2016年03月01日

プロの現場から3:企画

本日3/1からNHK総合、教育、BSにてオンエア。
「娘の出て行った部屋」編です。作演出、おれ。
(微妙にモデルプレスとYahoo!ニュースで先程ネタバレした模様…)

ブレイク前夜の葵わかなちゃんに、
ドラマ「マネーの天使」撮影の合間を縫って出演してもらいました。
mineoの魔法使い役でばんばん出ておりますね。
自然でいい芝居だった。色々自分で考えて芝居を作っているのが、とてもいい。
何年かしたら、まじで朝ドラまで行っちゃいそうな勢いと、
実力のある女優です。17歳なのに。
母親役は山像かおりさん。素敵な役者でした。

役者に会った自慢はおいといて(笑)、
脚本論に戻りましょう。2のつづき。


さて、
「親目線から見た、子供の大学進学を機に一人暮らしをはじめるとき。
彼(または彼女)の為に、親が受信料の家族割引を、半額なので払う」
という話を、考えださねばならないのだった。

ついでに、
「子供が思ったよりしっかりしていることを発見し、
しっかりしたNHKを見てほしいと願う」なんてギミックも提案されていた。


中二日。

僕が考え、プレゼンしたのは次の5案である。
いずれも30秒形を想定していて、
60秒形は通った案について発展させようと考えていた。

企画五案.pdf

このうち四案目の「娘の出て行った部屋」編が採択され、制作に入った訳だ。
どれも出来がいいので、ひょっとしたら来年もつくったりして。
その時は情報漏洩になるので消します。

さて、解説をしてみよう。


高校卒業後、大学進学の、微妙な心の揺れをすくいとり、
一人暮らしの不安や希望について、描いてゆく。
オリエン通り、娘多めである。
去年の小松菜奈のバージョンでは、
「娘と母が駅で別れる」という鉄板シチュエーションを使っていたので、
それを避けるべく考えなければならない。

ということで、
上京前の準備(料理をマスター)、
上京前の準備(家事をマスター)、
卒業式の帰り道、
上京後に残された部屋、
スーツを仕立てた日、
のような、
シズるシチュエーションを持ってきた。

駅での別れがピークだとしたら、
あえてその瞬間より以前の時間軸、以後の時間軸に振った方法論だ。

ピッチャーが球を投げる瞬間ではなく、
ワインドアップでそれを表現したり、
投げ終えた間で表現する方法論である。


娘と関係性が深いドラマを描けそうな、
親は母にすることにした。
父親の背中みたいなドラマも捨てがたいので、
スーツの話に変形としていれた。



「春キャベツの芯」

「上京前に、母の味をマスターしておく」という
シチュエーションを思いついたので。
俺が一人暮らしをするとき、習っとけばよかったなあと思ったが、
女の子には、母は教えるかも知れない。
「料理の味を継ぐ」のは、シズるよね。

春らしい季節感が欲しかったので、春キャベツをモチーフとした。
菜の花のおひたしとかでもいいけど、
「芯を捨てない」ということで、
お題の「しっかりした子」という点をクリアできそうだった。
元々は、シイタケの芯を捨てるかどうかという話だったが、
春の季節感のために春キャベツに変更。
駅での別れシーンを鉄板ラストに持ってきている。
「大人の入り口のキミを、応援したい。」
という母目線のキャッチコピーで、
半額受信料を払う母の気持ちに寄り添ってみた。


「出てゆく日」

料理だけじゃなく家事全般に発想を広げてみた。
「家から一人減る」のは、とてもさみしいことだなあ、と思った次第。
でも「受信料を払う」ことで、
まだ少し関わっていたい、微妙な親心を突いている。
車の中がクライマックスになる、今時の田舎の別れシーンだ。


「卒業の日」

卒業式はシズる。
ただよくあるシチュエーションだけに、今時の工夫が欲しい。
で、美術部たちが最近ゲリラ的にやってる、
超リアルな黒板絵をツカミに持ってきた。
そのあとにふと漏れる、
「今時の若者の萎縮(ちゃんとしてる、といえばそうだが)」
を持ってきて、
のびのびせよ、と受信料を肩代わりする母親を描いている。

結局すねかじりなんだけど、
「喜んでかじられてやるさ」と親たちを思わせなくては、
広告の意図を達成したことにならないのである。
撮影時期が二月ということで、
ラストの桜並木は撮影が難しい、と判明。合成?


「娘の出て行った部屋」

上京する「前」ではなく、「後」に時間軸を持ってくると、
というのが発想のもともと。
娘の出て行った部屋は淋しいだろうなあ、と想像してみた。

落書きしてあるが、ツバメの巣立ちは六月らしく、だいぶ先なので、
何の鳥か特定出来ない、庭の野鳥の巣で表現することに変更。

カットバックだけで進む、二元中継ものだが、
だからこそ二人の、その後も続く絆を描けると考えた。
(絆とは、ぶっちゃけ受信料のすねかじりなのだけど)


「大人になる息子へ」

一個ぐらい変化球の企画を入れようと企んだ。
ついでに息子ものにしてみることに。
プレゼンをするとき、こういう幅広く見せることによって、
「こっち方向じゃない」と意思確認も出来るので、
こういう変化球を入れておくことは重要だ。
アイスクリームにおけるウエハースみたいな。

父は幽霊だった、というよくあるパターンだが、
こういうシチュエーションはなかなかないよね。
スーツのショートフィルムCMにもいいかも知れない。

車で出発する時、角をまがって見えなくなるまで母が手を振ってるのは、
息子としては辛いものだ。そんな気持ち。



プレゼンの場では、どれも受けがよく、迷うねなんて話になった。
オススメを聞かれたが、
「親が主役に見えた方が良いのでは」と素直に答えた。
娘がしっかりしてるから、という担当の方のアイデアだと、
娘が主役に見えてしまうだろうな、ということも。

ということで、「卒業の日」「娘が出て行った部屋」がオススメとなり、
引っ越しの段ボールのシチュエーションが分かりやすい、
ということで後者が選ばれたのだと思う。



CMの作業では、企画が採択されたら、
ここから演出コンテという作業に入る。
台詞を更に磨いたり、アングルを切ったり、秒割を正確にし、間を計算する。
よりよいフィルムにする作業だ。
企画コンテはあくまで漫画的な分かりやすさを追求したもので、
実際にカメラで撮影し、編集する前提のカット割にはなっていない。
ついでに撮影の効率をも考えて、演出コンテは切られる。
(描く、とは言わず、切る、という)

ほとんどのCMでは、企画者と監督が違うのだが、
今回は僕が企画したので、
劇的にコンテが変わる訳ではないけれど。


企画を立てるにあたり、このコンテ以前のメモが残っていたのでアップしてみる。
相変わらず自分用の汚い字なので解読しきれないかも知れないが、
参考にされたい。

娘の出て行った部屋メモ.pdf

春キャベツの芯下書き.pdf
出てゆく日下書き.pdf
卒業の日下書き.pdf
娘の出て行った部屋下書き.pdf
大人になる息子へ下書き.pdf

まず企画を立てるにあたり、メモのような字で考える。
随分色んな所に発想が飛びながら、
次第に一本道を模索し、収斂していることがわかるだろう。

一応ストップウォッチを持ちながら、30秒に入るかどうかも考える。
素人はやりがちだけど、台詞が全部入ればOKではない。
何も言わない間(「…そうね」の、「…」の部分!)や、
音楽を聞かせてグッと来させる間も、計算に入れなければならない。
昨今の詰め込み型CMでは、そういうのがないがしろにされがちだ。

入らないなら、状況や台詞を整理して行く。
「もうこれぐらいしか母さんしてやれることないしねえ」
なんて、内に秘めるべき気持ちの台詞を切って行く。
巣分かれ(分蜂)という、蜂の現象が僕は好きで、
この企画は当初そうしようと考えていた。
だがマイナーすぎるかな、と思い、鳥の巣立ちに引っ掛けることにした。

テレビに関する会話も見られるが、まあ必要ないだろうな、とカットしてゆき、
最終的に下書きの形に落ち着く。


これらのメモから、コンテの下書きをする。
分かりやすい絵の運びにし、内容を一覧出来るようにレイアウトする。
で、清書したものがプレゼンされるわけだ。


では、企画採択後の演出コンテ段階へすすもう。
次回へつづく。
posted by おおおかとしひこ at 01:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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