僕は27年慣れ親しんだ関西を出て
(7年京大でうだうだした時代を経て)、
東京のCMプロダクションの演出部にやって来た。
アマチュア監督時代に、アマチュア大学生のぬるさや志の低さがとても嫌で、
やっぱり関西だから真剣に映画のプロなんて誰も志してなくて、
プロになりたくて、東京の演出部採用がとても嬉しかった。
大好きな大阪と京都とそこに住む人たちと別れて、
知らない土地に住むことはとても辛くて恐かった。
4月1日。まだ会社研修とか制作部研修とか半年あるけど、
念願の「プロとしての初めての朝」だ、と僕は思い、
最初の第一歩を部屋の外に踏み出した日のことは、
生涯忘れないと思う。
あなたにもそんな日があったか、
あるいはこれからあるかも知れない。
凄くいいものを作りたいという思い。
あの名作を越えたいという思い。
下らない人たちとレベルの低い会話をするのではなく、
厳しく切磋琢磨したいという思い。
今第一線で活躍してる人々を乗り越え、
自分が時代のフロントに立ちたいという思い。
爆笑が止まらなかったり、
号泣して我を失ったり、
頭を殴られたような衝撃を受けて立てなくなったり、
世の中の価値観をガラリと変える、
歴史的作品を作る決意。
一生その作品が心に残る、ほんとうの名作を作る決意。
あの朝、僕は言葉にならなかったが、
一言でいうと、志を決めたのだ。
自分の書いた台詞で言い直せば、
命の使い方を決めたのだ。
あの朝の続きを、今でもずっとしている。
現実というのは中々に手強く、
毎度毎度自分の思い通りには進まない。
大人の人生というのは難しい。
今日、この二ヶ月ぐらい頑張って作ってきた作品が完成する。
味方もいるし敵もいた。
味方と沢山話した。敵とも沢山話した。
もっと喧嘩しても良かったかも知れない。
いいものを作ろうと、命を削った。
今年45になって、体力の限界を感じて、
自分の不甲斐なさを呪う。
これまでやって来た「つくりかた」を変えなきゃ、
体の危険があるかも知れないと真剣に思った。
でも俺は、自分の命の使い方は、とっくに決めたはずなのだ。
あの朝、俺が思った志に足りうる作品を、
俺は常に作っているだろうか、
プロ大したことねえと27の若造の俺に舐められるものに、
なってやしないか、
と節目節目で思う。
今日仕上がる作品は、力作ではある。
だが正直、もっとやれただろうという後悔のほうが強い。
11月末からオンエア、情報解禁日になったら言います。
山ほど流れるらしいので、テレビでかなりの確率で見ます。
評価は皆さんが厳しく下してください。
あの朝、俺が志したこと。
まだ、ドラマ「風魔の小次郎」と、「てんぐ探偵」と、クレラップCMぐらいしか、
到達してないかも知れないなあ。
でももっと高みを、とあの朝の俺なら絶対に言う。
「代表作は次回作」なんて、単なる言い訳だ。
俺にはまだ全盛期が来ていないというロッキーの気分だ。
また生卵食って走らなきゃ。
あなたには、そんな朝があっただろうか。
その朝を心に持つ者は、幸福だと僕は思う。
2015年11月12日
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