2016年05月24日

期待に答える

現実ではとても難しい。
何をどれだけ期待されるか把握することは、
勘みたいなものがいる。

失敗した記者会見は、期待を読みきれなかったことによるものだと考えると、
いかに期待を読みきることは難しいか分かるというものだ。

ところが、物語においては簡単だ。
焦点への誘導こそが、
物語のほとんど表面上やる全てのことだからだ。


ファイアパンチが何故ここまで詰まらないかというと、
焦点を誘導しきれていない下手さがあるからである。

焦点を設定するには簡単だ。
疑問や謎を出せばよい。
それが衝撃的で、強い謎であればあるほど、
誘導はうまくいく。

その謎を知りたい、という願望を生み出せるのである。


ファイアパンチの6話までは、
強烈な謎を沢山提供した。
しかしながら、うまく解決した謎はひとつもない。

「謎を出して、解決させてスッキリさせる。
ところが、解決したことで余計謎が増える」
が理想の連鎖である。

たとえばサンがレイプされかかった、
を焦点としておきながら、
アグニが助けるでもなく雪崩でうやむやになってしまった。

妹にソックリな女が出てきながら、
その正体はスルーでうやむやだ。

解決しない謎だらけで、もういいや、と飽きてしまうのである。

普通は、
サンはアグニに守られるのか?→見事守った!
妹に似た女が?→実は生きていた!/ソックリなだけだった!
などのように、
焦点(謎)をふったらそれを解決すべきである。

それがひとつもスッキリしないから、
ただ振り回されているような感覚になるのだ。
それは、いずれついていけなくなり、
作者の独りよがりにしか見えなくなる。
ついていけないというのは、その先に興味を失うということである。

謎の解決は、それなりにカタルシスのある山場、見せ場が訪れるものだ。
従って前記事の内容を、いま、裏から議論していることになる。


前ふったことは解消しよう。
それは、期待に答えることだ。
期待に答える人を、人は応援するもの。

期待に答えたくせに、なお新しい謎をふり、
次にもっと引き付けていくのが、
ストーリーを紡ぐという行為である。

ファイアパンチの作者は、それが出来ていない。
謎を出しては肩透かししすぎ、
いつまでたってもストーリーの歯車が始動しない。
目の前で何かが起こっているのに、
解決しないことだらけの展開で、
イライラするだけで、
どんどんこの作者への信頼が下がって行くのみだ。
つまりは、それは詰まらないと言われることなのである。
(穿った見方をすれば、作者は期待をわざと外すことを、
中二病的にカッコイイと思ってやってるかも知れない。
それは、期待にうまく答える実力がないことを隠す手段の可能性がある)


期待させることと、期待に答えることはペアである。
これを繰り返して、ストーリーは面白くなって行く。
あなたは、それを使えるようになってほしい。
posted by おおおかとしひこ at 01:09| Comment(3) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
謎の連鎖について質問なのですが、
解決せず伏線として残しておく謎の数は、
大体いくつくらいまでが人間の興味を損なわないのでしょうか?

自分的には大岡監督の
人は「ひとつ、ふたつ、いっぱい」
までしか覚えられない持論が腑に落ちたので
だいたい2〜3くらいまでに留めておくのが
いいのかな…と感じております。


あるいは、謎の数よりも
「謎が見る人に提供されてから解決されるまでの時間」
のほうに目を向けるべきでしょうか?


うまい焦点の誘導方法のやり方について
大岡監督のご意見を聞かせて頂けると幸いです。


Posted by KYKY at 2016年05月24日 09:32
人間一般のことを考えるときは、
自分の無意識に聞くのが適当です。
(ずれて間違った感覚を持たないために、沢山見るのです)

すごい興味を持てれば一個でも持つ
(たとえばジュラシックパークは、
「恐竜から逃げる」の一点押しでした。
恐竜というものがはじめて映像で可能になったから。
CGがポピュラーになった続編以降は、
この一点押しではキツかった)。

まあまあなら2、3個かも。
どうでもいいなら何個あろうがどうでもいい。

強弱、火急度合いは色々あったほうがいいでしょうね。
「スパイ事件の解決」というセンタークエスチョンに対して、
「崖から落とされそうになる」(果たして助かるのか?)
なんて展開はいくらでもあるものです。
「しかしその瞬間、崖の隣で小便しているガキがいて、風にのって小便がやって来る」が増えるかも知れません。

面白く、緊張や興味が保てれば、連鎖を組む(風が吹けば桶屋が儲かる的な)ことも全然可能です。

自作ですが、ドラマ風魔12話のストーリーラインの複雑さは、
かなり多いですが滅茶苦茶楽しんで見れますよね。

面白ければ、人は必死で理解してついてくるものです。
時々、今何が問題なのか、整理する場面があると更にお得。

複雑なミステリー、
たとえば「ドラゴンタトゥーの女」は退屈なのに、その元映画「ミレニアム」は全然面白い。
その違いを研究すると、何かわかるかも。
(元映画は焦点を謎解きと恋愛のみに絞っていて、リメイクはどぎつさに焦点がぶれてると予測。
ラストのキュートさも、焦点の絞り方で違うかと)
Posted by 大岡俊彦 at 2016年05月24日 10:02
ご返信有難うございます。

数とか解決にかかる時間とかよりも
謎そのものの面白さという
本質的なことを見落としておりました。

また強弱、火急度合や問題理場面についても
あまり今まで意識が回ってなかったので
そのあたりを強く意識しながら
映画を見てみようと思います。

質問に答えて頂き、
どうもありがとうございました。
Posted by KYKY at 2016年05月24日 11:18
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