2016年04月03日

脚本添削スペシャル2016-3:テーマと構造

「プレゼント」「不機嫌な田中」を中心に、
話を続けます。
(他の応募作品も出るかも知れないし、出ないかも知れない。
あとコメントに答えると手心を加えそうなので、答えないことにする)

まずは前回までのおさらいがてら、
「プレゼント」に赤を入れてみましょう。


赤を入れた部分は、
二読目に思ったことを書いています。
細かい突っ込みから、
大枠の構造まで、アットランダム気味ですが。

プレゼント赤入れ.pdf

細かい修正を入れ始めると切りがなく、
もうちょっと大枠でやったほうがいいと、
この時点で思い直しました。



今回の主な論点は、
物語とテーマの構造です。


「プレゼント」に赤を入れながら、
この話はどうとでも面白く出来るなあ、と考えはじめていました。
そのいくつかのアイデアは、赤で入れてあります。
しかし、そのアイデアは「何のためにあるか」が重要です。

どうとでも面白く出来るけど、
そもそもこのラブストーリーは、何がテーマだっけ?

つまり、テーマの為にディテールはあるわけで、
それを見定めないことには、添削も糞もないわけです。


ログラインを見てみましょう。
本人は一体何を書いたつもりなのか。

「思春期の男子中学生が、
恥を捨てることで好きな女子を喜ばせる話」。

恥、捨ててたっけ?


「恥を捨てる」という中心的なことに、
あまりにもスペクタクルがなさすぎでした。
そこがお楽しみポイントであり、この話のオリジナリティーになるのに。


「尻のシワが何本あるかを数えさせると願いが叶うという、
古い神社の奇祭にその好きな子を誘う」
ぐらいの「恥捨てのオリジナリティー」がないと、
何も面白くない。

よくよく見ると、恥を捨てることは、
「女の子用品売り場に乗り込む」「女の店員に相談する」だけ。
これがこの話のオリジナリティー?

もしこの場面をメインに持ってくるならば、
「ピンクを見ると蕁麻疹が出る奇病の男が、
勇気を出して挑む」ぐらいにしないと、
面白くもなんともないと思います。
(それでも高橋留美子あたりにありそうだから、
もう一捻りしないとしんどいな)


僕が中盤を考えるときにいつも思い出すのは、
ウルトラマンのスカイドンの話。
ああでもないこうでもないと作戦を練り、
実行しては失敗し、反省して次の作戦。

そのなにがしかの過程で、
どんどん恥を捨てていけるようになる、
という風になるべき。

この恥も捨てなきゃいけないのか、
あの恥も捨てなきゃいけないのか、
おや、全部の恥を捨てたら心が自由になったぞ、
みたいな話になるべきでしょう。



そもそも、恥は内面の話なので、
それがどれくらい恥ずかしいかは我々には分からない。
ゲップは日本では汚く恥ずかしい行為だけど、
海外では自然現象として無視されます。
恥の概念は、外からは見えない。

つまり、「それは恥ずかしいわ」というのを、
誰もが思う極端なものに変換してやらないと、
それを乗り越える困難さを示せないのです。
尻のシワを見せる奇祭、というのはその例です。



さて、ここまで考えて、ふと気づくわけです。
この話のテーマはなにか、ということに。

何のために恥を捨てなきゃいけないのか。
目的は何か。その遂行に、なんの意味があるのか。

僕が読み取るなら、この話のテーマは、
「好きな人の為になら、勇気を振り絞るべきだ」でしょうか。


テーマは、主張の形をするべきです。
それが珍奇なものだろうが、ベタなものだろうが、
見終わったあと、その主張に説得力を持たせるのが物語です。
その話を見終わったら、なるほどそれは正しい、
というものでなくてはなりません。
つまり、物語は、テーマへの説得です。

普通の説得ではなく、感情的な説得であることが望ましい。
物語はプレゼンや説教や論文ではないからです。
ちなみに、プレゼンでも説教でも論文でもないゆえに、
テーマを明示することはしてはいけません。
テーマが書いてないのに、
そのように(感情的に)説得されてしまうことが、物語です。
つまり、洗脳の道具として使えます。
そこまで上手く物語を書ける人がいないだけで。
(ヒトラーは演説でそれを成し遂げた人)

逆に物語を見終えたあとに、
我々がどういう感情になったかを、
(そもそも言葉に出来ないのだが)無理矢理言葉にすれば、
それがテーマなのです。

「好きな人の為になら、勇気を振り絞るべきだ」
は、僕が読み取った言葉にすぎず、
作者は違うと言うかも知れません。
しかし、読み取る人の数だけ言葉はあります。
何故なら、物語のテーマは明示されないからです。
このへんが、難しいけど面白いところであります。


さて、ようやく本題。

「好きな人の為になら、勇気を振り絞るべきだ」というテーマを書くために、
この話の構造はベストでしょうか?

ここが問題です。
僕は、否だと思っています。

僕がもしこのテーマで書いてください、と言われたら、
次のような物語を書くでしょう。



谷。
綱渡りをしなければならない男。
一本の綱はワイヤーではなくガラスで出来た狭い道で、
下の谷底が透けて見えている。
足元を見れば足がすくむ。
男は横風や向かい風の中、進まなければならない。
何故なら、谷の向こうに好きな人がいるからだ。

男は、ガラスを渡りながら、
これまで出会って好きになった彼女のストーリーを、
最初から順に彼女に言う。
向こう岸につくときが、恋の成就の瞬間だから。

彼女はどうするのか。
なんと、彼女もわたり始めた。
中央で二人は出会う。
「半分で、よくなったでしょ」と彼女は笑う。
「バカじゃないの?どっちかに引き返さなきゃいけないから、
結局半分になってないじゃん」と男。
「残り半分は、二人で渡れる」と彼女は笑う。
帰りの半分で、その時彼女はこう思っていて、
好きになりかけていた、と、勇気を出して彼女は語る。



みたいな。

つまり、この物語の構造そのものが、
「好きな人の為になら、勇気を振り絞るべきだ」
という構造になっているのです。

それは男の置かれた状況そのものでもあるし、
その構造を女が利用して、自分の告白をした、
という逆転にも繋がるわけです。

物語の構造を利用して、テーマを語る。
逆にいうと、
テーマを語れる構造に、物語の構造をつくるべきなのです。


果たして、
「好きな人の為になら、勇気を振り絞るべきだ」
というテーマの為に、
「男子中学生が、クリスマスプレゼント交換会を抜けて、
彼女の家に、勇気を出して女の店員に相談した適当なプレゼントをあげにいく」
という物語の構造がベストでしょうか?


勿論、ベストという理想があるかは分かりませんが、
ベターで肉薄することは可能です。
どう考えても、
イオンで店員の言う通りの高いものを買わされる男子よりも、
谷のガラス渡りのほうが、
テーマに肉薄しています。


勿論、「プレゼント」のテーマがそうではない、
という主張もあり得ます。
じゃあなんやねん、ということです。


テーマはタイトルに現れます。
これも明示ではなく暗示でしょう。

何一つ僕は読み取れない。
つまりこれは、価値あるテーマを語る、価値ある話ではないことが分かります。
それは、既にタイトルを並べたときから分かっていたことですが。

(ガラス渡りの話は、単純に「ガラス渡り」で良さそうです)


こうして、
詰まらない話は、バラバラに分解されると、芯に何もないことが分かるのです。
面白い話は、中にテーマという芯があるものです。



同じことが、「不機嫌な田中」に言えます。
「酔っ払って覚えていないことを思い出し、告白する」
という構造が、
どうして「好きな人の為に勇気を出す」ことの、
ベストの解になるのか、僕には分かりません。

繰り返しになるので多くを書き込みませんでした。
他のブロックは全捨てで、残した部分だけを見ると、
この話の主骨格が出てきます。

不機嫌な田中赤入れ.pdf

このテーマは、古今東西描かれてきたテーマでしょう。
今さらやるなら、
相当の名作でない限り上書きは不可能です。



にも関わらず、何故こんな難しいテーマを選ぶのか。

そこに、メアリースーがいるからです。
次回に続く。
posted by おおおかとしひこ at 20:35| Comment(1) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
体幹(テーマ)を鍛え、「妄想の写像」を「ストーリー」にしていく訓練をやっていきます。
その時に留意するのは
1.登場人物を主人公に絡ませること(思ってもいなかった・・・)。
2.メアリースーにならないこと(あれだけ教えてもらっても、真意を理解できていない)。
3.何よりおもしろくすること(オリジナリティも含めて)。

自信はありませんが、とにかくやってみます。
9月から勉強を始めて、半年目、この節目に添削していただけてラッキーでした。

スカスカは充分自覚していましたが登場人物と起承転結でいっぱいいっぱいでした。
1からリライトの意味もほんの少しわかったような気がします。
実践あるのみ!ですね、きっと。

でも時間、あるのかな〜〜〜(泣)。才能ないな〜〜〜(泣泣)。

「構造」って・・・起承転結とは違うみたいだけど・・・(謎)(汗)。
Posted by 燕(えん) at 2016年04月04日 11:38
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