2016年03月02日

「オデッセイ」をちゃんと「火星ひとりぼっち」に出来たかも知れないアイデア

先に答えだけ示す。

火星基地に話せるコンピューターがいて、
気温や圧力、実験の失敗などを報告し、
改善案を指摘したり、主人公の話し相手になる、
というのはどうだろうか。


恐らくだけれど、
原作が小説ということで、
無人島サバイバルならぬ火星サバイバルは、
一人称で書かれていたのではないだろうか?

主人公視点だからこそ、
彼の苦悩や工夫や発見や、
失敗や反省や観察や思考、
感情的な恐怖や達成感などが、
克明に書かれていて、
それが面白かったのではないだろうか?

一人称と三人称の違いは、過去に散々書いた。
映画は三人称形式である。
一人称でメインとなる、
「人の頭の中」を撮ることは出来ない。
じゃ三人称だとどうするのかというと、
その内的コンフリクトを、外的コンフリクトに置き換えるのである。
外的コンフリクトというのは、
一般に「敵を出し、彼と会話させ、闘わせる」ことをさす。

良く出る例は、「警察組織の不正をただす」という、
抽象的なコンフリクトを、
「犯人である警察署長を逮捕する」という、
具体的な物語に変換する、ということである。

さて、
オデッセイでは、敵は火星の自然であり、
意志疎通は不可能だ。
「警察署長を追い詰める」ような、映画的な楽しみには程遠い。

ダッシュ村ならば、時々ナレーションの解説があったり、
TOKIOたちが話し合ったり出来るが、
この主人公には喋る相手すらいない。
喋らないと、彼の思考や思いを口にすることは、
パントマイム以上には不可能だ。

この映画の脚本家は、
「ビデオレポートを記録する」という自然な芝居で、
彼の内面の吐露や、状況説明を試みたようだ。
航海日誌をつけるのは、この手の常套手段で、
実際に航海日誌をつけるかどうかというよりも、
もっともらしい、というレベルのリアリティーで、
我々はそのことをリアルだと受けとる。
(外人は毎回航海日誌をつけてて、マメだなあ、
と昔僕は思っていたが、これは映画の小道具という嘘なのである。
いわばご都合主義である)

だが航海日誌は、独白にしかならず、
三人称のハイライト、外的コンフリクトを描けない。
コンフリクトとは、他者と他者の間で起こるものだからだ。
つまり、主人公以外に、もう一人他者がいなければならない。

しかしそれでは、「火星の孤独」というコンセプトに反する。
二人で残されるわけにはいかない。


ということで、
火星に、喋るコンピューターがいればいい、
というアイデアにたどり着くことになる。

そのコンピューターが、肉声で状況を説明してくれ、
(気温や気圧、酸素状況、NASAの行動など)
それに主人公がぼやいたり、いきがったりすれば、
コンフリクト的な会話を作ることは簡単だ。
「このジャガイモは、60日分しかもちません」
「なにいってやがる。幸い、俺は植物学者だ」
というように。
「ローバーで谷までゆくのは、非合理的行動です」
「うるせえ。生き残るために、必要なんだよ!」
「砂嵐が近づいています」
「先に言えよ!」
などのように。
「火星は人間の生存に向いていません。最善策は、地球に戻ることです」
「知ってるよ!」
などのように。

これならば、原作の火星ひとりぼっちの構造を崩すことなく、
主人公の一人称内的コンフリクトを、
三人称の外的コンフリクトに置き換えることが出来そうだ。

映画版では、
火星ダッシュ村の話はそこそこにして、
早々に地球側に話を切り替えていた。
人と人の間にコンフリクトをつくる、
三人称形で話を進めるためだ。

僕が邦題を「火星救出作戦」とすべきだと判断したのも、
ドラマ(人と人の間の変化)は、地球側にあると感じたからだ。
まあそれはそれほど面白くなかったけどね。

コンピューターとコンフリクトを起こすドタバタにすれば、
火星ダッシュ村という、この映画のコンセプトを、
もっと面白く練れて、ジャガイモがピークではなく、
もっと後半にもサバイバルの山を持ってこれて、
地球側のドラマを縮小し、
原題どおり「火星の人」というお話になれたように思う。



ちなみに、似たような作品に、
「月に囚われた男」という佳作がある。
落ちは微妙なのだが、
比較して研究するのも乙だ。
僕はこっちのほうが面白いと思った。


要は、オデッセイの脚本チームに、
一人称と三人称の違いをわかり、
変換できる使い手がいなかったのだろう。

俺を呼べ。
posted by おおおかとしひこ at 14:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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