2016年04月03日

脚本添削スペシャル2016-2:登場人物の表記

初心者はこういうところを間違えるのだなあ、
というポイントから解説していきます。

登場人物の表記です。


大体の教え方だと、
1. 登場人物表をつくり、名前と年齢を明記、簡単な説明をつける。
2. 本文中、初出のときに、名前と年齢を書くのが習慣。
あたりですかね。

これの意味を、この文だけじゃ把握出来てないのだなあ、
ということが分かりました。

たとえば、「プレゼント」「不機嫌な田中」。

登場人物多すぎ。名前と年齢が把握しきれない。
学校の先生じゃないんだから、覚えらんねえよ。
それに、覚える義務もないし。

この覚える義務もない、というのは重要で、
出来れば僕らは登場人物の名前なんて覚えたくないんですよ。
名前なんて覚えなくても話が進むように書くのが理想なんです。

「犯人は…ジムだ!」となって、「誰だっけ…ジェームスとジョンは違うんだよな?」
となるより、ジムを目の前に、
「犯人はお前だ!(指差す)」ほうが、
名前を覚えなくてよいシナリオなのです。

名前なんちゃ覚えてくれない。
それ前提でいるべきです。
あなたが映画を見てるときもそうでしょう?
「あの時の黒人の刑事」とか、
「最初に転んだおばさん」みたいに、
人物を覚えて名前は覚えないでしょう?
人は名前や顔を覚えるのではなく、エピソードや設定(立場)で記憶するのです。
クラスで名前を覚えるのは、
「隣の人」とか「給食でゲロはいた人」とかでしょ?


一回きりの完結短編で、
登場人物の名前に意味があるわけがない。
それを覚えなきゃ話が分からないというのは、
作者の傲慢です。



さて、「プレゼント」も「不機嫌な田中」も、
共通のミスを犯しています。
それは、
「物語に登場する人物には、重要な人物とそうでない人物がいる」
ということを把握してないことです。

人に軽重はないのは、現実の話です。
物語では、主役クラスと脇役と端役があるのです。
偉い人順?人気者順?
違います。

「物語で役割を果たす重要度」の順です。

現実には等しい価値の人間を、
ある物語の軸で切ったとき、
「その話に重要な役割を果たしている」順番に並べたのが、
登場人物表なのです。

最初に書いてあるから主役とか、
主人公キャラだから主役とか、
作者の投影キャラだから主役とか、
ではないのです。

(これは三人称形だからです。
一人称小説ならば、語り手「私」は、
他の人物に比べて特別な位置にいますが、
三人称形に特別な位置はありません。
あるのは、重要な役割を果たす順です)


二番手、三番手も同様。
二番目に重要な役割を果たす人、三番目に、です。

ところで、15分程度の話で、
何人くらいの登場人物が必要でしょうか?

僕は3人まででいいと思います。
5人は多いかな。

その他は、仮に登場したとしても、
さして重要な役割を負わせる必要はないでしょう。
実際、
「プレゼント」では、
主人公とヒロイン以外は、物語(告白)に対して、
何の役割も果たしてないので、背景扱いで十分です。
友人Aなどの表記でOK。
「不機嫌な田中」では、
田中とヒロイン、息子以外は、大した役割を果たしてないので、
これまた同僚Aとかで十分。

こういう人たちに、一々名前や年齢設定はいりません。
こういう人たちを、脇役と言います。
ワンシーン程度しか登場せず、台詞も一言程度なら、
さらに下の端役といいます。

現実世界では、重要でない人はいないかも知れませんが、
物語では明確に、主役クラスと脇役以下には序列があります。
何故か?

「主役クラスにフォーカスするため」、
つまり「主役クラスをじっくり描くため」です。
「主役クラスをじっくり描くために、
脇や端ははしょる」のです。


「表現とは捨てることである」の記事で例示しました。
「プレゼント」「不機嫌な田中」の登場人物表は、
JR大崎駅のポスターと同じです。
どこが大事か、全然分からない。

主役クラスの級数を大きくする?
そうじゃなくて、主役クラス以外を引き算するのです。

何が重要で何が重要でないかを、
あなたが決めてはいけません。
あなたではなく、ストーリーが決めるべきです。
(ここは重要なポイントで、作者が力点を置いても、
ストーリー上役割を果たしていないキャラがいたりします。
その典型は、何もしないでいるだけの主人公だったりします。
それを、メアリースーと呼びます)



たとえば、
「プレゼント」で、
友人Aが、「クラス会を抜け出して彼女のところへプレゼントに走れ、
とお膳立てをしてくれる(友情ゆえに)」
というキャラになったとしましょう。
この時はじめて、彼は嶋田なり高木なりといった、
名前を得られるでしょう。
ストーリー上の役割があるからです。
しかし今のところ、ストーリーに彼は関係ありません。
いつもつるんでいて、話し相手になるポジションでしかなく、
主人公の「告白への行動」になんら関与していません。
ということは、背景扱いで、捨てるものであるべきです。
極端な話、削除でも話は変わらないでしょう。
精々、中学生はつるんでいる、というリアリティーの確保にしか役割がないです。

「田中」の周りの人々も同様なので、繰り返しません。



脇役は、主役のノイズになったり、邪魔するべきではない。
下手に名前や年齢設定を与えることは、
JR大崎駅のなんだか分からない要素(おとくなけいじばん、とか)
を増やすことと同じです。

あなたが脇役のことを考えている間、
主役クラスはほったらかしです。
つまり、その分、主役クラスの物語は薄くなるでしょう。

実際、「プレゼント」「不機嫌な田中」のメインプロットはスカスカです。

「プレゼントを店員に勧めてもらい、彼女の家まで渡しに行く」
「酔ってて告白の返事の仕方を忘れてて、OKの返事をする」
程度の話で、ちっとも膨らみがない。

主役クラスで膨らませるべきところ
(過去のエピソードをつくる、障害をつくる、
あるいは別のことに一回気をとられるなど)なのに、
メインプロットが進行しない、
モブたちの背景を描いているだけに話が取られています。
(「プレゼント」では、プレゼント交換会の場面、
「不機嫌な田中」では、仕事のトラブルのパートは、
メインプロットの進行が止まっていて、邪魔な場面)

勿論、メインプロットを進めるには、サブ人物の手助けや、逆に妨害が必要。
サブ人物は、その為にいるといってもいい。
むしろ、主役がメインの目的を果たすために、
それらとどう絡むかが、中盤になるでしょう。

たとえば、
「プレゼント」では、
友人がパーティーを抜ける手助けをするとか、
友人もヒロインを好きだったとか。
「不機嫌な田中」では、
課長が「日帰り出張をわざと黙っててヒロインを走らせる」とか、
息子が病気で告白のタイミングを失うとか。

そうすると、脇役がメインプロットに絡んできます。
ここでようやく、友人Aから、
名前のある人物に昇格するでしょう。




登場人物表を見れば、
その人の実力が分かります。

優秀な人物表は、
その物語が、どういうメイン人物の絡みで描かれるか、
というおおよその予想がつくものです。
つまり、それだけメインと脇が整理されている、
ということです。


物語は、現実の写像ではありません。
あなたの妄想の正確な写像でもありません。
物語は、あるストーリーを、
主役クラスだけにフォーカスして、あとは捨てるように、
「歪めたもの」です。
そのことによって、主役クラスだけに、
「話を限定している」のです。
主役クラスだけの物語を濃く描くためです。


何人も何人も、ずらずらと人物表を書くのは、
その決断がなされていない証拠です。
ということは、多分お話自身も、面白くないのです。
メインディッシュがスカスカで薄い、ということだから。



さて、
主役クラスをどう選ぶか、ということが、
メインプロットをどう構成するか、
ということと直結します。

実はそれがテーマと関係あるのです。
次回、「プレゼント」「不機嫌な田中」を添削しながら、
その話をします。
posted by おおおかとしひこ at 02:17| Comment(1) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
まさかの登場人物表減点でした。
フルネームと年令は必須と思っていたので、その二つ考えるだけでも大変で、自分自身も名前年令表を横におかないと書けないという本末転倒な状況でした。
確かに15分もので話を絞るには不要ですね。
それと、もうひとつの思い込み。すべての人間に背景(履歴書・役割)を作れ!
これも短編には不要(実は「田中」は60分ものを縮めたので読む人には伝わらないことに気付かなかった)。
そんなことしてるから散漫になるんですね。
教科書の真意を理解できていないことがよくわかりました。
ありがとうございます。(お礼をコメントに書くことが失礼だったらごめんなさい)
Posted by 燕(えん) at 2016年04月03日 09:40
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