僕が何より驚いたのは、
エンドロール、監督が最初で、
次に脚本チーム、という順番である。
キャストがそのあとで、
アニメーションチームはそのあとだった。
これが素晴らしい映画を作るのに、
最適な人員の配置順だと思う。
なんだろ、
素晴らしいものを作るには、
この順番がベストだと分かってる奴らが作ってる感じ。
日本映画は?
キャスト→製作委員会→技術部(脚本はその中の一人)
→色々あって、〆は監督。
(よく日本の監督は、美味しい所を食い散らかされたあと、
最後の肛門扱いだと自虐する)
(以下ネタバレ)
主人公の逆境の作り方が素晴らしい。
初手からキツネにやられて傷を負うこと。
肉体的なハンディでバカにされ、
切符切りしかやらせてもらえないこと。
人種差別にあえぐキツネを助けたと思ったら、
詐欺師だったこと。
初めての警察官ぶりが、空振りに終わったこと。
そして、
48時間以内に解決しなきゃいけない、
無茶ぶりをされること(ここ第一ターニングポイント)。
私たちは感情移入を、ここで殆ど終わっている。
感情移入に重要なことは、
・子供の頃キツネにひどいことをされたこと。
・親ばなれの瞬間。
・大都会へ行くワクワク(開始15分にメインテーマを持ってくる、
ディズニーの定番演出)。
・部屋がダメ。
・キツネにアイスの件で騙されたエピソード。
・切符切りの一日のあと、親へ「思い通りのことが出来たか?」
と聞かれ、嘘をつくこと。
・そして首をかけさせられる無茶ぶり。
などの細かい積み重ねが、いちいちいいことだ。
(特に彼女の目の芝居が素晴らしい。
人間の眼球は、ずっと一点を見ていられない。
見るのに必要な化学物質を一定時間で消費し尽くすからだ。
そこで眼球が自動的に急激に動いて、
黒目の別のところで視覚を維持する機能がある。
サッカード眼球運動だったかな。
それをきちんと再現していて驚いた。
プラス瞬きや表情筋、眼球の濡れの維持などの、
巧みな技によって表情がとても生き生きしていた。
だから彼女の悲しみや怒りや失望が、
とても良く伝わってきた)
理想に燃える若者が、
現実に出会って挫折する。
ここまでの一幕で、私たちは彼女と視点を同一にする。
凄くうまい。
日本映画なら、作者の鬱を聞かされるところだ。
そんなの関係ない、全ての新卒経験者がうなづけることを、
とても鮮やかに描く素晴らしさ。
脚本の教科書のような一幕だ。
第一ターニングポイントの無茶ぶりを経て、
二幕でだれないのもとてもいい。
日本映画なら、すぐにどうしていいか分からずに、
迷路に入ってしまうところ。
主人公がなんとしてでも行動しなければならない理由を上手く作っている。
前には、「今まで一度も警官としての仕事をさせてもらってない」ことと、
後ろに、「無茶ぶりをクリアしなければ、首」
の双方を作ることで。
これによって、主人公は行動せざるを得ない。うまい。
あとは、濃いキャラたちの見世物を楽しむだけだ。
キツネやマフィアのドン(とその孫)を上手く使い、
ジャガー運転手の野獣化へと話を大きくする。
アクションを上手く使っている。
(吊り橋効果で、恋の発生も描く。
そのあとの秘密の共有が、恋の秘訣であった)
ナマケモノ、最高だったね。
一端元病院に侵入、お手柄を立てたところがミッドポイント。
最高(お手柄、キツネと心が通じあう。
ニンジンのペンが最高だ)から、
最低(偏見による差別発言)への王道も効果的。
これらの動物たちは、動物が楽しいのではない。
人間の風刺になっているところがポイントだ。
ライオン市長(勇ましいが、悪だった。さらに再逆転して王者に返り咲くが)
水牛署長(バカな上司の象徴。あとで眼鏡をかけ、知性を回復しているのが良かった)
食い過ぎのバカを象徴する受付(ドーナツについてるチョコをこぼしたり、
アプリで遊んでいるバカっぽさがかなりリアルだ)、
スリしかしない小悪党のイタチ、
陸運局のナマケモノ(ジョークを隣に言うのが最高)。
一見従順で御せる見かけなのに、
最も悪い羊たち。
誤解を受けるけど、現実で傷ついた故に本心を明かさないキツネ。
(スタンドバイミーの、リバーフェニックスと全く同じストーリーだ)
これらの人間風刺が素晴らしく効いているお陰で、
私たちは、これは子供の見るものではなく、
大人を揶揄していると読み取ることが出来る。
「次はどんな動物かな?」なんて子供番組ではなく、
「随所に出てくる風刺を楽しむ」という大人の楽しみ方で、
構えて見ることになる。
それもこれも、筋(カワウソ行方不明事件の裏には、
14人の行方不明事件があり、
それは野獣化した謎があり、
市長がラスボスであった(のちにどんでん)、という、
一連の無茶ぶりからの大勝利)
ミッドポイントで、仮初めの大勝利から、
一気に転落させるのはとてもうまい。
ニンジンのペンという小道具を上手く使う。
録音機を兼ねてるので、二回使える小道具なのが上手い。
(スマホに録音させないのが上手い。
あと、スマホで録画中に親から電話かかってきたのは、
伏線が効いてたね。
伏線のコツは、以前使った凄く良かったこと(親からの電話に嘘をついたこと)
を、別の文脈で再利用することであった)
ボトムポイントも上手い。
田舎へ戻り、子供の頃に傷つけられたキツネと和解後、
野獣化の花に気づくこと。(言うまでもなく麻薬のかわり)
キツネと再会し、
自分の胸のうちを吐露すること。
(舞台装置で橋の下を使っていることに注意。
ボトムポイントは、死の気配があるのだった。
洞窟は死の象徴であり、膣の象徴でもある。
そこで死を迎え、橋の下という洞窟から出てくることで、
生まれ変わる、という神話構造を利用している。
今さら古典的だけど、効果的だった。
彼女が生まれ変わったあとは、
橋の下の影から出て、日の当たる所に立ち、 そこにキツネがいたことも象徴的だ)
ここから、多分僕の言う「7分半の悪魔」ポイント。
羊の麻薬生産現場に潜入〜電車アクション〜爆発炎上が、
多分7分半と予測。
シーンシークエンスと呼ばれる、長い集中ポイントだった。
第二ターニングポイントは、
「美術館を近道すれば警察署」だ。
ここがあまり上手でなかった。
オイオイ、ファイナルステージに無理矢理誘導したな、
と僕は苦笑いしてしまった。
ラストのキツネ野獣化→ブルーベリーでした、
は、絶妙な難易度だ。
というのは、
「全員が、ブルーベリーにすり替えたでしょ?
いや、本当に野獣化するかもと、迷う」
という半々ぐらいにコントロールされていたからである。
ブルーベリーの伏線の引きかたが上手い。
農場で初出、
キツネにわざわざ「ニンジン以外も作ってるんだな」
と言わせておく。
撃たれたあと、
「あの青いの、ブルーベリーじゃない?」
と、殆ど誰もが気づかせるように誘導している。
「そうだよ!ブルーベリーで野獣化のふりをしてるんだ!」
と観客が気づいたあとも、
野獣化(の芝居)を続けて、
「ブルーベリーじゃなかったらどうしよう?」
と思わせるまで引っ張るのが、絶妙だ。
ブルーベリーだぜ絶対!→そうじゃなかったら?→やっぱりブルーベリー!
という二重のどんでん返し。
脚本の職人芸だと思った。
脚本にしか出来ない、面白さであった。
テーマの構造も素晴らしかった。
次回に書く。
2016年05月30日
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