2016年01月23日

出落ち落ちの実例

ネットというのは面白い。
「キムタクが何度もタイムリープして、
SMAPの解散を阻止した」という都市伝説が生まれたと思ったら、
その実写映画の予告編までMADで出来上がった。
(面白いので検索してください)

さて、これは、面白い映画になるか?
脚本家として考えてみよう。


出落ち落ち、とタイトルにあるように、
これは映画にならない。

タイムリープする出落ち、
そして会見で「今日は2016年の1月18日です」と、
何度目かの世界線の確認をする場面が、
出落ち(その、どうなっちゃうんだ?という瞬間の期待値がピークで、
そのあとはたいして面白くない)に過ぎず、
実際のところは、
そこしか面白いネタがないからである。


もし映画にするとしたら、
SMAPのメンバーに感情移入してしまう場面を、
上手く描かなくてはならない。
(現実には好きすぎて、知らない人が感情移入するかどうかを、
冷静に観察出来なくなるだろう)
それは、状態ではなく、エピソードで描くのであった。
メンバー5人にそれぞれ感情移入できる、
ファーストエピソードを描くのが難しいだろう。

そしてそれは、解散に至る世界線で、
上手く伏線として機能しなければならない。

たとえば中居のファーストエピソードのせいで、
中居が解散を譲らない、みたいな世界線があり、
キムタクはそこを覆す必要がある、などだ。

それはメンバーそれぞれに強いエピソードがあり、
それらは、それぞれの世界線で強く伏線として機能しなければならない。

「バタフライエフェクト」は、そういうキャラクターのエピソードを利用して、
世界線を上手く提示していることに注意されたい。


さて、それだけだと、中盤に問題が出る。
各4人の所へそれぞれいくと、単なるスプレッドに落ち込む。
同じ体を4回は繰り返せないからだ。
何度やっても何度やっても、解散を阻止できない、
は、3回程度しか描けないだろう。
そこに4人のファーストエピソードを上手く利用するべきだ。
そして、この話は、何と闘うのか、
という重要なものが抜け落ちている。

何故解散しなければならないか、
という理由が不明示だ。
気持ちが離れるだけでなく、
実は物理的、金銭的、表に出ていない人間関係的理由が必要だ。

その時点で、純粋な5人の話ではなくなってしまうだろう。


ということで、
ぱっと考えた面白そうな話(設定による出落ち)を、
構造化された脚本にするには、
多くの困難が伴う。

まあ、SMAPファンの女性脚本家が、
今頃自主的に書いてるかも知れないが。
僕はSMAPファンじゃないので、
そこまで暇ではないけれど。



設定のアイデア、パーツを並べて面白そうな感じを作ることは、
実は誰にでもできる。

それを、首尾一貫した、ひとつのお話にすることだけが、
とても特殊な能力がいる。

そのことを、皆はあまり考えていない。
ここまでは考えたから、あとはプロが考えて、
と無茶ぶりしているだけだ。
おそらく、1に対して99ぐらいは構築しないと、
まともな話にならないだろう。

「映画化決定」と2ちゃんのスレでは良く見る。
しかしそれはあくまでネタである。
時々本当に映画化可能か、映画にするには何が足りないか、
を考える、
つまりこのネタは、映画の面白さのどの部分だけか、
という判断を鍛えるのに、いいかも知れないね。
(そしてそれは大抵出落ち落ちなんだよね)
posted by おおおかとしひこ at 13:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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