2016年03月29日

表現とは、捨てることである

なんてよく言われるよね。
「削ぎ落とす」でも「省略する」でもいい。
それが表現だ。

しかし具体的なもので議論しないと、抽象的すぎる。
具体例を仕入れたので、徹底的にやってみよう。


まずネットで仕入れたこれをご覧頂きたい。
1お得な掲示板.jpg

JR大崎駅に貼られたポスターである。
よく見るパターンだ。
駅員さんがパソコンの何かで作ったのだろう。

これが素人の表現だ。
とにかくごちゃごちゃして分かりにくい。
目が滑る。

これは何が駄目なのだろう。
「プロの表現」をこれを元に考えて行こう。


素人の表現とプロの表現の何が違うのか?
デザイン力やセンスだろうか?
かっこいいフォントを使うことや、ポスターセンスだろうか?
そうではないことを示そう。

プロは、意味の整理に長けているのだ。
それはどういうことかというと、
ごちゃごちゃしたものを整理する力だ。
どうやって?
「捨てる」ことでこれを実現するのである。


さて、この分かりにくいポスターは、
「そもそも何を言いたいのか?」つまり、「大意」を考えよう。

必死で解読すると、
どうやら、これは大崎駅限定のキャンペーンで、
ポケモンスタンプラリーの一環で、
「都区内パス」または「休日おでかけパス」を大崎駅で購入すると、
JRオリジナルグッズが貰えるキャンペーンらしい。
各日先着10名様なので、そんなに数は用意していないようだ。

スタンプラリーというキャンペーンは、
各駅で降りなきゃ押せないから、電車賃を稼げるのだろう。
長距離で割り引く料金体系だから、各駅で降りるとその分単価が上がる仕組みだ。
それで、多分ポケモンのスタンプを集めようぜ、というものだ。
御朱印帳が生まれて以降、日本の伝統的キャンペーンといってよい。

それと全く関係ない、
「都区内パス」「休日おでかけパス」を複合技にしたキャンペーンである。
つまり抱き合わせ商法だね。
何の関係もない、
客寄せイベントと、売りたい商品を、抱き合わせキャンペーンにして、
グッズで釣ろうとしている訳だ。

そもそもパスとポケモンが関係ないので、
これは分かりにくいキャンペーンである。
だからポスターも分かりにくいのか?
いや。
ポスターだけは分かりやすく出来る。
それを示そう。



まず、ポスター内の要素わけをやってみよう。
これが紙の上に印刷されているとして、
はさみで切り抜くのである。
実際にはPhotoshopを使っているが、
昔ははさみとのりと、コピー機で拡大縮小したものだ。
(デジタルでやるより、アナログでやるほうが、手が感覚をつかめるので、
暇ならやってみよう)
2掲示板パーツ.jpg


よく読んで、最低限のパーツは何かを考える。
それを選んで、レイアウトしなおしたのがこれだ。
(多少の文字を変更して、MSゴシックで入れ替えた)
3レイアウト.jpg

ね、伝わりやすくなったでしょ?

JR駅員にハンデを負わせないため、
「全く同じパーツで」レイアウトをし直した。
つまり、おしゃれフォントや絵心は関係ないようにした。

大きい部分が重要なところで、まず目がいくようにする。
それは、
「このポスターの意味は何かを、一言で言うこと」に収斂する。
つまりは「ちょっぴりプレゼント実施中!」が一番大事なこと、
という判断である。


ここで、僕が捨てたものを見てみよう。
青く塗った部分がそれだ。
4捨てたもの.jpg

余計な下線や囲みも捨てた。
ちなみに、残した部分を赤、捨てた部分を青で示す。
5捨てと残し.jpg



さて、素人はすぐ修飾したがる。
イタリックや赤文字、下線などでだ。
それをやれば強調されるとでも思っているのだろうか?
ごちゃごちゃして、結局何も伝わらないではないか。

大事なことは大きく、そうでもない事は小さく、不要なものは捨てる。
これだけで意味が整理可能だ。
イタリックも、色文字も、下線もなしにした、
黒文字だけのものにしてみよう。
6意味だけの抽出.jpg


つまり、これで、「意味」だけが抽出されたのである。


ところで、僕はこれは日本語が下手だと思う。
同じ意味を伝えるのに、もっと上手に言える筈だ。
ということで、直してみた。
7意味の整理.jpg


一番大事なのは何か?
「プレゼントがもらえる」ことだ。
それが一番目立つように、真ん中に大きく入れる。

その条件はみっつ。
ポケモンラリー参加者、当駅利用者、パスを購入した人。
その証拠、
台紙、切符、パスが証明になり、
どこへ行くとよいかを明記するだけでよい。

三枚並べてみよう。
1もと、2捨てたのちレイアウト変更、3文言変更だ。
1お得な掲示板.jpg
3レイアウト.jpg
7意味の整理.jpg



あなたは何を表現したいのか?
1みたいな原稿を書いてやしないか?
2に整理しよう。
そして、3に書き直すのである。

プロのデザイナーは、
おしゃれなフォントを使いこなせるとか、絵心があるからデザイナーなのではない。
1を2に整理するから、プロなのだ。
プロの表現は、ここが肝なのだ。
これさえ出来れば、あとはセンスは普通にあるから、
3に作り替え、ここからおしゃれフォントを選ぶ作業に入ればいい。


僕がガワだというものは、この上にかぶせるのである。
それがおしゃれフォントだったり、絵心だったりするのは、言うまでもない。



表現とは、捨てることである。
捨てることで、どういう構造なのかを明らかにする。
残ったものを、余白(余韻)こみで豊かにしていけばよい。
posted by おおおかとしひこ at 17:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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