2016年03月05日

人物設定ではなく、無意識

オカルトめいてるけど、
人物を書くには、その人物の無意識が、
自分のなかになければならない。

憑依、と呼ばれる現象と、結果的に似ている。


その人物の生まれてから現在に至るまでを想像したり、
年表をつくったり、
現在の性格への過去の影響を分析したり、
いわゆる心理学者的なことをするのは、
性格設定表を作るためではなく、
その人物の無意識を、
自分の無意識の中にインストールするためである。

その人物がある事態に遭遇したとき、
こう反応する、というのが、
理屈ではなく、無意識から出てこないと、
スラスラと書けるものではない。

たとえば、
あなたのよく知っている人物、
友人や親や恋人が、
ある文脈に置かれたとき、
言いそうなことや、しそうなことは、
なんとなく予測できるだろう。
それは理屈ではなく、
「なんとなく分かる」という感覚のはずだ。

我々人間が他者を理解するとき、
理屈で理解するのではない。
自分の自我と相手の自我が溶け合った、
ひとつの無意識内に作り上げた、他者、
という概念を操る、と僕は考えている。
自分の親しい人を頭のなかで動かすとき、
それは理屈ではなく、
それまでの膨大な経験から抽出した、
その人っぽさという概念で駆動させるはずだ。

たとえば物真似などはその典型である。


なんだか難しい話をしてるようだけど、
理屈ではなく、感覚でそれをやる、
ということだけが確かだと思う。


つまり、言葉を変えていうと、
その人物(実在だろうが非実在だろうが)
の無意識を、我々の無意識の中につくる、
という感覚である。

「性格設定表にこうあるから、こうしなければならない」
という執筆は、遅く、理屈で固めすぎて、
人間の柔軟性を表現できない。
ルールで動くロボットでしかない。

物語の中の人物は、
もっと人間らしく動く。

漫画や演劇やラノベなら、誇張した人間像でも構わないが、
映画は別だ。
リアリティーある、実在の人のように描く必要がある。
それは、リアリティーっぽいルールをいくら設けてもダメで、
無意識で書くレベルでなければならない。

で結局、自分の無意識の中に、
その人物の無意識が、生きてるかどうかってことになる。


小説を書くと、その人の無意識っぽさは、
肉体ではなく思考だと言うことが、なんとなく分かってきた。
映画のシナリオでは、肉体と焦点と動機と行動の中に、
その人の無意識っぽさがあるような気がする。


つまりは性格設定表なんて、
膨大なインストールすべき情報の、表面的な触りに過ぎず、
精々1/100程度ってことだ。
あなたが人物を上手く書けないのは、
その人物の無意識とシンクロしてないからだ。

その人物の無意識を、自分の無意識の中にインストールする有効な方法は、
現実と同じで、「彼(彼女)と話をすること」である。
肉声でぶつぶつ話をするのがベストだが、
気味が悪いので人前ではやめよう。
頭のなかでその人と世間話をしたり、
自己紹介をしたり、昨日あったことや、
昔あったことを、ただダラダラと話すといい。
そのうち、相手の発言や行動が、なんとなく(友人のように)予想できるようになってくる。

そうしたらしめたもので、
また別の人物についても同様にやる。
二人以上頭のなかに呼び出せるようになったら、
その飲み会の席から自分が退出するといい。
勝手に二人以上で喋り始めるはずだ。
あとは、彼らに出番と文脈と目的を与えれば、
勝手に冒険をはじめるだろう。

それをあなたが記録すればいいだけだ。


このやり方は、恐らく精神分裂症ぎりぎりを引き起こすだろう。
普段の生活に帰ってこれる唯一の方法は、
ハッピーエンドに帰着させて、
彼らと無事別れることだけである。
従って、完結出来る長さでだけこの方法をした方がいい。
一日で書ける分量で完結させたほうが、自分へのダメージは最小だ。
何日もかけて書く場合、無事に帰ってこれる保証はしないよ。
何年も何年も書くような、その人物への固執は、
もはや自分の別人格になっちゃうよね。

多分、そこそこの長さのものを書いた経験があれば、
前半は設定表のようなキャラだったけど、
後半はキャラが生きてるようになり、
勝手に動くようになった、
という経験をした人は多いだろう。
それは、そのキャラとたくさん話して、
そのキャラの無意識が、自分のなかに出来上がったからだ。

僕は、これを第一シーンからやるべきだと思っている。

(だからプロは、書きはじめるまでに時間がかかるのである)
posted by おおおかとしひこ at 15:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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