2015年12月13日

何故書くことは苦しいのか

思うことが、書くことより文字数が少ないからだ。


思うことは、単発で、散発的だ。
あなたは、「自分が思うこと」を観察したことがあるだろうか。

思うことは、脈絡がなく、持続力がない。
思うことは、あることに対するリアクションだ。
0から自ら思うことすら難しく、
たいていは何かへの反応として、思うことがある。

思うことは、書くことより論理が短い。
思うことは、書くことより集中力が続かない。
思うことは、書くことより一本線にならない。

あなたが原稿に向かい、思うことを書き始めても、
さほどの文字数に至らず書けなくなってしまうのは、
あなたが実力が足りないのではなく、
思うことをただ書いているからだ。

思うことと書くことは違う。
あなたは思うのではなく、書かなければならない。

経験上、思うことは、大体ワンシーンぐらいの規模だ。
ワンシーン平均1分半として、600字程度なら、
思うように書ける。ツイート数回分と数えてもいい。
しかしそれ以上書くことは困難だろう。
思うように書いているからだ。


書くためには、一貫した論理が必要だ。
その論理は、思う程度の分量ではとらえられない文字数が必要なものである。
ロジックとか、プロット(計画)とか呼ばれるものだ。

たとえば論文を書くときは、見出しをつくる。
大まかな主張をつくり、章に分解し、節に分解していく。
それらを並べ替えたり、統合したり分解して、
ひとつの主張の構成をつくるものだ。
(アウトラインプロセッサという、
その試行錯誤専用のエディターもあるくらいだ)

ストーリーがそのやり方で出来るとは言わないが、
ストーリーの構成は、似たようなスタイルに最終的になる。
この構成に時間をかけるものである。
そうでなければ、書くときに、
次どうなるか分からなくなる。
逆に、思う以上に書くためには、次どうなるか、
作者が知ってなければならない。
(一方、登場人物は知らないで動いている)


書くためには、知識が必要だ。
人は、知らないことは思えない。
しかし知らないことでも、調べれば書くことは出来る。
大体こういう感じのことが調べられれば、
今書いているこのストーリーのこの部分を書くことが出来る、
と判断して、調べることが出来る。

書くためには、複数の人格になれなければならない。
思うことは、あくまで一人称の統一された人格だ。
(実際には複数の発火を、統合しているという意識がある)
同時に複数を思うことは出来ない。
しかし書くこととは、同時に複数の立場の人が思うことを、
考えに入れることである。


書くことは考えることに似ている。
書くことは疑似体験に似ている。
書くことは計画の遂行に似ている。
書くことは、思うこと(≒反応すること)には似ていない。

思うことを書くことは、たとえばエッセイがある。
精々1500字といったところの文章量だろう。
長いワンシーンか、2〜3シーンといったところだ。
これぐらいまでなら、思うことと書くことは一致出来るだろう。
(エッセイを書くときのコツは、
反応すること、すなわち何かのネタを持ってきて、
それについて思うことを書くことだ)

おそらくこれ以上書くときに、
「ただ思うことを書くこと」以上のスキルが、
必要になってくるのではないかな。
仮説だけど。


何故書くことは苦しいのか。
我々の自然思考(思うこと)でないことを、
するからである。

何も知らない素人は、
文豪が、ただ思うことをスラスラと書いたらそれが原稿になる、
と考えているのではないだろうか。

そうではない。
書くのは、創作の最終段階に過ぎない。
それまでに、沢山の計画(プロット)があるからこそ、
スラスラと筆が進むのである。
行き当たりばったりで思うことを書いていたら、
支離滅裂にしかならない。
思うことは、それだけ書くことよりも、
たいしたことではない。

逆に、書くこととは、
思うことよりも数段知的な、特殊行為だ。
訓練せずに出来るわけないじゃんね。

もしあなたが書くことが苦しいのなら、
書くことではなく、思うことを書くことしか、してないからかも知れない。
さっさと、書く訓練に切り替えよう。
思ってることを書いてるだけだな、と自覚しよう。

書く技能は、泳ぐ技能のように、
訓練すればするほど、遠く長く速く泳げるようになる。
(伸び方とか限界値は、才能次第の可能性はあるが)
posted by おおおかとしひこ at 00:55| Comment(2) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
凄く勉強になり励みになりました。そうですね・・・思うことと、書くことは違うんですね。実は僕も小説を書いてて、思いながらそのままそれを文章に落としてるなって気づかされました。ちゃんとプロットを考えないでバーっとやってしまうから詰まるんですね・・・。
Posted by 冨岡 at 2017年06月03日 02:40
冨岡さまコメントありがとうございます。

とりあえず頭の中のものを全部思うままに吐き出して、
俯瞰して書き直していく、という手もあります。
デジタルならファイルをコピーして思うままに書き直し、
アナログならボールペンで色を変えながら書いていったり。
僕は前の衝動をそのまま見れる、アナログをオススメしています。

どれだけ事前に考えていても、現場でアクシデントが起こるのは、
人生も小説も一緒だったりします。
アドリブで切り抜けたりすることも必要です。
力業で切り抜けて、
で、また一から書き直したりね。

航海が、最後までたどつりけますよう。
無事に行くことなんてなくて、毎回嵐や難破や何かを失うことがあるのを、覚悟の上で。
Posted by おおおかとしひこ at 2017年06月03日 14:32
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