2016年02月28日

プロの現場から2:トーン&マナー

この企画を考える上で、
広告主のトーン&マナーというものがある。

それを外して持っていっても、
うちのカラー分かってます?と跳ねられるに決まっている。

一応、今回の広告主のトーン&マナーを書いておく。


「受信料を払ってください」
(または、受信料は意味と価値があるのです)
ということを啓蒙するキャンペーンには、
別だて予算で、
「受信寮の人々」というシリーズがある。
見たことなければ、ググって。
現在公式サイトで7話まで見ることが可能だ。
(ちなみに糞みたいに詰まらないので、
これを標準レベルと勘違いしないこと。
10点満点だと、2か1の出来である。
何故詰まらないのか。出落ちしかないからだ)

このシリーズとは、全く別に見えなければならない。
まぎれるからである。

つまり、ガチャガチャしたコント仕立ては禁止。
有名人登場などの飛び道具も禁止(そもそも予算:極貧という条件)。

有名人は使えないが、
役者やこれから有名になりそうな役者は使える。
「NHKのCMに主演」という文句で事務所に相談すれば、
普段の1/10のギャラだとしても出してくれる事務所はある。

ただ、有名人ありきで企画するのは禁止。
その人に強力なコネがあり、
企画を見ずにスケジュールを空けてくれるのなら、
その限りではない。

一般に、まずはストーリーを考えた上で、
たとえば今回は、
大学進学の為上京して一人暮らしになる、娘または息子と、
母または父のドラマになるだろうから、
その話が出来たあとに配役を考えればよい。

で、配役ありきの話よりも、
一般的な、娘、息子、母、父、という登場人物で考えること。
(予算のことを考えると、二人までしかキャストを出せなさそうだ。
だから、娘×母、息子×母、娘×父、息子×父の、
いずれかの話になるだろう。
勿論三人、四人の話にしてもよいが、
30秒に収まるように考えなければならない)


また、
NHKは、皆様の受信料で成り立っている放送局である。
その信頼を裏切る内容は放送出来ない。
つまり、受信料なんて意味がないとか、反社会的なことはアウトだ。
(一回意味がないに振って、意味がある、という結論に落とすのは、
勿論OK。ただしCMといういつどこで見られるのか不明な媒体で、
部分だけを見られる可能性もあるので、あまり否定的な部分が長いのはダメだ)

普通は、日本全国の人が感情移入しやすい、
「しっとりとしたいい話」に落ち着く。
このストーリーを考えることが、
今回のメインの課題だと考えて頂きたい。

だが、過度にお涙ちょうだいをするのはダメだ。
誰かが死んだり、不幸を利用して泣かせるパターンは、
「俺たちの受信料でこんなもの作ってんじゃねえよ」
という全国の反発を食うことになる。

不幸を利用して泣かせる、というより、
人々の幸福で泣かせる、のが望ましい。

CMはネガティブよりも、ポジティブであるべきだ。
つまり、親子の別れが不幸ではなく、
旅立ちとか自立とか、幸福な結論でなければならない。
リアリティーのない、過度な希望や嘘臭い展望は、
そもそも感動やいい話ではない。

また、古くさい人情話もNHKは嫌う。
NHKは常に「新しくあること」を是とする。
NHKってこんな感じの古臭くて学級委員長みたいな話好きでしょ?
と持ってくるのを一番嫌う。
今の時代の気分をちゃんと反映しつつ、
しかも一部の人しか反応しないネタではない、
すなわちど真ん中の、今の王道が求められる。


なんとなく、求められるストーリーの温度感は分かってきただろうか?


我々は、物語で、
上京する人々や、彼らを送り出す親を、
祝福し、勇気づけ、それは素晴らしいことだと思わせなければならない。

しかも30秒という短編で。



あと、NHK的な好み。
朝ドラに出てくるような女の子が好き。
ということは、高確率で、
上京するのは18歳の娘、ということになる。
勿論息子の話がNGというわけではない。

実際、今回も、某事務所の某新進女優を主演で試してみたいのだが、
監督が気に入れば使ってみませんか、という資料を渡されている。
僕はストーリーに合うならキャスティングするのは、
やぶさかではないけれど、
まずはいい話ありきでしょう、と、
ストーリーを先に考えることを選んだ。
(ここで枕営業やごり押しが発生することも、世間にはあるのだろう。
だがフラットでクリーンな関係だからこそ、内容に集中出来るというものだ)

その話を考えた上で、結局その子と会うことになるのだが、
話が決まらないと、その子が合うとか合わないとかの話も出来ない。

ということで、
娘の話多目で考えればいいだけだ。
といっても、払う主体が親であることは変わらないので、
「親目線からの、娘(または息子)の話」
という、ややねじれた構図にはなるだろう。




また、民放で流すCMと違い、
音楽の使用に制限はない。
NHKはJASRACと年間契約をしており、
放送都度楽曲使用料を払わなくてよい。
従って、どんな曲でもよいです。

ただ、音楽ありきの企画は、30秒でどのくらい語れるか、
ということになる。音楽をワンフレーズ聞かせても5、6秒は失うから、
お話もので音楽主体になることはあまりない。

だから結局、音楽前提でない、
ふつうのいい話をつくり、
そのBGMで有名楽曲を使う、
というレベルで音楽への態度を決めておけばよい。
(実際、最終形には、わりと有名な音楽がBGMとして使われた。
しかし、その楽曲ありきではなく、
物語の感情を増幅する、劇伴としての役割をその曲に担わせただけである)



つまり。

我々の武器はなにもない。
お話だけだ。

丸裸の、ストーリー一本で勝負しなければならない。


タイアップの仕掛け、ネットやイベント連動の仕掛け、
有名モノ連動の仕掛け、
ビックリ映像によるトリックなど、
お金がかかるものは一切使えない。

いい話。これだけが勝負ポイントである。


滅多にない、ストレート一本勝負だ。



さてお立ち会い。
考えよ。最低三本な。

実際に作ったそれが、ひとつの解答として、3/1からOAする。
ちょっと面白いでしょ。
3/1解禁後、解説の続きをします。
posted by おおおかとしひこ at 08:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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