主人公は、いくつの障害を越えるのか。
目的と障害はセットです。
そしてその障害の「越え方」が直接テーマを暗示するわけです。
特に、クライマックスの最大の障害をどう越えるか、
これは動詞(アクション)で示すべきです。
ほらさんの元原稿では、
主人公のアクションは、
「雪原を越えること」というひとつだけでした。
それが何故妻子と仲直りできたことになるのか、
よく分からないことがこのシナリオの欠点です。
今僕が書き直そうとしているのは、
雪原を越えることはサブ目的、
妻子と仲直りすることがメイン目的。
ところが、その前に最大の障害がいることに気づきました。
立てこもり犯です。
元原稿では、立てこもり犯はいつの間に片付いていて、
何故か家族が抱き合っている。
省略されているわけです。
僕がいまいち腑に落ちてないのはここです。
「愛されたいと思っている主人公が、
地味で何一つしないのだが、
最後の最後に奮起して、
なにかひとつアクションを起こして、
それが幸福に結び付いて終わる」
これは、過去メアリースーで徹底的に議論したときに抽出した、
「落下する夕方」テンプレです。
この作品では、
一見主人公は行動しているように見えます。
「焼き芋屋になろうとすること」があるからです。
しかし、これをよく観察すると、
何故彼は焼き芋屋になりたいのかが分かりません。
つまり、動機が曖昧です。
「ひょんなことからそういう風になった」としか言いようがないのです。
もし、
「ひょんなことから元ラリードライバーが焼き芋屋になることに。
焼き芋屋を最初はバカにしていたが、
次第に焼き芋屋の素晴らしさに目覚め、
本格的な焼き芋屋になる」
という話が主軸ならば、
ひょんなことから焼き芋屋に、という部分は、
第一幕の「異物との出会い」として認められるパートです。
それが、最後まで貫かれるからです。
ところが、この話では、途中から妻子の話になってしまいます。
「石焼き芋屋になる」という話を書けなかったか、
元々「石焼き芋屋トラックがキャタピラーを履いて雪原を越える」
というキービジュアルを先に思いついて、
それに「話を嵌め込もうとした」からでしょう。
その結果、この話は二つの話が存在します。
焼き芋屋になる話と、妻子を助けて離婚危機を回避する話です。
複数の話が混在するのは、難しいのです。
どっち付かずになります。
「さくらさん」も、
分解する話、物語は素晴らしいという話、
宿題を代わりにする話、などが混乱して、
分かりにくくなっていました。
複数の話を捌くのは腕がいります。
ひとつの話をセットアップ、展開、結末をつけることすら難しいからです。
ほらさんの元原稿でも、
焼き芋屋にどうしてもなりたい話ではなく、
彼の動機の最大は、妻子を助けることです。
二つの動機に主従関係があります。
ということは、妻子を助けることを主軸に、
焼き芋屋になることは従にするべきです。
そもそもそれらを結合させるために、
キービジュアルのシーンを接着剤にしようとした形跡があります。
つまり、
焼き芋屋になる話、
妻子を助ける話を、
トラウマ克服話で結合しようとしたわけです。
しかし、「トラウマ克服」と「妻子を助ける」と、
「離婚危機の回避」が、ひとつの理屈に繋がっていません。
(よーく読むと、
雪原を越えるのは、警察車両の誘導であり、
彼らが解決して立てこもり犯は逮捕され、
妻子を助けることは出来たが、
それが離婚危機の回避とはまだ繋がらない。
なんかテンションが上がったから離婚取り止め、
程度のぬるい話だ)
また、これと、「焼き芋屋になる」も繋がりません。
「時間通りに走ることが、
ラリーも焼き芋屋も似ている」という面白い発見はありますが、
それと、トラウマの克服場面が関係していません。
物語は、問題の解決です。
元原稿では、
主人公の内的問題(この場合はトラウマの克服)と、
外的問題(妻子を助ける、離婚危機を回避、
立てこもり犯事件の解決、石焼き芋屋になる)
が、因果関係で結ばれていないのです。
なんだか面白いモチーフを持ってきて、
うわあ面白いと思わせ、
(石が割れるとか、ラリーと石焼き芋屋は似ているとか、
ラリーとは協力であるなんて、
取材したネタも散りばめて)
それらが繋がる「一本の糸」がないのです。
それは、因果関係です。
お話とはつまり、因果関係です。
勿論、それが納得が行き、わくわくする因果関係です。
さらにそれが感動や爆笑などの、
感情的反応を起こさなければなりません。
つまり元原稿は、何かをしようとしてはいるけど、
因果関係をうまく作れなかったので、
ガワで誤魔化したんですな。
さて、リライトの構成で、障害を整理してみましょう。
一幕:
離婚問題の提示(最も大きな問題)
妻子の人質のニュース(火急の問題)
二幕:
雪原を越える必要性、
そこでトラウマの克服に直面、
これは越えることが出来る
三幕:
立てこもり犯の逮捕
離婚問題の解決
と、なると思います。
丁度マトリョーシカ的な構成ですね。
一幕は問題提示。
二幕はその為の行動(障害を越える)。
三幕はその解決。
という基本的な三幕構成です。
今のところ二幕のトラウマの克服は、
一幕の問題と関係がありません。
これらが全て、ひとつの因果関係で結ばれるのが、
「良くできた話」なのです。
(因果関係ありきでパーツを思いつくのか、
パーツを並べて因果関係を通すのか、
どちらもやり方があるので、どちらを採用してもよいです。
この場合は後者です。
元原稿のビジュアルや設定をいじってないからです。
例えば石焼き芋屋をやめるとか、
リヤカーにするとかにしていないし、
嫁の浮気も存在していない)
これらを結びつけることは、
「勝手な行動をせず、事前に相談してチームとしてやること」
であるはずです。
「ラリーとは協力である」というテーマに落とす為です。
従って、
雪原を越えるのは、チームとして協力できたから。
立てこもり犯を逮捕できたのは、チームとして協力できたから。
離婚危機を回避できたのは、チームとして協力できたから。
という因果関係にならなければなりません。
下二つが難しいですね。
しかも、石焼き芋屋、元ラリードライバーという、
主人公の属性を使って解決しなきゃいけない。
今回の添削が中々進まない理由は、
これらを纏めることがとても難しかったからです。
一応思いついたっぽいので、
そろそろ書いてみるかなあ。
少々お待ちを。
2016年04月09日
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