2016年01月16日

物語とは、逆境の克服である(クリード批評2)

物語とは、逆境の克服である。これは僕の説だ。

面白い逆境を創作できれば、物語の半分は出来たようなものだ。
あと半分は、その面白い克服を作ればよい。
(「面白い」は笑いとは限らない。
この映画の場合、号泣やぐっと来る、である)


この作品を、アホな奴が作ったと想像してみよう。

あ!アポロの息子っていう映画思い付いた!
これならロッキー7になるんじゃね?
ロッキーは老人だからもう試合は無理でしょ!
若いやつに試合やらせて、ロッキーはトレーナーだ!
ミリオンダラーベイビーみたいなさ!

アポロの息子だから、能力はあるけど期待され過ぎてるんだ!
だからぐれる!

ロッキーと出会って更正する、
ラストはクリードの遺伝子覚醒だ!

こんなくそ映画になること必至だ。
まあ、ほぼSW7は、このぐらいの馬鹿なIQで作られてはいるが。


このストーリが優秀なのは、
逆境を愛人の子に設定したことに尽きる。
自分が父の子だと証明したいのに、
誰もがボクシングをすることに反対する、
というその逆境の作り方が完璧だ。

動機を描くこと。
それが逆境の全てだ。

あのYouTubeを投影してスクリーンと闘うシーンは、
近年まれに見る名シーンだ。
プロジェクションマッピングという技術が生まれて以来、
ビックリイベント用の映像しかなかったのに、
はじめてプロジェクションマッピングの正しい使い方を見たようだ。

父を越えたい思い、憧れという相半ばする思い、
そこに挑戦すらさせてくれない鬱屈が、
とても良く表現されていた。

また、彼女もとても良かった。
いずれ聞こえなくなる耳で、今、歌うこと。
これが彼の心に火をつける、とてもいいターニングポイントとなった。


いい映画には名シーンが沢山ある。

この映画は、台詞がとても良かった。
いまいちボンクラな訳が多くて原語を聞き取れなかったが、
ロッキーの、one step, one punchは、人生の生き方をも含む名台詞だと思う。
磨き抜いた台詞が随所にあったように感じた。
当然、最良の台詞、無言を上手く使っていたのも印象的だ。

鏡の前での指導、ウイリーでロッキーを励ましにいくシーンなどは、
イコンになり得る名シーンだ。

映像トリック的にも、ミッドポイントのワンカット試合シーンも度肝を抜かれた。
ちょっと振り付けくさい試合だなあと思っていたら、
オイオイまだカットかからんのかよ、という感じで、
最後までいききったのに乾杯したい気分だった。


つまり、絵になるシーンと、磨き抜いた台詞劇で、
ぐっと来た逆境を、克服してゆくのである。


最後の最後に、I'm not a mistake.を言わせたのもとても良かった。
ロッキーにも彼女にも言わなかった、
本当の一言が絞り出された瞬間だった。

ロッキーシリーズは、動機が名台詞になっている。
1なら、「俺に全盛期はなかった!」だし、
ファイナルなら、「人生より重いパンチはない」だ。
(あとは、微妙か)
それに匹敵しうる、名台詞だと思う。



さて、ついでに、
よい続編のあり方と、だめな続編のあり方について、
SW7と比較してみるとしよう。

だめな続編のあり方は、
お約束のクリアに終始することである。
お約束が出落ちになっている、ということである。
出落ちだから、出たら終わりで、
それは前シリーズに比べて変化していないということになる。
SW7はそんなんの連発だった。
だから出たら終わりなのだ。

いい続編のあり方は、
お約束を変化させるということだ。

まさかポーリーが死んだとは思わなかった。
最後まで出るパターンなのかと。
エイドリアンの墓が苔が生えてたのと比べて新しい墓、
というのが芸が細かかったなあ。
エロ本が残っていたのも最高だったよ。

トレーニングモンタージュも、新しいあり方で良かった。
惜しむらくは、生卵や肉叩きみたいな、
真似したくなるイコンが欲しかったけどね。

ロッキーステップの使い方も、
お約束を破ってラストに持ってきたのもとてもいい。


つまり、お約束を使いながら外していくのが、
とてもクリードは上手いのである。
ミッキーのジムは出てきたけどちょっとで新しいジムに行ったし、
かつてロッキーが住んでたようなアパートが、
背景に意図的にはあったけど徹底的に無視していた。
エイドリアンの店の使い方だって、
お客さんのいない時間帯にわざとドラマを作っている。
(開店前の初めての出会い、材料を運んできたのを手伝ってコーチを頼む、
地下の仕込みで、試合を受ける決意)
絵的な計算まできちんとなされていた。

そして、お約束を上手く外しておいて、
オリジナリティー溢れる名場面を作るのが上手いのだ。
YouTubeを見ながらの鬱屈、
鏡の前での指導、
彼女との出会い、ファーストデート、ライブの盗み見、
初めて結ばれた夜、勝った日のダブルイヤホンからのセックス。
これらのオリジナル場面が、
ちゃんと映画になっているからこそ、
クリードは映画として面白かったのだ。
SW?なんかオリジナル場面あったっけ?

ラストの試合中、例のテーマすら僕は使って欲しくなかったぐらいだ。
どうしても監督があの曲使いたかった気持ちは分かるけど。
(その意味では、今回のサントラは、いまいちキャラが薄かったねえ)

ロッキーシリーズのお約束を使いながら、
それらを変化させながら、
さらにいいオリジナル場面を作ってくる。

SW7の単なるコピペとの、志の天地の差よ。



ということで、今年ナンバーワン候補と、ワーストワン候補が、
出揃ったのではないだろうか?
posted by おおおかとしひこ at 20:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック