2016年01月09日

演技論:全方位への本気

これは表現全般に通じる話かも知れないので、
もう少し演技論を続けておく。


演技は本気でやるものだ。
これが僕のシンプルな結論である。

嘘をついてもいいし形から入ってもいいが、
最終的には、
ヨーイスタートがかかれば本気でやり、
カットがかかればもとに戻るのが理想だ。

本気で、とは、その役の感情に、
本気でなることだ。


さて、
演技の初心者は、
たとえば本気で泣いたことがない。
本気で怒ったことがない。
本気で嘘をついたり、本気で嘘を隠すためにドキドキしたことがない。
本気で人を殺そうと思ったことがない。
本気で人を愛したことがない。
全部ないかは知らないが、何かは経験が足りない。

だから、経験してないことを、
本気で演じることはすぐにできない。

だから、練習では大声を出すのである。
本気で○○する為に、
まず全方位のマックスを、練習するのである。
マックス怒る。マックス泣く。マックス笑う。マックスドキドキする。
人間の考えうる感情について、
マックスを、イメージ上で経験して、本気でその気持ちになるのである。
全方位やると、自分の中の歪みが取れるだろう。
歪みとはつまり、経験のありなしのばらつきみたいなことだ。
ブリッジをしたことのない体が、
本番ではじめてブリッジが出来る訳がない。
それと同じで、
まずその感情になることすら、
役者の脳と体が経験がないのなら、
経験しておく。

これが、初心者が大声を出して基礎的な感情表現をさせられる意味である。
やったことあれば、
あとは創造力と類推で、詰めていけるからだ。
人によって、何を経験して何を経験していないか違うが、
大勢でやる練習では一人一人にチューニング出来ないので、
とりあえず全部をやらせるのだ。

全部を経験している経験豊富な人には申し訳ないが、
そうではない人が、一通り体験する場として、
そういう基礎はある。

たとえば感情が仮に12の基礎があり、
全てはそれらの組み合わせだとする。
とすると、時計の文字盤の全ての文字を体験させる。

で、100出したら、50や70や5にチューニング出来るようになるはずだ。
つまり、出力コントロールと、方位コントロールを、
同時に鍛えるのである。


さて、脚本論に戻る。

あなたは、これに似たようなトレーニングを積んでるか?

つまり、全方位の感情について、全出力をコントロール出来るのか?
得意な感情と苦手な感情があるとしたら、
あなたの感情表現は、歪んでいる。
個性を出すのはそのあとだ。
まずあなたは、俳優事務所に入って一年目の子がやることすら、
出来ていないかも知れない。
その子達が読む台本を書くのにだ。


僕は、習作のシナリオに、
なるべく色んなジャンルを書けと言っている。
それは様々な感情表現を経験したり、
様々なジャンルのパターンを経験したり、
様々なジャンルのルールを経験したり、
様々な人間関係を経験したりするためだ。

それはあくまで習作であり、経験を積むためにやるのである。
どういう経験が役に立つかは、あなたの歪み次第である。
自分の歪み、すなわち得意不得意以前の、経験未経験を洗い出すのに、
全方位本気で、というトレーニングは有用である。
posted by おおおかとしひこ at 02:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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