2016年01月28日

短編を練る利点:省略を覚えること

短編を沢山書くことを、僕は推奨している。
5分(5枚)でも15でも30でもいい。
とにかく長編じゃない、短編だ。
数をこなせばこなすほど、初期の頃は上手くなる。
だから若いうちになるべく数をこなすべきだ。

色々なパターンの、序盤中盤終盤を書いたり、
色々なパターンの、キャラクターや人間関係を書いたり、
色々なパターンの、スタンダードや特殊に触れられるので、
とてもよい。

ところで、短編の豊富な経験でしか積めないものがある。
省略の練りである。


物語というのは、世界全部を記述することは出来ない。
全ての芸術でもそうだ。

だから、ある部分を切り取り、それを作品の全宇宙に定義する。

短編は、その宇宙がごく小さいものをいう。
だから、短編では、余計なものを入れずに凝縮する。

凝縮するということは、殆どは捨てる判断をするということ。
つまり、捨てることで残すことを沢山することである。

俳句にたとえれば話は分かりやすいか。
色んな思いを575に切り詰めていく。
長編小説なみにあったことを、
たった17文字に凝縮する。
一文字二文字の闘いをしながら、
どこからどこまでを切り取り、
何を捨て、何を残すかを、決めなければならない。


さて。

これが、「17文字だから」やらなければならないことか?
違う。
これは、大長編小説だろうが劇場映画だろうが、
やらなければならないのである。

無駄を落とし、本質だけを残して、
それだけを中心に据え、
他を脇にして、主従のバランスを整えることは、
短編だけでなく長編でも同じである。

むしろ、長編でやらない理由はない。
長編こそ、話がややこしくなりがちだからだ。


省略や切り落としに慣れていない人ほど、
今まで長編をやったことない人ほど、
「なんでもかんでも入れようとする」傾向がある。
「短いが為に入れられなかった、
あれやこれを入れたい」という欲望があるのだ。

しかしそれは雑ノイズであるということに、
どれだけ客観的になれるだろうか?

短編のときは、字数制限という物理的要因によって、
「本質的なことだけを残して凝縮する」ことをしていたくせに、
長編になると急にこれをやらなくなってしまうのだ。
「長いからなんでも入る」と思うのだろう。

それは、
狭い茶室なら整理整頓が効いていて機能的だった部屋が、
100畳の部屋に越した途端、
なんでもかんでも置いて、
ごちゃごちゃになってしまい、
使いにくくなった部屋のようなものだ。
100畳のダイナミックさを使えず、
雑然とノイズだらけになってしまう。

100畳のダイナミズムを使うには、
整理することだ。
系統立てて並べ替え、
空白をつくり、
いらないものは捨てて、
骨をハッキリさせることである。

それは、捨てることで残すことを沢山やった経験がなければ、
うまくいかないだろう。


15秒30秒をやってきた人が、
急に3分や10分をやると、
全然ポイントが絞れない、ぼんやりとごちゃごちゃしたものしか、
作れなくなることが多い。
CM出身の映画監督もそうだ。
あれもこれもやりたくて、それをごった煮にしたがるのだ。

ごった煮は、小宇宙をなさない。
どの小宇宙も、その世界で美しい構造をしている、
すなわち無駄がなく本質だけが残されているべきだ。



今、原稿用紙280枚ぐらい(11万字)の長編小説を書いている。
三年前くらいに一度完成させたもののリライトだ。
リライトは一応終えたが、
三年前に完成させた第一バージョンの、
美味しい要素を溶け込ませたい誘惑にかられ、
今四苦八苦している。

なんでもかんでも入れようとする自分との闘いをはじめた。
何を拾って溶け込ませ、
何を捨てるべきかの判断をやっていて、
ああ、これは経験豊富でないと、
絶対に間違うな、と感じた。

なんでもかんでも入らない。

入るのは、本質的なものだけだ。

他はノイズだ。
ノイズならまだいい。本質を濁す、害悪にすらなる。


その長編の本質は何か?を、
うまく捉えていないと、
なんでもかんでも入れたくなって、
キメラが出来上がっておしまいだ。

そんなごにゃごにゃのものが、面白くて名作な訳がない。
精々、珍作や力作レベルであろう。
人を楽しませ、感動させ、人生を変えるほどの名作には、
そんなややこしいものは微塵もなく、
本質に関することだけが残され、
その他は注意深く捨てられているはずである。

名作は整理されている。
どんなに長くとも、茶室のように。



捨てよう。
捨てることで残すことを、沢山練習しよう。

それには、短編の沢山の練習が生きる。
posted by おおおかとしひこ at 13:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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