なんか、今日本で一番レベルの高い脚本の話をしてる気がします。
プロの打ち合わせでも、こういう話は殆ど出ません。
それほど、脚本に関してちゃんと分かってないのでしょう。
ということで、
リライト版「ラリー・ザ・石焼き芋」と
元原稿「石焼き芋ラリークロス」、
両者の「構造」を比較します。
この脚本論の熱心な読者ならご存知ですが、
「構造」というのは、最近僕が急に言い出した事です。
ストーリーには構造がある。
テーマを生み出す構造がある。
直感的には理解出来るけど、
実際にまだ僕は「建築の設計図」のように、図にする方法を編み出していません。
過去に何度か図式化を試みた事がありますが、100%の出来ではないので、
しょっちゅう使うほどでもないです。
それでも、いくつかの図式を組み合わせて比較する事で、
両者の差異が「分かりやすく」なるのなら、と考え、
図にしてみることにしました。
4つほどあります。
その1:人物関係の構造比較。
人物関係の構造比較.pdf
人物関係図は、みんな大好きな奴です。
これを作るのが好きな人は沢山います。
しかし僕が何度も警告しているとおり、
これ「だけ」を作ってもストーリーは書けません。
どちらかといえば、人物関係図は書き終えた「後」に作るものであり、
書く前に作っても、見通しをよくする以外に役に立ちません。
ストーリーは人物関係から生まれますが、
人物関係「図」からは生まれないことを理解して下さい。
さて、比較してみると、
サトルとノリさん、サトルと妻、サトルとドライバーの関係が、
変更になったことが分かりますね。
これはストーリーからの要請の結果であり、
これを変更したからストーリーが決まる訳ではありません。
人物関係図をいくら操作してもストーリーは作れません。
それは、以下の3つの図を作ってからの話でしょう。
その2:位置関係の構造比較。
位置関係の構造比較.pdf
地図を書いてみる、というのは僕がよくやることです。
ついでに、ビックリ吹き出しで重要事件をかきこんでいます。
人の移動を矢印でかいています。
「行って来い」の無駄な導線がよくわかります。
ノリさんの家も、いらなかったよね。
その3:ストーリー構造の比較
3ストーリー構造の比較.pdf
これは最近僕がよくやる構造図で、時間軸は下に流れます。
横軸に、話題(ストーリーライン)を書き、
真ん中に一番大事なストーリーラインを書きます。
一番大事なラインは、「妻との事」です。
ところが、元原稿ではそれがぶれていることが良く分かります。
ラリーの事が一番大事だ、と仮にしてみました。
そこを越えるのがクライマックスだから。
そうすると、石焼き芋のこととラリーの事の絡みが、
あんまりないのが分かりますね。
そのことと妻の事があんまり関係ない事も。
この構造図は、サブプロットを縦に並べて、
横に関係性の糸をはりめぐらす事を図示しようと試みた図式です。
一意の構造というものがなく、書き手によってバラバラになるのが欠点ですが、
俯瞰するには役立つかもしれません。
(あと、サブプロットが4本以上になると、ややこしくなりすぎるのが欠点)
その4:構成(時間の構造)比較
時間構造の比較.pdf
構成というのは一般に、
時間順にどう並べたか、
何にどれぐらいページ数を割いたかの表です。
並べてみると、リライト版はすっきりして無駄がないことが分かります。
(ていうか、今元原稿19Pって気づいたやんけ!
次回からページオーバーは失格な!)
一幕、二幕、三幕がそれぞれ1:1:1の短編の理想型(過去記事参照)で、
第一ターニングポイント、第二ターニングポイントがしっかり置かれ、
劇的で、かつミッドポイント、
ボトムポイント(ブレイクシュナイダーのいう、死の気配)もあることが分かります。
三幕ではクライマックスが会話劇という地味さですが、
縛られた状態、という非日常性が、ドラマにしています。
さて元原稿のそれを見てみましょう。
一見、1:2:1のハリウッド構造のようなページ構成ですが?
違うのです。これはハリウッド三幕構造ではないのです。
これは、偽の三幕構造です。
にせ第一ターニングポイントの、「バイト入門」を見てみましょう。
これが示す問いは、
「果たして主人公は、石焼き芋屋になれるのか?」です。
第一ターニングポイントの定義とずれます。
第一、第二ターニングポイントともに、
「センタークエスチョンの提示」が絶対条件です。
この話のセンタークエスチョンは、何?
「離婚問題の解消」であり、そのサブ目的の「妻子の救出」であるはずです。
それと関係ない「石焼き芋屋になること」は、
センタークエスチョンではありません。
最初に分析するとき、この話は二本あると言いました。
「石焼き芋屋になる」という話と、
「妻子を救出して家庭を取り戻す」話です。
どちらかにする、という僕のリライトの決断は、
要するに「センタークエスチョンを一つに絞る」ということなのです。
一つに絞られてさえいれば、そのサブ目的はいくつあっても構いません。
「自分勝手だったとあやまる」目的、
「はやく到着する」目的、
「警察車両を先導し、ショートカットする」目的、
「潜入捜査し、石が割れる音で犯人の数を教える」目的などは、
すべてセンタークエスチョンのサブ目的となります。
それらが全て果たされたとき、
「妻子を救出して、家庭を取り戻す」が実現するようにしてあるのです。
元原稿ではセンタークエスチョンが明確ではありません。
にせ第一ターニングポイントの「バイト入門」、
にせ第二ターニングポイントの「出発」は、
「劇的で、前向きに主人公が行動する」場面ではありますが、
どちらもセンタークエスチョンを示していません。
「果たして彼は、生活手段であるバイトが出来るのか?」
「果たして彼は、過去のトラウマを乗り越えられるのか?
(乗り越えればロッジには着くが、妻子との問題は決着はつかない)」
は示せています。
したがって、
一見ある構成1:2:1は、劇的なポイントで区切った「にせの構成」に過ぎず、
本来のセンタークエスチョン提示ポイントを、
第一、第二ターニングポイントとし、
それぞれの間を一、二、三幕と再定義すると、
11:4:4という、実にいびつな構造となります。(約3:1:1)
これが元原稿の「ドラマが立ち上がるのが遅い」という印象の正体です。
しかも、センタークエスチョン
「妻子を救出して、離婚は解消出来るのか?」に対する、
明確なクライマックスがありません。
着いたー!解決ー!になってしまっています。
ここが、クライマックス感の薄い所です。
もし、センタークエスチョンが「過去のトラウマを克服すること」
だったらどうでしょう。
第一ターニングポイントは、
「過去のコースを走る必要に迫られる」であり、
第二ターニングポイントは、
準備の末、「そのコースの前に立つ」であり、
クライマックスは「克服する」となるでしょう。
その結果、センタークエスチョンは、解決される。
三幕構成というのは、実に、三段論法です。
「ラリードライバーが石焼き芋屋になって、過去を克服する話」に、
話を集約しても構いません。だとすると、
立てこもり犯や、離婚話などの、妻のサブプロットを削るべきでしょうね。
何を中心にするのか?
中心とサブは何か?その絡みは何か?
それは、これらの構造を書き下す事で、明らかになってきます。
実際のところ、
書く前、途中、書いた後、リライト前、途中、後、以下ループ…
と、節目節目でこれらの構造図を作ってみると、
今どうであるか、これからどう書き直すべきかを、把握出来ると考えます。
さらに。
センタークエスチョンを、どう乗り越えるか。
それがテーマに直結します。
「ラリーとは、集まって協力する事」というのをテーマとしてリライトしましたが、
「トラウマを克服するには、勇気が必要だ」というのをテーマとしてもいいでしょう。
面白ければなんでもいいのです。
グッとくればなんでもいいのです。
ほらさんは、
最初に思いついたものがあり、
それは多分例のワンビジュアルだったのでしょう。
それからの逆算で、色々な要素をぶら下げたと推測します。
それらが未整理だったのでこのような複雑な構造になってしまい、
芯が見えなくなったのでしょう。
妻子なしでトラウマの克服話を作ってみる、のはいかがでしょう。
さて、これらの構造を俯瞰する、簡便な方法があります。
それが、ログライン。
大岡式のログラインについて、再び議論しましょう。
2016年04月11日
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