2016年04月12日

脚本添削SP2016-18第二部:ガワと中身

ガワと中身の話は、わりと僕はいつもしてます。
大体ガワばっかで、中身がないよねと。

ガワと中身とは何か。
試しにリライト版で考えてみます。


さて、構造は、機能でした。

何を残すかというと、機能する部分であり、
機能してない所は捨てて、
残った所だけでworkするようにすれば、
物語は出来るのであります。

そして、その機能さえ同一ならば、
ガワを取り替えることが可能です。

ためしに、
「元ラリーのコ・ドライバー」という、
一見根幹とも言える設定を変えてみましょう。

たとえば、
「元複座の戦闘機乗りの軍人」
「元卓球のダブルス選手」
「元出初め式の梯子を持つ人」
にしてみましょう。

これで話の中身は変わる?
いいえ。
どちらにせよ、
「過去、自分が予定を変更して事故を起こしてしまい、
二人とも大怪我をして引退、家族を食わせる為、現在石焼き芋屋」
という話は変わりません。
「それは妻に対しても同じだった。
つまり自分は勝手に一人で決めてしまう欠点があったのだ。
その事を妻に謝らねば」
という根幹も何ら変わりません。
それは、「雪原をキャタピラーで越えるとき、
過去がフラッシュバックすることで気づく」
というドラマも同じに出来ます。

つまり、ラリー、戦闘機、卓球、出初め式は、
交換可能なガワです。

「二人で協力する必要があり、
一人で勝手に変えたら問題が起こり、
それによって命に関わる事故がおき、
引退せざるを得ないこと」
であれば、何でもいいはずです。


ためしに。
「石焼き芋屋」はガワとして交換可能でしょうか。
「雪原を行くステキな装置というビジュアル」、
「差し入れすることで中に潜入」、
「焼き石が割れる」、
という機能さえあれば、何でもよい。
沢山思いつかないけど、
「たこ焼き屋」ならなんとかなるかもです。
焼き石が割れるのを「爆弾(ウズラ入りのたこ焼きで、
電子レンジに入れたら破裂しやすい)」に読み替え、
暖炉じゃなくて電子レンジにすればいけそうですね。

つまり、
「元戦闘機乗りが、たこ焼き屋になる」という、
まるで違ったガワに、この話は書き換えることが可能です。


ここから重要な話です。

あなたは、ガワに囚われていませんか?

つまり、世の中の話を、
戦闘機かラリーか卓球かたこ焼きかで見ていて、
「自分勝手を反省する」か「トラウマを克服」かで
見ようとしてないのではないですか?

これが、話をガワで見て、中身で見ていないということです。
見た目でしか見ていない、話を見ていないということ。

卓球は詰まらないから詰まらない。
戦闘機だったら何でも面白いから面白い。
二輪派で四輪はどうでもいいから、ラリーは詰まらない。
大阪嫌いだから、たこ焼きは詰まらない。

そういう見方をしていやしませんかね。

戦闘機だろうが出初め式だろうが、
たこ焼きだろうがじゃんけんだろうが、
同じ話(中身)にも関わらず。


実はこれは、我々の感情移入の仕組みと似ています。
我々は、自分と関係ない他人、共感できない人に感情移入できます。
それは、ガワとは関係ない、
中身の部分で、我々と共通のものを発見するからです。

黒人が嫌いだからアフリカ黒人の話は感情移入できないか?
いや、その男が自分勝手に気づいて反省する話なら、
我々はサトルと同じく感情移入可能でしょう。

ガワは関係ない。中身です。


私たち脚本家は、中身を書く人です。
ガワは、機能さえ果たせば交換可能です。
元ガンタンクのパイロットが石焼き芋屋になるアニメを作っても、
この話と同じ中身なのです。


僕が常々ペプシ桃太郎を糞だというのは、
テーマを語る構造もなく、
にも関わらず「自分より強いやつを倒せ」とメッセージだけ言い、
衣装やロケや音楽などのガワだけがオシャレな(制作費3億)、
中身がスカスカのものだからです。


ガワをもう少し専門的にいうと、モチーフといいます。
中身は同じでも、モチーフだけ交換可能なことは多々あります。
戦闘機と出初め式のように。


ようやく本題。

あなたは、中身を先に作り、
最も適切なモチーフを、沢山の候補から選ぶ、
という作り方をしてますか?

「自分勝手をあやまる」という話を、
ラリーでやろうか、出初め式でやろうか、戦闘機かガンタンクだな、
などと考えることをせず、逆にやってませんか?

好きなモチーフ、よく知っているモチーフ、
思いついた或いは執着のあるモチーフ、
たとえば、
ロボット、未来的世界観、子供アニメ、宇宙船、
告白やプロポーズ、最強のお手伝いロボ、
電子部品の職場や死んだ夫を探してさまよう老婆、
などから先に作ってませんか?


勿論、モチーフのほうが中身より思いつくのは簡単です。
仮にそれで考え始めたとして、
こういう中身が作れるだろう、
という所まで考えたら、
そのモチーフが果たしてベストか、
別のモチーフに交換可能か、考えるのです。

そしてより面白いモチーフに交換し、
そのモチーフならではの要素を中身に足し、
中身とガワの、ベストの関係を作り上げていくのです。

最初にモチーフに執着があると、
これを捨てることは困難です。
どうしてもロボットが書きたいと思ったら、
「これを黒人に置き換えられないの?」と問われたら、
「無理」というしかないでしょう。
そうではなく、中身が先にあれば、
ロボットだろうが黒人だろうが交換可能かどうか、判断できるでしょう。


あなたは何が書きたい?
それは、ガワでなく、中身である必要があります。

ガワを書きたいなら、絵描きやデザイナーになればよろしい。

脚本家になりたいのなら、
「Aな主人公がBに出会いCする」を書きたいことにしなさい。





おそらくですが、
ほらさんは、ラリーと石焼き芋のビジュアルの組み合わせを、
最初にモチーフとして思いついてしまったのでしょう。
あとは逆算で作ったけど、
逆算しきれなかった。
「離婚を回避するのに、モチーフを利用する」まで、
考えきれなかったのでしょう。

他の人たちも同じく。
寒い日の手袋やクリスマス会への執着、
コメディ風の職場(僕はアフロ田中の世界を想像してましたが)、
買い物シーンや結婚式場への執着、
子供を助けることへの執着、
ロボットやお手伝いロボや百万回生きた猫に対する執着、
花曇やラテアートへの執着。

モチーフありきで話を作るから、
話の柔軟性を失い、書き直すことが出来ないのです。

脚本は、中身です。
ガワは、取り替えられます。
そういうものを、作って下さい。

ガワと中身の区別をする目を、養ってください。




レギュラーであるほらさんへ。

ほらさんの作風が見えてきました。
ヒーローものやアクションものの、ハリウッド映画が好きな人なのでしょう。
これを一度封印してみて下さい。
たとえばコメディ、犯罪もの、難病もの、ラブストーリー、
ホラー、優しい世界、子供向けなど、
書いたことないジャンルを、次に作ってみて下さい。
同じ人とばかり組み手すると、その人特化になって弱くなります。
強いやつは、百人組み手をしてるやつです。
ヤリチン最強。

僕は昔からヒーローものがやりたかったのですが、
ずっと別のジャンルを書いてきました。
その時の経験が、ようやくオリジナルヒーロー「てんぐ探偵」を書くときの、
バラエティーの豊かさに寄与しています。
僕の憧れは、作るたびに作風を変え、
そのたびにマスターピースを作り出した、スタンリーキューブリックだったりします。
ある意味手塚も、そうですね。



さて、長々とお付き合いありがとうございました。
大体言いたいことは書いたので、
今年の脚本添削スペシャル、これにておしまい。

ここで挫折したらラスト作品はこれですが、
次を書けばもっと良くなるでしょう。
その次はもっと良くなる。
そうやってちょっとずつ上手くなれば、
代表作は次回作と言った、チャップリンの気持ちが分かるかも知れません。
next oneを、来年待つことにします。
ドントハレ。
posted by おおおかとしひこ at 23:08| Comment(4) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
大変丁寧な添削、叱咤激励含め本当にありがとうございました。
添削作品に選ばれてまさに妖怪てんぐが取り憑いていましたが、
回を追うごとに元作品の穴が明かされて行き、今ではまた
反省とやる気が混在した、しかし悪くない気分です。
武器や好みを封印して冷静につくったときの方が、
客観的に見ていいものが書けそうな気もしてきましたし、
引き続き精進します!ありがとうございました!
Posted by ほら at 2016年04月13日 01:13
先生からのメッセージ確かに受け取りました。
お腹いっぱいでいつ消化できるのかわかりませんが……。
抱えきれないほどの(脚本への)愛情を見せていただき、自分の立ち位置の低さに愕然とする毎日でした。
楽しかったです(「ドMかお前は!?」「はい、満足のMです」)。
で、劣等生でごめんなさい、ひとつだけ教えてください。
「Aな主人公がDする話」の「絵になる動詞」とはどんなものですか?
Posted by 燕(えん) at 2016年04月13日 09:08
大岡俊彦様

脚本添削、お疲れ様でした!
全編通してかなり濃くて、お金を取っても良い内容だと思います。
それなのに無料添削、無料公開とは、大岡さんの志に感服いたします。
とても良い勉強になりました。
ありがとうございました!

ケルベロス
Posted by ケルベロス at 2016年04月13日 09:38
絵になる動詞:
走る、殴る、扉をあける、判子を押す、壊す、破る、座る、立つ、踊る、肩を組む、キスする、ボタンを押す、乗る、降りる、去るなどなど。
映画は元々サイレント映画でした。
パントマイムで感情を表現する、とても原始的なお芝居を考えてください。

絵にならない動詞:
見る、思う、感じる、分かる、内に秘める、考えを変える、俯く、仰ぐ、どういう顔をしていいか分からない、など、内側のことの動詞。

微妙な動詞:
笑う、泣く、微笑む、苦笑いする、ウインク、などアップでしか捉えられないもの。

小説では、どの動詞もたいして違いはなく、饒舌に書ければ何でも良いでしょう。
映画における饒舌さは、カメラで撮ったときに饒舌なものです。(とくに外人は全身でオーバーアクションすることを、アクトといいます)

我々は、カメラの前で何をするかを書くのです。
Posted by 大岡俊彦 at 2016年04月13日 11:56
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック