カメラ目線の話、まだ続く。
カメラ目線は強い。
映像の中では最強だ。
服を着てるカメラ目線と、全裸で目線を外してるのなら、
多分カメラ目線のほうが強い絵である。
そして、映画という物語はカメラ目線を用いない。
テレビにおいて、
三人称(カメラ目線なし物語形式)が、
二人称(あなたへのメッセージ)に駆逐された例がある。
音楽だ。
かつて歌は歌謡曲だった。
70年代から80年代ぐらいまでか。
それは一種の物語で、
我々はその主人公に感情移入していた。
おぼろげな記憶では、その歌番組では、
歌手はカメラ目線になることは滅多になかったと思う。
「歌で物語世界を作り上げる芸能」なのだから、
三人称形式に従って、カメラ目線厳禁である。
カメラ目線は、最初と最後の挨拶だけだったように思う。
しかしサビあたりは、カメラ目線だったような気もする。
強い部分に強い絵を当てるほうが、
表現としては強くなる、のは分かる。
カメラ目線で歌うのは、ルックス重視のアイドルが多かった印象だ。
歌が上手いルックス重視でない人
(たとえば森進一とか細川たかし)は、
やはり目線を外して歌っていたような気がする。
80年代後半から90年代にかけて、
歌は応援ソングへと変わって行く。
ニューミュージックという自分を歌う私小説的なものも流行り、
つまりは、三人称軸ではなく、
一人称と二人称への変貌である。
だからカメラ目線だ。
僕はベストテントップテン世代で、
かなりの確率で見ていたが、
ニューミュージックは何故か出演しない傾向の中、
応援ソングたちは出演した。
僕が嫌いで何故か大ヒットした、
KANの「愛は勝つ」あたりが、応援ソングへの移行期かな。
この辺りでは、もはやカメラ目線が常識だったと思う。
つまり二人称音楽になったのだ。
時代は下って。
AKBが歌うのは、いつも「キミ」との恋愛だ。
歌うキャバクラといってよい。
彼女たちが二人称でキミとの(疑似)恋愛を歌ってくれる。
カメラ目線で。
今のジャニーズソングがどういう傾向か分からないが、
恐らく、二人称、キミとの話を歌っていると思われる。
PVではみんなカメラ目線だ。
歌謡曲は、多分演歌から別れたと思われる。
演歌のPVでは、相変わらず目線を外している。
それはルックス重視でないこともあるし、
誰かと誰かの話、
三人称形式に忠実である無意識も働いている。
今の音楽のPVは、みんなカメラ目線だ。
歌うのは、キミとの話である。
三人称形式の物語、歌謡曲が、
二人称形式の、メッセージコミュニケーションに、
とって変わられた。
ハコで物語をじっくり楽しむスピード感より、
つべでパッと見るカメラ目線へと、
スピード感が変わってしまったのも、ある。
さあ映画だ。
映画は物語だから三人称形式だろうって?
ほんとか?
人気芸能人の学芸会になってないかい?
キス我慢選手権が映画化とか言ってるんだぜ?
もはや、カメラ目線がないだけで、
二人称化してるのではないだろうか?
そもそも、物語のテーマを読み取るときに、
「作者の主張を読み取る」という
陳腐な誤解が広まっていること自体、
二人称的に見ていることではないか?
(物語のテーマは主張ではない。
物語から作者の主張を読み取るという読解は、
国語教育の誤りです。
物語に主張はあっても、それが作者の主張ではない。
ドラマ風魔のテーマは「新しい形の忍びになる」だが、
俺の主張は「続編つくりてえ」である。
作者の主張が戦争反対でも、
戦争賛美する物語はいくらでも作れる。お金のためにね。
テーマについては深く書いているので、
過去記事を検索してください)
さて、物語の力が落ちているのだろうか?
じっくり腰を据えて物語に向き合うこと自体、
実は一部の人間の娯楽に過ぎない、という論もある。
僕は、万人が物語を楽しむ世界だとやや希望的観測でいる。
間のドシロウトスタッフが無知だという立場なのだけど。
結果論で言えば、
カメラ目線の二人称音楽が売れているし、
それらも沈没しつつある。
カメラ目線は、三人称を殺す。
これだけが結論かも知れない。
伝わる伝わらない、伝えるべき、などを議論するとき、
それを二人称的に伝えるのか、
三人称的に伝えるのかを、混同してはいないか?
伝わるプレゼン力は二人称であり、
思わず感情移入してしまう力は三人称であるよ。
2015年12月24日
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ズバン!と的を得た記事を過去のもの含めガツガツと拝見させて頂いております。
始まり〜おしまいまでの物語を書くこと続けています。間も無く200個を通過します。下手や才能ないは承知で、だとしても今後もどんどん書き続けていくぞという決意も込めてコメントさせていただきました。頑張ります!
200は中々出来ることではないですね。
それらを俯瞰してみると、
いつも出てくるパターンがあったり、
他では良く見るのに自分では使ってないパターンがあるでしょう。
個性と捉えてもいいし、弱点補強のチャンスと捉えてもよいです。
若いうちはこれ一本で突き進んでもいいし、
若いからこそ色々に手を広げる時間があるものです。
次は、やったことない縛りをすると勉強になります。
(というか、創作というものはそういうものですが)
パターンは使い果たしたか?
については、音楽でも言われることですが、
過去のパターンを勉強すれば、
自ずと「誰もが(または自分が)まだやってないこと」は発見できるものです。