2015年12月03日

能面の役割3

ひとつ思い出したので、追加。

小説における、人名、土地の名、組織名、
剣や戦闘機や馬の名など、
固有名詞は、能面の役割をすることができる。


映画の話をおいといて、先に小説の話。
たとえば神宮寺とか、京極とか、掟上とかの、
人の名前は、
それだけで、「何かありそう、やってくれそう」
という雰囲気を醸し出す。
人物A、Bなどと書くよりもだ。

神宮寺は意味ありげに微笑んだ。

のほうが、

Aは意味ありげに微笑んだ。

よりも、意味ありげに見える。
Aという記号性よりも、神宮寺みたいな
「何らかのストーリーを含んでいる感じ」のほうが、
豊かに(勝手に)見えるのである。


名前は呪である。これは言霊の国の発想かもだが、
西洋の魔術でも真の名を知れば、魔力はなくなるという考え方がポピュラーだ。
正体を知られないことによる、
疑心暗鬼や勝手な想像こそが、
魔力に力を貸すのである。
種の分かっている手品よりも、
これからどうなるか分からない手品のほうが、
より不気味に大きく見える。

これは能面の役割そのものだ。

実態はたいしたことなくても、
意味ありげな凄そうなネーミングをすると、
読者を騙すことができる。
インターポールとかFBIとか、実在の組織だとしても、
その正体不明さから、それさえ出てくれば、
その物語上の実際の役割よりも、
大きく見えるものだ。

このへんはネーミングの話でも書いたかな。

美沙子よりもトン子のほうが、
小太りの我が儘に、想像が膨らむよね。
台詞や性格や行動が全く一緒でも、だ。



映画の場合は少し違う。
文字ばかりの小説ではないし、
固有名詞が文字よりも音で聞こえるわけだし。
その代わり、役者が能面である。
たとえば藤原竜也が出てくるだけで、
もう「ああいう感じのキャラではないか?」と思ってしまう。
能面の役割そのものだ。

映画の能面は、
ビジュアルや設定に多い気がする。

そういえばドラマ風魔では、
巨大な夜叉の面が、夜叉姫のうしろにいつも置いてあった。
これは、女優の芝居を、
より大きく意味ありげに見せる役割を果たしている。
文字通り能面だ。
(前半の岡元の芝居はまだ普通だった。
後半ようやく能面なしでも凄味が出てきたよね)
脚本には書いてない要素だから、
脚本論というよりは、厳密には演出論だけど。

仮面ものはそういえば、全て能面の役割がある。
仮面ライダーには、我々は自分の願いを投影しがちである。
それは、能面だからだ。

イケメンやアイドルのポスターもそうだ。
これらは歌舞伎の錦絵まで遡れる伝統だ。
我々は実態よりも多くの意味を、彼らに投影する。
それこそ偶像(アイドル)崇拝だ。

AKBの「恋愛禁止」という、たったひとつの設定が、
単なる自己顕示欲の強い我が儘なま〜ん達を、
偶像にすることに成功した。
これは巧妙な能面である。
実態よりも、想像が膨らむ。


闇のほうが想像が膨らむ。
肝試しはそうやる。舞台も照明を落とす。
パンモロよりもパンチラのほうが、想像が膨らむ。
大体人間はそういう風に出来ている。



逆の例。
星新一のショートショートは、N氏とかS氏ばっかりだ。
そこに能面を入れず、記号的にしてしまう。
想像が膨らむことを良しとせず、
プロットだけで勝負している。

では、能面はないのか?
これがある。
SF的なガジェットである。
これがあることで、物語上の使用例以上の、
想像が膨らむように出来ているのだ。



能面だらけでは、想像が膨らみすぎて、
実態がショボいと期待はずれになってしまう。
(例: マルホランドドライブ)
実態だけで勝負出来るものを作っておいてから、
ひとつ能面を仕込むと、
いいスパイスになるんじゃないかなあ。

「最初にひとつ謎を仕込め」という、
物語創作のTIPSみたいなものも、
謎があることで、今進行してる焦点やドラマが詰まらなくても、
実態以上に面白く見えている効果が得られる、
という経験則だろう。


あと、覆面作家とか、なんかいいよね。
(小説家の写真を見てガッカリすることは、
とてもよくあるよね。美人女性作家はそれだけでプラスだし。
林真理子の文章はとても好きなのだが、本人を見ると覚めるし。
というのも、イーデザインのメイキングで写ってる小太り監督は、
写さないほうが幻想を保てたなあと反省しているのだ)
posted by おおおかとしひこ at 13:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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