2016年01月22日

リライトが上手くいかないのは、表裏が乱れるから

リライトがどうしても継ぎ接ぎっぽくなったり、
唐突感が拭えなかったり、
無理があったり矛盾したりするのは、
あとあとの都合で、
その前を変えてしまうことが殆どの原因のような気がする。

それをシミュレーションしてみよう。
文章には、表と裏がある。

表は、文字面上の意味で、
裏は、隠された真意だが言外の意味として明らかなもの。


嫌なおっさんが、女に酒を勧める。
おっさん「飲み物は?」
女「(微笑んで)ありがとう。でも結構よ」

言外の意味で、「おっさん死ね、帰りたい」
というのがあったとする。

これを、後々の都合で、
飲み物を受けとることに変えるとしよう。
(例えば飲み物に睡眠薬が入っていて、
後々の段取り上、ここで飲まなくてはならないとしよう)

おっさん「飲み物は?」
女「(受け取り)頂くわ」

この時、もとの言外にあった嫌悪感が、
うっかり失われてしまうのである。

だから、

おっさん「飲み物は?」
女「(受け取るが飲まない)ありがとう」
おっさん「乾杯」
女「(目をあわせず乾杯し、一口だけ飲む)」

みたいに、
言外の意味を保存しつつ、
なおかつ段取り上のことを、クリアしなければならないのである。


これは簡単な例だが、
長いリライトでは、
簡単に言外の意味が消失してしまう。

最初の原稿が、
韻を踏んだり、
前の台詞の言外の意味を言外の意味で返していたりすると、
物理的に表を変えてしまうと、
裏の文脈が破壊されてしまうのだ。


文字だけ見てリライトすると、
こういうことが起こりがちだ。

特にバカなプロデューサーほど、
言外の意味を無視したリライトを要求してくる。
表面上の文字しか追ってないからだろう。

で、表の文字面だけでリライトしてしまい、
段取りは合ってるけど、
なんだか浅い話になってしまうのだ。
裏が抜け落ちたからである。


文字面だけの意味しか話さないのは、
小学生ぐらいまでだろう。
大人になればなるほど、
言外の意味をちゃんと使うものだ。

うちの業界では、
「なるほど〜(全然良くないけど、反対すると怒るから、
納得したふりをして受け入れてから、反論するか)」
という業界用語がある。
()に入れたのが本音、裏だ。

文字面だけを追うリライトが危険なのは、
このような、表と裏の落差を含んだ会話を、
表だけの小学生レベルの会話にしてしまうのである。


リライトしまくったものほど、
深味がなくて詰まらないのは、
こういう理由が大きいような気がする。

あるいは、流れのなかでの深さじゃなくて、
単発的な、その場だけの深さだけのものになりがち。
たとえば海街ダイアリーの中でのリリー・フランキーは、
意味ありげな言い方ばかりで、
一見深そうだけれどなくていい役だった。


で、僕は、
前の原稿を、一旦身体のなかに入れて、
白紙から書き直すことを勧めている。
白紙から書けば、
新たな表を、以前の裏を含ませながら、
書けるからである。

文字面だけ直す奴は、
言葉が表だけからしか出来ていないと考える、
小学生レベルの作文しか出来ていないのである。


(CMでは、これを逆手に取ることがある。
クライアントが下らない理由で文字面の直しを要求してきたら、
文字面の表だけ直して、
本当の意味、裏を変えないように作ったりする。
で、直したふりだけして、我々は舌を出すのである)


裏の真意を、リライトするのか?
表の文字面を、リライトするのか?
裏は変えずに表だけリライトするのか?
表を変えずに裏だけリライトするのか?
表と裏を両方リライトするのか?

下手に手を入れる前に、
自分は何をしようとしているかを、
把握しよう。
posted by おおおかとしひこ at 00:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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