執筆現場目線から、ストーリーを考えるシリーズ。
今日は、「持つ」か「持たないか」という話。
「持たない」とは、要するに退屈しているということ。
詰まらなかったり、だるかったり、眠かったり、
ぐだぐだだったり、分かりにくかったり、想像して楽しめなかったり。
「持つ」とはその逆。
面白かったり、興味深く集中していたり、目が覚めるような衝撃を受けたり、
展開の妙に唸ったり、感心したり、関心が継続していたり、
色んなことを想像して楽しみながら、
見ている状態のことだ。
それは、あなたが、ではなく、
観客が、ということである。
あなたが楽しい楽しくないとかは、どうでもいい。
観客が、今退屈しているのか、集中しているのかを、
あなたが把握しなければならない。
うまいこといっている状態では、
あなたも、観客も、持つ状態が続く。
滑っている状態では、
あなたが楽しんでいても、観客が持っていない。
その判断を間違うと、
滑った作品になる運命にある。
じゃあ、どういうのが持ち、どういうのが持たないかは、
あなたがどういう観客経験があるかで決まってしまう。
あなたが持つと観客として判断すれば持つし、
あなたが持たないと観客として判断すれば、持たないということ。
以前少し議論したけど、
受け手として面白いものを作るべきであり、
受け手として面白くないと思うものを、受けると勘違いして送り出すことを、
するべきではない。それは滑るからである。
さあ、何が、「持つ」のだろう。
緊張の持続をさせるには。
1. 謎をつくること。
2. 感情が平熱でないこと。
3. 危険や異常があること。
4. 緊張しすぎたらほぐすこと。
あたりがコツだろうか。
1. 謎をつくること。
この人の目的は。謎の微笑みの意味は。
何故お前がここにいるんだ。殺したのは誰か。
一体何狙いなんだ。
そのココロは何か。
それが強烈な興味を引いているとき、
観客はその謎の答えを知りたくて、持つ。
その謎が簡単に解けるとしらけるし、
その謎ときが矛盾があればむかつくし、
その謎がいつまでも解明されないなら、むかついて放り出す。
この辺のさじ加減は、能力というより才能のような気がする。
適度な謎、適度な展開、適度な謎解きをせよ、としかここでは議論しようがない。
物語が始まった当初は、
これはどういう世界なんだろう、という謎を大きく出しながらも、
これはこういう世界なのだろう、という小さな答えを用意する。
そのあと、それを裏切って、それだけではない、もっと深いぞ、
と思わせれば、食いつきがあるだろう。
そういう意味では、謎で釣るのである。
2. 感情が平熱でないこと。
笑ったり、泣いたり、辛かったり、怒ったり。
激しい感情はそれだけでドラマチックである。
何故そういうことになったかという事情もドラマチックだし、
その次の行動もドラマチックになりうるし、
その後の結果もドラマチックになるだろう。
平穏無事なストーリーはない。
ストーリーとは、登場人物たちが、
とんでもない感情に放り込まれ、
なんとかして平穏無事な日常に帰還するまでを描くものだ。
もちろん、部分的に落ち着いたり、
感情が色々変化していって、話は続いて行くのである。
3. 危険や異常があること。
危険や異常がおこること。
それだけで観客は緊張する。
2の尋常でない感情も伴うだろう。
困ったら、危険な状況に追い込め。
登場人物は、必死になるだろう。
逆に、危険もないことを淡々とする話は詰まらない。
「朝起きて、会社に行き、詰まらない仕事をし、帰宅する」はストーリーではない。
「朝起きて、会社に行ったら、会社が倒産した」とか、
「朝起きずに死んだ」とか、
「朝起きて、会社に行く途中、電車がUFOに攻撃された」
などがストーリーである。
4. 緊張しすぎたらほぐすこと。
人間はずっと緊張していられない。
しんどい。
だから、緊張がマックスになったら、ほぐすのがいい。
笑いによって緊張をほぐすことをコメディリリーフといい、
その笑いを起こす人のことも指す。
(アメリカ映画では、黒人か身分の低い者に決まっている。
アナ雪では、オラフがその役割だ。
ジャージャービンクスは、その役割をCGにやらせた)
日本ではその暗黙ルールはないので、好きにやってよい。
笑いではなく、安心でやるパターンもある。
ホラーでは、追いかけられたあと、一瞬安全な場所へ避難する。
ホッとしたと思って窓を開けたらうわあ!という、緩急が、
緊張と弛緩をつくり、次の緊張へ観客を導くのである。
緩急は、これも才能だろうね。
ストーリーテリングの上手さは、こういうところで出ると思う。
最近批評を繰り返している、「ファイアパンチ」だが、
僕が作者が未熟だと思うのは、
謎と危険ばかりで、話を持たせようとしているところである。
その先は、矛盾だらけの答え合わせしかないのにね。
もし矛盾なき見事な結末になるのなら大歓迎だが、
もはや原作「進撃の巨人」がうまく解けなさそうな所を見ると、
あまり期待出来ないかもね。
「ファイアパンチ」が化けるとしたら、
主人公アグニの「感情が分かったとき」ではないかなあ。
復讐以外の感情がだ。
さて、これらの議論は、
数シーン単位での現場目線の考えである。
ストーリーを作るということは、それ以上の高さでも、
ものを考えておかなければならない。
つづく。
2016年05月18日
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