすむ人間のリアリティーは、
リアルでなければならない。
反応は本物っぽく、沢山の異なる人々がリアルに生活していなければならない。
全てが実在し、無矛盾で、何百年も前からそうであるリアルが必要だ。
しかし、それでは詰まらない。
なんの面白味もない、この日常と同じだからだ。
ひとつだけ物語世界のつくりかたのコツを書くとしたら、
一個だけ大嘘をつくこと、だろう。
たとえば、
「この世界では、うんこが喋る」という大嘘をつくとしよう。
うんこが喋るわけないではないか、
というのはナンセンスだ。
これは、うんこが喋る世界の物語なのだ。
この物語世界では、これ以外一切嘘をついてはならない。
うんこが喋る内容はリアリティーがなければならない。
食べたもののことを喋る。
誰と食べたか喋る。
いつ頃小腸を通過し、その頃お前は何をしていたかを喋る。
うんこの性格は、たとえば「本人が流してしまいたい嫌な性格の部分」かも知れない。
流すときは、この世界ではルールがある。
喋るうんこを流すとき、目をあわせてはいけない、というルールだ。
情が湧いてしまうからだ。
そんなある日、あるサラリーマンが、
流れるうんこと目をあわせてしまう。
こうやって彼は深淵に飲み込まれる。
片想いの彼女のうんこと喋るため、
彼は彼女の家のトイレに潜入することに、ならロマンティックコメディ、
犯人の自白を取るため、彼の秘密を知っているうんこを捕まえる法廷劇、
虐待されている子供のうんこを捕まえる正義のヒーローもの、
事故で記憶喪失になってしまった親友のうんこと会話し、
彼の記憶を取り戻す泣ける話、
などなど、
メインプロットはいくらでも思いつけるではないか。
これが大嘘がないリアリティーなら、
たいして面白くない、日常だ。
彼女の思いが分からない男、
犯人の自白を取る法廷劇、
虐待されている子供を助けるヒーロー、
記憶喪失を取り戻す話、
どれも平凡な物語である。
これをあなたが経験すれば、すごい経験になるかもだが、
フィクションの面白さとしては弱いプロットでしかない。
これが、「うんこが喋る」という大嘘で、
突然面白くなるのである。
コメディでも皮肉でも泣けるのでもよい。
とたんに、日常が物語世界に化けるのである。
さて。
あなたの物語世界は、どんな大嘘をひとつつく?
あとは、
それが日常にあるとしてリアリティーを構築すれば、
話なんていくらでも思いつくぜ!
(てんぐ探偵では、「人の心の闇は、妖怪心の闇のせい」
というのが大嘘だった。
天狗や他の妖怪はリアリティー、すなわち伝承された事実に基づいている。
唯一の大嘘が、妖怪心の闇である。
風魔の小次郎は、夜叉編では、「現代に生き延びた忍者一族がいる」というのが大嘘、
聖剣編では、「聖剣」が大嘘。
反乱編が面白くないのは、これに代わる面白い大嘘が思いつけなかったことだね。
ジュラシックパークなら、「恐竜の遺伝子を取りだし復活させられた」、
愛しのローズマリーなら、「心の美醜が見た目の美醜になる催眠術をかけられた」
が大嘘で、傑作のアイデアである)
2015年10月22日
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