記念写真とか証明写真で、これを言われた人、多いよね。
で、出来上がった写真見てさ、
二重顎ぎみになって変な表情でショック受けた人、多いよね。
ほんとの私はこうなのかなと。
これは、指示が間違っているのである。
正しい指示は、「ちゃんと座って、背筋を伸ばして」なのだ。
実は、椅子の座り方が悪いのだ。
普通に真ん中に座って背筋を伸ばすのが正解。
背筋が伸びてないと、
ゴリラみたいに顔が前に出る。
すると顎が上がる(顔の面がやや上を向いてバランスを取る為)。
この状態で顎を引くと、体の姿勢に無理をさせることになる。
上目遣いになるし。
これが変な緊張を誘発し、
二重顎まで顎を引いたり、変な緊張した顔になるのである。
つまり、
顎という先端が間違っているのではなく、
姿勢という根本が間違っている。
写真屋は、フレームの中しか見てないから、
目先で一番目立つ顎しか分からない。
間違っているのはフレームの中ではなく、
フレームの外の姿勢だ。
人間は、姿勢で気持ちが変わる生き物だ。
ゴリラみたいな姿勢の悪さで、無理矢理顎を引かされて、
魅力的な表情になるはずがない。
すっと背筋を伸ばして、正しく前を見たら、
誰だって清々しい表情になるに決まっている。
「顎引いて」という写真屋を信用するな。
そいつは下手だ。
人間というものを分かっていない。
これは、お芝居全てに通じることである。
お芝居をちゃんとやらせようとしたら、
それをしやすい環境に、
正しい姿勢で置くのが一番なのだ。
お芝居は無理矢理嘘をつくことではなく、
自然にそうしてしまうようにすることだ。
NHK「娘の出ていった部屋」において、
娘役の葵わかなの表情が輝く瞬間がある。
「その子はきっと東京に行ったのよ!
自分の可能性を試しにね」という肝の台詞を言うときだ。
巣だった鳥と自分を重ねた言葉である。
この時の「姿勢」に皆さん気づいたろうか。
クッションに座る、という姿勢変化を使っているのである。
それまでの立ち芝居から、リラックスした瞬間の、
表情の変化を狙ったのだ。
これは偶然ではない。
文脈に応じて、前半は立ち芝居で不安定さを、
後半はリラックスして生き生きした台詞を言うように、
暗に誘導しているのである。
それがしやすい場をつくるのが、
実は演出の、一番の仕事だ。
「それ」という表現意図(この場合、リラックスして輝くこと)
を決めて、それに環境から作ることである。
つまり僕の仕事は、
「最初に高い段ボールを積んでおき、
真ん中にクッションを置いておくこと」なのだ。
「ここで、リラックスして輝いた表情で、生き生きと台詞を言って!」
というのは、「顎を引いて」という下手な写真屋と同じだ。
「クッションに座って」と一言いうだけで、
「背筋を伸ばして」と一言いうだけで、
正しい表情を導き出すのが上等なやり方である。
ちなみにこれは、順目のやり方だ。
わざとやりにくいやり方、逆目で引き出す方法もある。
たとえば「この会話は、母との最後の会話。このあと交通事故で母は死ぬ」と、
こっそり彼女に耳打ちするなどだ。
そうすれば、必死で一番いい表情をするだろう。
そういう追い込まれ方が好きな女優もいるけど、
今回は初めて会う女優だったので、余裕のある順目でやってみた。
ドラマ風魔では、わりと逆目の追い込み方をしたな。
最終回の小次郎の重要な長い台詞をワンカットで撮ったのは、その典型だ。
(その為周囲のリアクション撮り忘れた話はしたよね)
さあ。
あなたの書く脚本は、
「顎を引いて」なんて馬鹿な指示を書いてやしないか?
そんなものいらないし、
あっても俺は消す。
(いつだったかなあ。「怒りに拳が震える」なんて下手な指示を見たな。
その為にワンカット拳のアップ撮んなきゃいけないの?あほか、
って思ったなあ)
2016年03月10日
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