2015年11月13日

あなたがストーリーをばんばん書けないのは、人生経験が足りないから(かも)

前記事の続き。

つまり、フィクションの物語というものは、
人間とは、社会とは、こういうものである、
こうあるべきではないか、
という真実を戯画化するために、
フィクション(架空)の設定と構造を利用して描くことである。

真実の設定と構造を使うよりも、
真実がより引き立ち、分かりやすい構造にするために、
架空の設定と構造を利用するのが、
フィクションという物語形式である。



このフィクション的物語形式を自在に扱うためには、
そもそもの中心、
人間や社会はこのようなものだ、という認識の鋭さやオリジナリティが必要であり、
それを描くのに好都合な、
架空の世界の設定と構造をつくる能力が必要で、
それは真実の設定や構造より、
いくぶん描く真実を分かりやすくするように、
作り変えられている必要がある。
(物語の構造がテーマを現すように)

この二つの操作を脳内で可能にするには、
そもそもの才能も必要だけど、
何より人生経験が必要な気がする、
というのが本題だ。


色々な人生経験をして、
人間とはこういうものである、こうあるべきではないか、
という意見や主張がないと、
物語とは詰まらない。

正確にいえば、
独自の人間の見方、
独自の社会(社会とは人間と人間の間にあるもの)の見方、
それらに対する批判精神や理想を見る力、
そのような独自性のあるもの、
しかもそれらが受け入れるのに「いい」もの、
そういうものでない限り、
物語は詰まらないのである。


どこかで聞いたようなもの、
何かをパクって改造したもの、
借りてきたもの、
本当にそう思ってないもの、
幼稚なもの、
が中心にいても、詰まらないのである。



独自の人生観、と一言でいってみる。
それが出てくるのは、人による。
十代?二十代?三十代?四十代?

特殊な経験を早いうちに積むと、早いうちから成熟したり、
特殊な人生観になるかも知れない。
平凡な生き方から、突然独自の人生観が生まれるかも知れない。
人間は、フィクションからも栄養を吸収するけど、
実体験には叶わない。リアリティーの破綻なさにおいては一番だ。
第一、他の人のフィクションからの吸収は、
独自の人生観ではない。他人の人生観だ。

あなた独自の人生観は、
確率的には、早いうちには生まれにくいだろう。
人生経験の数や質や密度が足りないからだ。
一般に三十代になれば、色々な場面を経験してると考えられる。
四十代だともっとだろう。
まあ確率的な話だ。
特殊な経験を積むために、芸の肥やしとして遊ぶ人は沢山いる。
それはそれで特殊な経験だけど、
作家になるには、それがどう特殊かを距離をおいて表現できることも必要だ。


あなたが面白い事件が書けないのは、面白い事件に出会った人生経験が足りないから。
あなたが面白い展開が書けないのは、面白い展開に出会った人生経験が足りないから。
あなたが面白い解決が書けないのは、面白い解決に出会った人生経験が足りないから。
あなたが面白い人物が書けないのは、面白い人物に出会った人生経験が足りないから。
あなたが面白い台詞が書けないのは、面白い台詞に出会った人生経験が足りないから。
あなたが面白いテーマが書けないのは、面白いテーマに出会った人生経験が足りないから。
あなたが面白いバリエーションが書けないのは、
面白いバリエーションに出会った人生経験が足りないから。

たったそれだけのことかも知れない。


旅行をする人もいる。
たとえば画家なら、そこの独自の風景を描けばいい。
カメラマンなら、そこの特殊な光や影をとらえるといい。
作曲家なら、そこの独自の楽器やメロディや音楽文化に触れるといい。
作家なら、そこの人々と話すだけでいい?
否だ。
物語とは変化を描く。人の変化を描く。
あなた自身が変化したり、相手が変化したりしない限り、
旅行で取材したことにはならない。
画家やカメラマンは光景を盗んでくるだけでも成立するけど、
作家は人生経験、すなわち人間の変化を盗んでこなければならない。
作家がとりわけ時間がかかるのは、そういうことだ。


前にも書いたかも知れないが、
「自分の年齢より10歳若い年齢の主人公なら、
自在に書ける」説。
それは、十年前の自分の悩みや不安や問題なんて、
大抵は解決してるからであり、
その時の変化なら、客観的に書けるだろうからだ。

16歳なら6歳の主人公。
22歳なら12歳の主人公。
28歳なら18歳の主人公。
32歳なら22歳の主人公。
40歳なら30歳の主人公。
それなら、書けるだろう。10年も人生の先輩なんだからね。


人生経験を積もう。
積んだから書ける訳じゃないが、
それだけで人間として豊かになれるさ。
posted by おおおかとしひこ at 14:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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