2015年10月23日

物語世界のつくりかた2:嘘はひとつ

つづき。

うんこが喋る世界の物語、
とひとつ大嘘をつくと決めたら、
もうひとつそのクラスの嘘をついてはいけない。



たとえば、
うんこが喋る、かつ、宇宙人が攻めてくる世界をつくってはダメだ。

うんこが喋るからこそ、
あの子の本音を探してうんこを追う、
という話の途中に、
急に宇宙人がアブダクションをすると、
話がふたつになってしまうからである。

つまり、センタークエスチョンがふたつになってしまう。


ナンセンスコメディなら、
うんこが喋る、宇宙人がさらう、恐竜が暴れ吸血鬼が増殖、
なんてな嘘をばんばんつくやり方もある。

しかし、リアリティー溢れる人生を描くのなら、
大嘘はひとつだけにして、
二つ以上違う嘘をつかないことだ。

一回までは嘘をついても許されるが、
何度も違う嘘をつく人は信用されないのが、
リアリティーある社会というものだ。



「save the cat」の中で、
スパイダーマンが、大嘘が二つある映画の例として批判に上がっている。
「蜘蛛に噛まれたらスーパー蜘蛛パワーに目覚める」という嘘の世界での、
隣の子への片想いや、大学進学問題や、
バイトとプライベートの両立などという、
リアリティー溢れる世界の話かと思いきや、
突然、
「スーパー科学者が、スーパーマシン怪人になる」
という大嘘がもうひとつ現れ、
その対決になるからである。
そんな設定なかったやん、と、覚める、という批判である。

実際のところ、これをひとつの大嘘の世界にすることは可能だ。

「何かのきっかけでスーパーパワーに目覚め、
本人の資質でヒーローまたはヴィランになる世界」
という大嘘をつけばよいのである。

例えば冒頭に、
「ある日雷に打たれて死んだ男がいた。
だが葬式の日、棺から遺体が消えた。
彼は実はサンダーマンになり、雷を操る力を得て、
今もどこかでヒーローをやっているのだ」
という世界だ、とやれば、
蜘蛛に噛まれて蜘蛛マンになったり、
緑の薬品を被ってゴブリンになる世界は、あり得る。

まあこの場合、サンダーマンがラスボスにならないと成立しないけど。


「キックアス」は、後発ゆえに、
この「ひとつの大嘘」のつきかたが上手い。
ヒーローはみんな漫画にしかいないフィクションだと思ってる、
しかし(この世界では)実在するのだ、
というフィクションのフィクションのような構造にしているのである。



どうやったらこういうことが出来るだろうか。

面白い嘘をつくことと、
そうだとしてリアリティーを詰めていくことである。

半重力があるとしたら、
自分だけ空を飛べたら、
宇宙人が隣の子だったら、
ある日未来人が来たら、
過去にタイムスリップしたら、
恐竜が甦ったら、
吸血鬼がいるとして、
大日本人がいるとして、
未来から子孫の遣わしたロボットが来たら(ドラえもんとターミネーターだね)、
ある日妖怪が見えるようになり、その妖怪がいるとして、


どんな面白い嘘も、
その場で考えることはすぐに出来る。
「こうだったら面白いだろうな」は、
あなたが子供の頃から考えた沢山の夢想のことだ。

大人になってからも、
あの子が俺を好きだったらどうしよう、嫌いだったらどうしようとか、
部長が交通事故にでも遭わねえかな、
とか、夢想しただろう。

あなたはその続きをすればいいだけだ。

どんな夢想をしてもよい。
たったひとつの面白い大嘘をつくりさえすれば、
あとはその周りをリアリティーで固めていく。
そこに想像力が必要なのだ。

こうだとしたらこうでなければならない筈だ、
こうだとしたら誰も彼もこうだろう、
これを知ってる人と知らない人のいる世界、
これをはじめて知る年齢が○才の世界、
外人は知ってるが老人は最近のことなのでよく分かってないなど、
色々な角度や視点からリアリティーを詰めていくのだ。

その時、
リアリティーを詰めれば詰めるほど、急に大嘘の魅力が消え失せていくものと、
リアリティーを詰めてもなんだか面白いぞ、
という大嘘がある。

ワープやタイムスリップという大嘘は、リアリティーを詰めていっても面白い。
ロボット兵器や幽霊や吸血鬼や宇宙人もそうだ。

あなたは、それに匹敵する面白い大嘘をつくろう。


宅録ならぬ街録という大嘘をついた、「はじまりのうた」は、
そこのパートだけは異常に面白かった。
(プロの技術的には絶対無理な録音形式なんだけど、
そこが大嘘だと分かるので、かえって楽しめた)


糞ガッチャマンや糞進撃は、
同時に沢山嘘をつくので、
あるいは沢山の嘘をひとつの大嘘に統合仕切れないので、
糞なのである。

一方、傑作の原作デビルマンは、
「悪魔が実在する」というたったひとつの大嘘からはじまり、
全てが統合されている。
悪魔狩り、天使(神?)のラストも、
その大嘘からのリアリティーだ(悪魔がいるとしたら、天使もいる筈だ、
それは今どこで何をしていて、ここには来ないのか?
に答えている)。
飛鳥こそルシファーというのは、
運命がコントロールされている、
というぎりぎり苦しい大嘘だったけど。

映画デビルマン?なんだっけそれ。
posted by おおおかとしひこ at 10:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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