2016年04月02日

脚本添削スペシャル2016-1:タイトルのこと

今年もやって参りました、(俺的に)一年に一回の大イベント、
脚本添削スペシャルです。

みなさんの原稿を直接添削することで、
何が足りないのか、何が過剰なのか、
脚本とは何かを明らかにしていこうと思います。


さて、今年は沢山の方から応募がありました。
なんと9本。
ディフェンディングチャンピオン(?)、
ほらさんも果敢に応募してくれています。
みなさんお疲れ様でした。

1本選んでいつものようにやろうかと思ったのですが、
みなさんにリアルを見せるため、まずはそれらをそのまま公開します。
(本人に許可はとっています)

本文を読む前に、まずタイトルを並べてみます。
実はこれだけのことで、多くのことがわかるのです。

送られてきた順番、
つまりほぼランダム順で、並べてみましょう。

「プレゼント」
「不機嫌な田中」
「会えるまで」
「ロボット・アウェイ」
「無敵ママ ゴルビウス」
「さくらさん」
「カードゲーマー葉子」
「花曇」
「石焼き芋ラリークロス」

面白そうかなあ?

僕は、いまひとつこのリストに触手が動きません。
もしこういう漫画が載ってる雑誌があったら、と考えてください。
どれが名作でどれが後ろのほうかを。
そもそもこの雑誌、全部読まなさそう。

「不機嫌な田中」は不条理コメディーを予想して、手に取るかも知れない。
「石焼き芋ラリークロス」は「焼き芋ラリー」だったら手に取ったかも知れない。

これは、好みで言っているのではないのです。
長年、当たりを引いたり外れを引いたりしてきた、何かの勘です。
中身が充実している話は、タイトルになんとなく引きがあるものです。


あなたがツタヤの棚の前にいるとしましょう。
本屋の棚でもよいです。

背表紙から伝わるのは、タイトルとデザインによる雰囲気だけです。
脚本ではビジュアルを示せません。
出来ることは、タイトルの文字、意味、示す広がりを決める事だけ。

どれが面白そう?



「プレゼント」は平凡そう。誰かが誰かにあげる話でしょ?(実際、平凡な話でした)
「不機嫌な田中」は、手に取ってたしかめると思う。(実際はタイトル詐欺だった)
「会えるまで」も平凡そう。静かな話っぽくて地味そう。切ない感情もレベル低そう。
「ロボット・アウェイ」はロボットの話だろうけど、予想がつかないので手が出にくい。
ホーム/アウェイの話か、死に落ちか。

「無敵ママ ゴルビウス」はキャッチーだけど、「ゴルビウス」の言葉選びがダサい。
ロボットアニメを知らない人がロボットアニメを真似しようとして選んだ感じ。
ダサいのが狙いで、ダサカッコいい予測もありえるけれど、「無敵ママ」で萎える。
B級×B級で、多分滑るだろう。センスの良いギャグでもなさそうだし。
「さくらさん」。無視。笑える話? 日常不条理系?
情報量がゼロすぎて。「うんこさん」とかなら手に取った。
「カードゲーマー葉子」。引きゼロ。
「カードゲーマー葉子!!!」みたいにして目立たせる程度の知恵すらないので、
駄目そうな匂いしかしない。
「日本で二番のカードゲーマー」ならまだ面白そうだが。

「花曇」。意識高い系の匂いがぷんぷんします。
なんだか微妙な心の移ろいを花曇にたとえるのはいいけれど、
そもそも花曇という現象そのものにヒキがない。ダウナー文学だろうなあ。
よほどの名作文学なら別だけど、いまどき流行らないタイトルなのは明白。
「花曇は嵐に飛んだ」とか「花曇、来ず」とかなら手に取るかも。
「石焼き芋ラリークロス」? ラリークロスって何?石焼き芋をバケツリレーする話?
想像できなくて引きがない。

あなたなら、どれから読みますか?
そしてどの順で、どれを後回しにしますか?

後回しにされるということは、それだけヒキが弱いということ。
それはタイトルが弱いのではなく、
そもそも内容が弱い可能性があります。

内容が強く面白ければ、「花曇」なんて自信のなさそうなタイトルをつけるはずがない。
内容が強く面白いのに「花曇」なんて微妙なタイトルをつけるやつは、そもそも信用ならない。
いずれにせよ、内容が弱い事が予測されます。


タイトルはただつけるのではない。
内容と、意外と一致してるのです。

内容が微妙なら、タイトルは微妙になるか、全然関係ないタイトルで詐欺るもの。
「バス男」とか「壁と男と女とヤギと」とか「天国の入り口、終わりの楽園」みたいに。

それが、僕が長年映画館に通い、レンタルビデオを見、
本屋で立ち読みしてきた経験みたいなものです。

逆に、「不機嫌な田中」は、
偶然面白いタイトルがつけれただけで中身は平凡でした。
ビギナーズラックみたいなもんですな。
こういうのがタイトル詐欺。結果、むかつく。読むんじゃなかったって。



もしこれが実戦なら、ワンビジュアルをつけることが出来ます。
タイトルとかけ離れた意外なビジュアルで、面白そうだと騙す事も可能です。

たとえば「花曇」というタイトルで、
火星でロボット作業しているおじさんのビジュアルとか。
たとえば「無敵ママ ゴルビウス」というタイトルで、
ゴルバチョフ大統領を怒るババアのビジュアルで、
ゴルビウスってゴルバチョフの母親の事かよ?と思わせるとか。

損してるのは「石焼き芋ラリークロス」で、
実際のビジュアル「石焼き芋屋の軽トラックが、キャタピラを履いて雪原をゆく」
という面白さを再現できてない。
ビジュアルをそのまま示すなら「焼き芋ラッセル」とか、
もう少し短い単語でまとめないと伝わらない。
もしワンビジュアルが添えられるならインパクトはそれで補完して、
タイトルを「つまこい」とかにすると良かったかもね。

あなたなら、この一覧のどれから読み始めるでしょうか?
そしてこの中の原石をこぼさず拾えるでしょうか?

もしあなたが脚本の選考員になったと仮定しましょう。
さらにその先、観客になったと仮定しましょう。
どれから見る?
全部わざわざ見る?
どれは飛ばす?
どれは捨てる?
どれは、二度とこの作者のものは見ないと誓う?

さあ、読んでみましょう。

ところでひとつ忠告です。
フォーマットがバラバラです。
それだけでイライラしますね。
それをも味わってみて下さい。

どうして賞の応募規定はあんなに細かいんでしょう。
それは、こんだけフォーマットがバラバラで、読む側がイライラするからです。

ゴシックにして主張しようとしたり、装丁に凝ったって、
いちいちめんどくさいから捨てられるのが落ちです。
中身で勝負しろやボケと思われるだけです。

幸い今回は余裕があったので最後まで読みましたが、
要は中身に自信がないやつが、装丁でごまかすんですな。

ちなみにですが、wordなどで作業していても、
wordで見たままのファイルがpdfに変換されないこともあります。
もし応募者のパソコンで見てたものと違うレイアウトで出力されてるなら、
パソコンスキルが貧弱なのです。
手書き原稿なら、全くそういうことはないんですけどね。
原稿用紙は全国同じだし。
下手なデジタルは、まあまあのアナログに敗北する。
これは事実です。
これぐらいの文字数なら、使い慣れないwordより、
丁寧な手書きのほうが読んでくれますよ。

プレゼント.pdf
不機嫌な田中.pdf
会えるまで.pdf
ロボット・アウェイ.pdf
無敵ママ ゴルビウス.pdf ※ごめんなさい、Macでは普通に見れましたがWinでは横に表示される。あとで直しておきます。
さくらさん.pdf
カードゲーマー葉子.pdf
花曇.pdf
石焼き芋ラリークロス.pdf

応募した諸君は、ライバルのものを読めるチャンスです。
今回はコンテストの裏側みたいなのも見れて興味深いかも知れません。
(ちなみに全部印刷したほうが、よりリアルに感じられるので印刷推奨なのですが、
全部印刷すると50枚ぐらいになるので、コストと相談ですね)


さて、まず初心者にありがちな記法の話から入りましょうか。

次回につづく。
posted by おおおかとしひこ at 23:38| Comment(1) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
大岡俊彦様

ありがとうございます。お疲れ様です。
応募数が多く大変だと思いますので、あまり急がずゆっくりやって下さい。

今日、書店に行ったついでに本のタイトルをいろいろと見てきたのですが、
タイトルを一目見ただけで、ジャンルや内容が想像出来るようなものが多いですね。

例えば、
「謎解きはディナーの後で」「密室の鍵貸します」
…ミステリーというのが一目で分かります。

「梟の城」「覇王の家」
…これは歴史ものですね。

「命売ります」「終末のフール」
…生死をテーマにした話だと分かります。

「だがしかし」「ニニンがシノブ伝」
…漫画ですが、洒落を使っているあたりから、ギャグだと分かります。

「決断力」「直感力」
…これはビジネス書です。こういうものは何かしらの能力を表す言葉が多いですね。

こうやって見て行くと、タイトルは作品の第一印象を決めるとても大切なものだと感じますね。
普通はタイトルを見て、内容を想像してから買うと思うので(作者名やネットの評判を見てから買う場合も多いですが)、
仮にタイトルと内容がズレていたら、とてもガッカリしますよね。

タイトルが大切というのは、考えてみたら当たり前の話で、
以前どこかで似たような話を読んだ気もするのですが、
無意識に軽視していたように思います。

では、引き続きよろしくお願い致します。
それでは、失礼致します。

ケルベロス
Posted by ケルベロス at 2016年04月03日 19:03
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