2016年05月15日

象は鼻が長い

書いてる途中も、考えている途中も、
アイデアはばんばん湧いてくる。
湧いてこないなんてことはない。
何かしらの何かは、思いつくものである。

それの取捨選択はどうするべきかについて、
「象は鼻が長い」を例に考えてみよう。



象を表現することを考えよう。

物凄く短い尺で象を表現しなければならないとする。
とすれば、
最小限で、かつキャラのたった部分を示さなければならない。
「象は鼻が長い」が妥当であろう。

巨大な四つ足である、
牙も生えてる、
グレーの肌で、しわしわしてて、けっこう固い、
毛も固い、
賢い、
耳が大きくてバタバタする、
尻尾も長くてキュートだ、
爪はなくて蹄みたいになってる、
目がつぶら、

などなどの各特徴を越えて、
「象は鼻が長い」という一文は、
短く、唯一性があり、しかも強い表現だ。
すなわち、「キャラが立つ」。

これが、
「象は鼻が長くて、巨大である」
と二つの描写で表現してみよう。

急にキャラが立たなくなる。

なぜか。
注意が二つに分散し、記憶が半分ずつになるからである。

人は一度にひとつしか記憶できない。
正確に言うと、強烈な一つを、
強烈に覚える。
逆にいえば、分散したノイズは記憶できない。
一点豪華とか、ひとつに集約するとか、シンプルが強い、
というのはこういう理由だ。

象は比較的キャラのたった動物だ。
オオアリクイとか、ハクビシンとかよりもだろう。
それは一点において「象は鼻が長い」と、
短く、唯一性があり、記憶に残りやすいからである。


さて、これはたった一行の話ではない。
長い文章においても同じなのだ。
例示してみる。

「象は鼻が長い。
大型動物で、四つ足のなかで、
陸上動物でほぼ最大である。
牙をもち、つぶらな目で、耳もばたばたする。
だが象を象たらしめるのは、
その長い鼻においてだ。
動物園で飼育員があげたリンゴを、
長い鼻で器用に取り、口まで運ぶ姿は愛らしい。
手を持たない四つ足なのに、
手のように使える鼻を持っている、
唯一の動物である」

この長めの文章においても、
「象は鼻が長い」ということが中心で、
ぶれていないことに注意されたい。
象の様々な描写を挟みつつも、
主従にわけてある。
主は鼻のこと、
従は大型とか四つ足とか牙とか目とか耳だ。

つまり、長い話をするとき、
主軸がぶれないようにしなければならないのである。
主従が入れ替わるように書いてはならない。

鼻を中心にしておきながら、
耳のことを延々語ったり、
牙を強調してはだめだ。

あくまで、象は鼻が長いことを主軸に、
他をぶら下げるようにするのである。
イメージは背骨と内臓、ブドウの房のような。


さあ、物語だ。

この文章術の原則は、
物語においても同じだ。

ひとつの、強い、キャラのたった、何かが、
中心にいなければならない。

それは主人公だろうか。
悪くない。
中心となるモチーフか。それも悪くない。
ベストは、テーマである。


書いている途中、様々なアイデアが浮かぶ。
それは、大なり小なり面白い。
だから採用を迷うのだ。

それらを、面白い順で並べるわけではない。

そのストーリーにとって、
主従になるように構造化するべきなのである。


たとえ物凄く面白くても、
ストーリーのテーマにとって、ノイズになるのなら却下。
背骨の強調は歓迎。
背骨の背骨みたいに、背骨がややこしくなるなら、
一本の背骨になるように書き直す。
だから捨てなければならない旧アイデアも出てくる。

象の鼻に対する、牙や耳のようなものは、
あればあっただけ面白くなるかも知れないが、
それで鼻が霞んでしまうようなら、要素を減らすといいだろう。


たとえば、
400字、2000字ぐらいのバリエーションで、
「象は鼻が長い」を書いてみたまえ。

2000字ぐらい長くなると、
背骨だけでなく、他の従の要素の面白さも必要になってくる。
象のような肌の女の挿話が入ったり、
タイの象使いの挿話が入ったり、
心優しい象の話や、
象牙を取りすぎて絶滅の危機にあることも、
入るかも知れない。

しかしそれでもなお、
「象は鼻が長い」という中心をぶらさないように書ければ、
それが主従の、適切なバランスということになる。


物語は、物語構造や社会的意義の前に、
そもそも文章である。

文章の下手なやつ、
つまり、
中心がぶれぶれで、キャラのたった主題を書けないやつに、
面白いシナリオなど、そもそも書ける訳がない。
posted by おおおかとしひこ at 19:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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