2015年12月18日

「○○が△△だったら面白い」は、何幕のアイデア?

アイデアの芽の基本形のひとつは、
「○○が△△だったとしたら、一体どうなる?」だ。

実際にこれだけを思いついたとしても、
まだ革命的発想と言うには乏しく、
その具体を全て完成させることこそが本番なのだ、
と前に議論した。

ところでそれは、一体何幕のアイデアか?
それによって、対処法を変えるべきだ。


二幕のアイデアだった場合。
たとえば、
「心のきれいな人が美人になる催眠術をかけられ、
100キロ以上なのにグウィネスパルトロウに見えて恋してしまって、
デートを重ねていく」
は、「愛しのローズマリー」のアイデアだ。
「凄腕の何でも出来る軍人の任務は、
やったこともない子守りだった」は、
「キャプテンウルフ」のアイデアだ。

コメディのアイデアは、大抵ここが面白い。
これは二幕のお楽しみポイントそのものであり、
予告編で爆笑を取るポイントである。

これを思いついたら、
一幕と三幕を後付けしていくことになる。
どうしてそんな羽目に陥ったのかという事情を考えるだろう。

しかし最も重要なのは、
主人公がその冒険を通過することで、
一体どんな欠落を埋めるのか?
すなわち、テーマである。

愛しのローズマリーには、
主人公(ジャックブラック)に、
明白な内的問題がある。
見た目の美人しか愛せないことだ。
これが、心が美しいのが本当の美人だ、
と悟るまでが、愛しのローズマリーという映画である。
(実際には、一幕の問題設定、
二幕のお楽しみポイントと展開は素晴らしくいいのだが、
三幕の結部が甘くて、名作をのがしている)

対比的に、
キャプテンウルフには、内的問題やテーマが全く抜け落ちている。
主人公の個人的問題は描かれず、
二幕の延長、子守り成功しか三幕で描かれず、
従ってなんだか物足りないものに仕上がっている。


二幕の基本アイデアが出たならば、
一幕三幕を詰めればよい。
すなわち、主人公の内的問題は何で、
二幕の冒険を経て、
三幕の終わりに、主人公が最初と比べてどんな変化を遂げているかだ。
(その差分こそがテーマである)

そこが上手くいけば、名作になる。

全てが上手くいっているのは、
たとえば「デンジャラスビューティー」だ。
「男勝りの女刑事が、ミスコンテストに出場したら?」
という二幕のアイデアがきちんと爆笑をとり、
主人公の内的問題「男勝りで女らしくない」が、
ミスコンテストの経験を経て、
「女らしさも学び、刑事としての男っぽさとも融合した、
新しい魅力の人間になる」
という三幕もきちんと出来ている。
一幕とアンチテーゼの二幕が見事にアウフヘーベンされ、
統合された第三の結論に至る、
教科書どおりの実に痛快なコメディだ。
この映画については、ブレイクシュナイダー「save the catの法則」で、
詳しく分析されているのでそちらを参照のこと。


以上の三例はコメディのパターンだった。
そうじゃないものについても、
原則は同じである。
面白いスペシャルワールド(非日常の世界)で起こる、
すごい、面白いことが、
主人公の人生の軸にどう影響し、どう対比されるかを考えながら、
一幕三幕をつくっていけばよい。



さて。
「○○が△△だったとしたら?」
が、一幕のアイデアだったとしよう。

このパターンは苦労する。
冒頭のアイデアが思いついて、
最高のアイデアだ、名作になる!
というパターンに陥る。
そして100%に近い確率で、
一幕を終えた頃、
二幕に何をしてよいか分からなくなってしまう。
挫折するのは、このパターンが一番多いと思う。

下手したら、冒頭シーンの次のシーンでもう挫折する人もいるかもだ。
糞映画実写ガッチャマンは、この構造である。


このパターンでは、
一幕の状態を崩す大事件が起きて、
全く違う第二幕へと進む必要がある。
一幕と全然違うスペシャルワールドをである。
これが出来れば挫折を防げる。
しかし大抵は、一幕より二幕が詰まらない。
二幕は一幕の倍長いから、
一幕より遥かに面白いアイデアがないともたないことに、
気づこう。

つまり挫折を避けるためには、
最初のアイデアより、倍面白いアイデアを二幕に投入すればいい。
そうでない限り、一幕より面白くない二幕になり、
それは大抵名作ではない。

すなわち、
アイデア1「○○が△△だったとしたら?」
アイデア2「□□が◇◇だったとしたら?」
のふたつが必要ということだ。
そして2>1でないかぎり、盛下がってしまうということである。

コツは、関係ないふたつではなく、
1ゆえに2になるような、
展開になっているといい。

たとえばナイトシャマランの「ヴィレッジ」では、
アイデア1が「この村から出たことのない人々の村があるとしたら?」
であり、
アイデア2が「その村から出なくてはいけない事件が起こり、
村の外の世界があると若者が気づいてしまったら?」
であると言えるだろう。

「ジュラシックパーク」なら、
アイデア1が「恐竜を現代に甦らせる技術があったら?」
であり、
アイデア2が「嵐が来て恐竜の制御が効かなくなり、そこに取り残されるとしたら?」
である。

必ず、2のアイデアのほうが1のアイデアより、
面白そうに作られている。



最後に。
「○○が△△だったとしたら?」
が、三幕のアイデアの場合。
これは、どんでん返し落ちや、ミステリーのパターンである。
犯人は意外にも××だった、とか。

これは、全てを逆算する実力がいる。
落ちを決めた上で、冒頭のヒキをつくり、
それより面白いアイデア2を作らなければならないからである。

テーマから逆算するわけだから、
本当はこのやり方が正しいはずだ。
しかし、相当な実力がいると思うよ。

たとえばマトリックス三部作は、
世界とは何かという、大きくはミステリーだったはずなのに、
落ちを決めずに作っていたからこそ、
三部作が駄作になってしまったのである。


さて。


あなたのこれだ!と思いついたアイデアは、
一体何幕のアイデアなのだろう?
事件についてのアイデアか?
展開についてのアイデアか?
結末についてのアイデアか?

それによって、対処法を変えるべきだ。
posted by おおおかとしひこ at 01:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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